アキノコエ(Recursing Light)の二次創作のお話(修正前)


このお話は、M3-2020秋に、 kalligulauphさんから頒布されていた「アキノコエ」というシングルの「Recursing Light」という曲の二次創作の文章です。以下はクロスフェードとDL版です、ちょっとでもピンときたらぜひ。



―――――――ああ。

やっと、やっともうすぐで、"きみ"に会える。そう、思うだけでひやりとした空気とは反対に胸が高鳴り、体温が熱くなる。
暗い箱の中でリボンをなくさないように指にしっかり絡ませて握る。

目を閉じて、眠りに入るまで"きみ"のことを思い返しておこう。目を開けた時に、あの日のように笑えるように。

忘れもしない。今でもハッキリと思い出せる。あれは10月のことだった。

もう10月だというのに、うるさく鳴く蝉。その場にいるだけでジワリと汗がにじむ気温だった。

部屋に帰ると、私の部屋なのに当たり前のように知らない女の子がいたのだ。
長く、黒い艶やかな髪をしていて、墨を溶いたような透明な黒の瞳が印象的だ。大和撫子を絵に描いたような姿をしているのに、和装をしていないのが少し残念だ。

その容姿に見惚れていると、「ミライから来た」なんて言われた。あまりにも異質な状況すぎて、おかしな話だって自分でもわかってるのに、なんだか当たり前みたいにわたしは受け入れてしまった。

「ところで、暑くない?」

彼女の髪を櫛で梳き、後頭部で一つに結んであげる。いわゆる、ポニーテールというやつだ。
なにもしていないのに汗をかくような気温だ、暑くないわけがない。「首元を冷やすと体感温度も変わる」そう、この間、誰かに聞いたような気がした。

本当は、そんな話は言い訳で、彼女の髪に触れたいと思ってしまったからだったのだが。
思った通り、手で梳くとサラサラとこぼれ、ほのかにシャンプーの残り香がした。ミライから来た、だなんて言われてなければ、なんのシャンプー使っているのか聞きたいくらいだった。

とりとめのない話を二人でたくさんした。まるで、昔からの友人のように、あるいは仲の良い姉妹のように、会話に花が咲き、気が付けば夕日が傾き、彼女の頬を微かに赤く染めた。

――――――――中略

ああ、今日があっという間に過ぎていく。もう真夜中になってしまった。
部屋には2人だけ。このまま時が止まってしまえばいいのに。

グラスのコーヒーの氷が溶けていきカラン、と鳴る。

言葉もなく、肩を寄せ合ってお互いの体温を感じる。ここにきみがいたことを忘れないために。


次の日の朝、まるで、それが普通かのように彼女はいなくなっていた。

「必ずまた会えるわ」と彼女は言っていた。私はそうは思えなかったが、この日々を生きるためにはそれを信じるしかなかった。ミライから来た彼女のいう言葉だから、信じた。

始めは恋焦がれるように、1日1日を数えて過ごした。彼女のことを待っていた。
でも、1年、5年、10年と再会を待っている間に私は悟った。"ミライ"とは途方もなく遠い未来のことなのだと。

冬になったら行こうなんて、彼女と約束したユメとマホウの国は、とうになくなってしまった。でも、彼女が欲しがっていた宇宙人の柄のリボンは手に入れておいた。また、彼女の髪を結わってあげるために。

私が今いるこの宇宙船は、とある実験のための施設だ。
今の時代を生きる人類を遠い未来まで、生きたまま保存しておく装置、とでもいうのだろうか。
宇宙で過ごすことによって地球と違う時間を過ごし、さらに昔のSF映画なんかで見た、いわゆるコールドスリープをしておくらしい。
詳しい原理は私にはよくわからなったけれど。

私は迷うことなく応募した。彼女にまた会えるなら、どんなことだってしようと思ったのだ。

ああ、早く"きみ"に会いたい。
1周でも早く地球が回ってくれればいいのに。

早く、君のいる時間まで。


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