#伍 僕は宮崎よりも押井を選ぶ

貴方は気になる映画を探す時、何をその検索材料としていますか?
俳優、監督、声優。あるいは主題歌や劇中歌...。といった具合に人それぞれであろう。
僕には押井守(おしい まもる)監督という大好きな(と言うのもおこがましいが)アニメ映画監督がいる。今回は彼の作品に関するお話だ。

彼の有名作品と言えば「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」「機動警察パトレイバー」シリーズや「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」などが挙げられる。貴方も1度は聞いたことのあるタイトルだと思うが、特に「攻殻」に関して言えば当時最先端のCG映像が世界的にも高く評価され、後の大ヒットSF映画「マトリックス」にはこの作品を参考にした映像表現が多用されている。
彼の代表作が「攻殻」なのは否定のしようがないが、僕が押している作品は「機動警察パトレイバー the Movie」(パト1)及び「機動警察パトレイバー2 the Movie」(パト2)である。

『パト1』はTVアニメ版「機動警察パトレイバー」の放送開始に先駆けて封切られた劇場版第1作である。汎用型ロボット「レイバー」が様々な分野で活躍する近未来(制作された1989年の10年後、1999年)に、警察向けレイバー「パトレイバー」に搭乗する若き警官・泉野明(いずみ のあ)や篠原遊馬(しのはら あすま)の活躍を描いたアクションものだ。
当時はまだインターネットが普及していなかったにも関わらずこの作品は「サイバーテロ」をテーマに取り、現在に至るまでの高い評価を獲得した。また、突如失踪したプログラマーの行方を追うべく、東京の下町で捜査を進める刑事ドラマ的要素も含んでいる。
ロボットアクションと刑事ドラマを同時に扱うだけでなく、目に見えない敵との戦いをも描いた本作は当時の人々にとってあまりにも斬新だったであろう。現代を生きる僕らにとっても同じだ。
僕の個人的な話だが「E.HOBA」とか「BABEL」とか「方舟」など、作品の要所に聖書をモチーフとした暗号や用語が登場するのはポイント高し。

一本、2作目にあたる「パト2」のテーマは「仮想戦争」である。
横浜ベイブリッジが何者かによって爆撃され、実は自衛隊の仕業ではないか?と疑われるという事件を皮切りに国内で様々な混乱が始まる様を、前作主人公の上司である後藤喜一(ごとう きいち)分隊長の視点から描いた政治・軍事色強めの作品だ。また、自衛隊のPKO活動や日本人の国防意識のあり方など、当時の社会不安を的確に風刺した社会派作品でもある。
アニメ史に残るレベルの名シーンが数多ある本作だが、特に突如レーダー上に現れた三沢基地所属の編隊が首都圏へ迫ってくるというシーンの演出は見事であった。事件の真相の明言は避けるが、緊迫した状況下での管制官と味方パイロット間のやりとりやそれにマッチした音楽が手に汗握らずにはいられなくさせる。結局、この騒動を警視庁が必要以上に重く見たために警視庁と自衛隊の泥沼の対立が始まってしまい、政府は更なる混乱へ陥ってしまうのだが...。
うわさ話に過ぎないが、このシーンがあまりにもリアルすぎるため自衛隊の研修の資料に使われたこともあるという。

最後に、彼の作品を評した有名な言葉を紹介しよう。
「宮崎駿の映画は100人が1回は見る。押井守の映画は1人が100回は見る。」
ぶっちゃけここまで読んできて、僕の文章の読みにくさを抜きにしても押井作品を面白そうだと思わなかった方は多いのではないだろうか。そりゃそうである。宮崎駿と違って、万人受けするストーリーじゃないのは事実だ。
だが、もし貴方が「面白そう」だと思ったのであれば...。しかも僕程度の文章で...。かなり危険な沼に近づいている、と警告しておこう。

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