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「退路を断つ」の本当の意義

世の中には、矛盾する言葉があふれかえっている。

「一石二鳥」
「二兎を追う者は一兎をも得ず」

中学受験で四字熟語やことわざを勉強していた私は、この2つの言葉でさっそく混乱した。

「え?二兎を追うと一兎をも得られないって言ってるのに、一石で二鳥得ることはできるの?」

賢い人は混乱なんてしないのかもしれない。でも私のような、人の言葉を真に受けすぎてしまう、鈍くて不器用な人は、矛盾に遭遇するとその先に進めなくなる。一生懸命考えて考えて、情報を整理してからでないと、飲み込むことができない。腑に落ちないままで終わってしまう。

とはいっても、小学生の私には考える力なんてそんなになくて、とりあえず、「物は言いようだ」という腹落ちのしかたをした。

ちなみに、反対の意味を持つとされることわざや四字熟語の矛盾を、今ではいくつか説明できるようになっていることに気づいた。
先ほどの例でいうと、こういうことだ。
「二兎を追う者は一兎をも得ず」の意味は、実力以上のものを得ようというよこしまな思いでいると、得られるはずのものすら得られない、という意味だ。二兎を追う者は、最初から二兎を得るつもりで二兎を追っていた。一方、「一石二鳥」は、もともと一鳥しか得るつもりのなかった人が、たまたま二鳥得ることができた、そのようなラッキーさを表す言葉だ。なので、「一石を持って一鳥を追いかけていれば二鳥得ることができる」、すなわち、「自分の実力に見合ったものを得ようと思っていれば、実力以上のものが得られる」という意味ではない。
つまり、厳密にいえば、「一石二鳥」は「二兎を追う者は一兎をも得ず」ということわざの反対の意味を持つものではなかったのだった……!反対っぽいだけじゃん。これってもしかして常識?

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さて、私が最近出くわした矛盾たっぷりの言葉は、これ。

「何かを成し遂げるには、退路を断つことが重要」
「退路がないと心をやられるから、退路を準備しておくことも重要」

起業家さんたちのインタビュー記事などを読んでいると、このような言葉によく出会う。私は長く司法試験の受験勉強をしていて、このような言葉によく踊らされていた。「他の就職の道をゼロにしてしまった方がやる気が出るのではないか」「いや、そんなことしたら精神的に参ってしまう。他の道もある、とおおらかに捉えて頑張ってみよう。」そんな風に毎日毎日揺れていた。
しかし、これではどうも前に進むことができない。だって腑に落ちてないから。

ずっと心のどこかでこの矛盾を抱えていたのだと思う。いろんな人に話を聞いて、この先の生き方を考えていたとき、ふっと答えが降りてきた。

「退路を断つ」の本当の意味は、他の選択肢を物理的に切り捨てることではない。
まずは、冷静で合理的にきこえる周囲の声や世間の声をしっかりシャットアウトすること。そして、自分の心の声、小さな小さな心の声にきちんと耳を傾けて、それを拡声器にかけること。
つぎに、他の選択肢を洗い出すこと。できうる限りの情報収集をして、熟考に熟考を重ねて、ひとつひとつの選択肢にきちんと理由つきの「No」を突き付けること。
そうして、選び取ったひとつの選択肢への迷いをゼロにすること。選び取った選択肢を正解にするべく、努力していくこと。

でもね、忘れないで。悩んで、努力して、仮にその選択肢を正解にできなかったとしても、その先にあるのは死ではない。それに、どんなに落ちぶれたとしても、丁寧に選択肢を選びとり努力してきたあなたを、誰も責めることはできない。あなたは、苦しみながら選んだ他の選択肢を正解にすべく、また努力していけばいいだけ。

それが、起業家さんたちが本当に伝えたいメッセージなのではないだろうか。

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賢い人には当たり前すぎるのかもしれない。でも鈍くて不器用な私にはかなりの時間を要した、これが、やっと辿りついた私の答え。

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