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個展「西成」までの手記 その3

個展まで思ってることや展示の進捗などを書いていくシリーズその3です。今回は夏祭りのことを。

その1、その2は下のリンクからから↓↓↓


さて8月13日、釜ヶ崎夏祭りに行った。年末年始の越冬闘争は2回ほど行ったことがあるものの、こっちは実は初めての参加。3日間(+前夜祭)の予定が、台風のせいで前夜祭と13日のみの開催となった。

そういえば西成には、というか西成区のドヤ街(…日雇い労働者が多く住む街。簡易宿泊所がたくさんあってその「宿(ヤド)」を逆さにして「ドヤ」)のあたりは「釜ヶ崎」という呼び名があって、日雇い労働者の街という意味らしい。もともと「釜ヶ崎」だったのが昭和41年に愛隣という意味で「あいりん地区」改称されたそうだけど、地元民は愛称として「釜ヶ崎」を使う人が多いみたい。なるほど。

まぁ前置きはここまでにして、今回行った話を。

12:00ごろに開催場所の三角公園に行った。行列ができてて、見るとアジア系の外国人のボランティアだろうか、彼らがお弁当の配布を行っていた。
カンカン照りの夏真っ盛り、持って帰る人が多かった。

俺も日陰に入りたくて、でも木の下は先客で埋まっててどうしようかうろうろしてたとき、空いてるテントの下におじさん3人が喋っていたので俺も入らせてもらう。すでに3人で場ができ上がってるので少し距離を置いてぼんやりしてると、スキンヘッドのガチムチたち(…便宜上この呼び名ですみません…)がやってきた。どうやら顔見知りらしく、おうお久しぶり何しに来たんや?おっちゃんたちイジメに来たんや~とニヤニヤしてる。聞いてると岸和田から来てるようで、やっぱ大阪は違うなぁと思い知らされる。ガチムチたちは3人に酒を買ってきて、みんな気分もよくなってきた。

来客があったり酒も入ったりすると新参者も混ぜてもらいやすくて、俺も相づちを打ってみたりする。ガチムチたちがその場を離れると、おじさんたちはこっちを見て兄ちゃんは酒飲まんのか?いや~飲めないことはないんですがすぐ酔っ払っちゃうんですよ…と返すころにはさっきの缶チューハイをもう空っぽやでと言わんばかりに飲み干してる。ひとりのおじさんが買うてきて言うとるんちゃうで~、とか言ってるんだけど、そんなんされたら俺も飲みたくなってきて4人分まとめて買ってきた。

ひとりは普段は近くの施設に住んでるらしいけど、三角公園が好きでよくここに来るらしい。どっから来たんや?今住んでるのは豊中すけど、地元は九州の佐賀です。お、兄ちゃん今地元を言うてくれたなぁ!と手を差しのべてきて握手。西成に住んで長い人であっても地元を大事にしてる人のことが好きなんだそう。ひとりは愛媛から来てるそうで、この前も長崎から来た人と話したけど、西成はいろんな所から人が集う場所で、握手おじさん曰く「西成は終着駅や」とのこと。

握手おじさんと愛媛おじさんは68歳の同い年で、怒鳴り合いながらもそれがいつもの調子と言わんばかりにずっとじゃれ合っていた。帰れ!もう帰るわ!とか言ってもずっと喋ってて、酒が少なくなるとお前の方が多いやろと奪い合いながら酒を飲み合ってる。愛媛おじさんがラキストに火をつけると、こいつは煙草吸わんのよ、と握手おじさんは昔料理人だったそうで、煙草を吸うと料理の味の微妙な違いが分からなくなるらしい。

兄ちゃんは前科はあるんか?と唐突に聞かれたりもする。ここではそれが当たり前なんだろうか、少年院くらいやったら入りやすいんとちゃうか?まぁまだ若いから刑務所入ってきいやなどと言われたり。

せっかくだし写真を撮らせてもらおうとすると、もうひとりの文庫本片手に寡黙だった髭じいが俺は写真はあかん。魂が奪われる。ときっぱり断られた。髭じいは三角公園にいて長いらしく、みんなにボスと呼ばれて慕われてるらしい(愛媛おじさんだけが「髭じい」と呼んでる)。俺はみんな知っとる、ここに来る人、住んでる人。いつもあの木の下で何人かといるからまた会おうや、となんだかんだで嫌われたりしたわけではなかったので一安心。

このときの様子を西成フリーダムアカウントにアップされてた。奥に口元だけ写ってるのが俺。髭じいはちゃんと自分の魂を守ってるのか、左の方にいたけどフレームからは外れてる。ちなみにこのアカウントに関しては、自分もキャンディッドを撮る身なのでとやかく言える立場ではないんだけど、やっぱりステイトメントが大事なんやろうなとは思う。(あ、全然関わってないよ、一応)

愛媛おじさんが帰ろうとするとまた別のおじさん(ヤマちゃんの誕生日のとき少し話した)がやってきて、なにやらよく分からなかったけど口喧嘩が始まってしまった。これはじゃれ合いではなくガチの喧嘩みたいで、向こうの友人や夏祭りのスタッフの方も止めに入ったりする始末。引き離されると、車椅子に座ってるのに握手おじさんは逃げるんか!ビビっとるんか!ととにかく喧嘩っ早い西成の人たちだった。

その後、止めに入った向こうの友人のひとりといや~仲裁も大変よねと愚痴り合うことになったりした。俺さ格闘技やってたからさ、まぁ喧嘩したら絶対勝てるんよね、とめちゃくちゃ太い腕の力こぶを見せてくれた。煙草吸いながら座ってると、ラッパーのベルのことをよく知ってるみたいな話になった。まぁバトル界隈では知ってる人もいる、くらいの知名度なんでここでは省いとく。

横須賀出身で、西成に来てまだ一年も経ってないらしいが、路上で飲んだりしていろいろ知り合いが増えてるところだそう。以前はそのベルのお父さんのところで働いてて、その人もヤンキーみたいな人で…とそれ以上詳しくは聞かなかったけど、西成に来てる人はなにかしらがあるんだろう。俺酒買ってくるよ、と言って彼は立ち去っていった。

夏祭りは出店もあって、しかもめちゃくちゃ安い。鹿の炭火焼き2人前を100円で買って、さっきの3人がいたところに戻った。68歳組はさっきので腹を立ててもう帰ったらしく、髭じいと髭じいを慕ってる人がいた。鹿肉を差し出すと髭じいはありがとうと食べ始め、その慕ってる人はボソッと兄ちゃん酒買ってくれへん?と言う。すると髭じいは、すごい剣幕で乞食はやめろ!と怒鳴りつけた。慕ってる人はしゅんとしてしまって、俺は後で買ってきますんでとこそっと耳打ちしてやり過ごす。人の善意は有り難く戴くけど、それを自分からお願いするのは違うってことなんだろうな。

そうしてる内にどんどん人も増えてきて、いろんな人がやってくる。女性がくると髭じいはおっぱい大きいなぁ思たらデブだわな、あっちはちょうどいいわなどとドスケベ最低な一面も見せてくれた。車椅子のおじさんが来ると、あいつは去年までは毎日喧嘩しとったのに今はあれ(車椅子)や、マンガみたいやな、とさすが三角公園にいる人全員を知ってるのは確かなようだった(と思いたいけど、ホントかどうかよう分からんのも西成って感じ)。

…1時間かそこらのただのエピソードでわりと分量使ったので、この後のは写真と合わせてざっと振り返っていこう。

公園のステージ前にはシートが引いてあって、のんびり演目を見れる

釜ヶ崎芸術大学という市民大学の人らがやってる毛筆のコーナーがあった。

この日は夜勤明けで仮眠もせずにこっちに来て、この時点で酒は2杯飲んでて正直何も考えられないただの酔っ払いになっている。書いていきませんか~との誘いのままに筆を握って、なに書いたらいいと思います?と聞くとなんでもいいですよ~自分の言葉を書いてくださ~いと言われるので、そのまま自分の言葉?と書いてしまったらしい俺。

中央→左→右という謎の順…

隣のおじさんがスマホを見せながらなにを書いたらええかな?と聞いてくる。どうやら何かの歌詞らしい、「楽しい会話」という文字が目に入ったのでそれをすすめといた。
途中まで書くと、ほい続き書いてと筆を渡された。またもなにを書けばいいか困ってる俺、言葉は自分で考えるものである。と空っぽでスカしたことを書いてしまってる。恥ずかしすぎるだろ。

このおじさん、小筆でずっと書いてた
なんで夢って書いたんですか?との問いに夢なんてないからや!と答えるおじさん

家族連れも多く、枚方から来たという親子もいたり。

Tシャツによると「○○がき」だそうで

今年初のスイカを食べたり。

無料で配ってた

セールストークに負けてたこ焼き食べたり。

6個300円だけど3個オマケしてくれた

この前撮らせてもらった兄ちゃんに写真をあげたり。

コンビニプリントで申し訳ないけど、写真現物をもらったのは初めてとのことで喜んでもらえた

チワワを飼ってるおじさんと話したり。

東京出身で、25,6歳でこっちに来たんだそう

夕立食らってびしょ濡れになったり。

テントの中でぎゅうぎゅう詰めで雨宿り

いろいろあって楽しいお祭りだったけど、やっぱり盆祭り。この一年で210名の方(アナウンスでは「仲間」と呼ばれていた)が亡くなり、その全員の名が読み上げられた。
中央には亡くなった方の写真も掲示されていた。亡くなった人の写真を彼らが生きた場所で見るというのは、ネットや本で見る故人の写真とはまた違った印象を受ける。亡くなった人と同じ環境で現に暮らしている人たちと話したり写真を撮ったりしていると、彼らの「生」が地続きになっていることを強く実感したりした。

こけしとポストカードは持ち帰りOKだった

慰霊祭が終わるとしばらくして盆踊りが始まった。

子連れの方も多い
輪の中央で爆速で踊ってた兄ちゃんたち

実は盆踊りというものに参加したことがなく、他のところがどんな感じなのか全く知らないんだけど、円のスピードに全く追い付けてないおじさんがいたり、とりあえず手叩いてるだけで参加してる人がいたり、でもみんな楽しそうに踊っていた。眺めてると外から写真撮ってるのもつまらんくなってきて、俺も輪の中に入っていく。そもそも運動神経がない上に疲れもあってぎこちなくワタワタしながらも、なんだかんだ1時間くらいみんなと踊っていた。

案外楽しかったね

終わりに今年の夏祭りは今日で打ち切りとアナウンスされ、また来年ということになった。年末年始の越冬闘争に比べると夏祭りは老若男女/西成内外からも人が多く、なんならテレビの取材まであってわりと西成に行きやすいタイミングだと思う。来年はみんなで行こう。

ということで、行ったことのなかった夏祭りにも参加し、とりあえず今回はここを区切りとして、これからは展示に向けたZINEのセレクト作業に入る。そちらもぜひ楽しみにしててください。それではまた。

鷲﨑雄一写真展「西成」展示情報
会期:9/16,17
会場:アートギャラリー ヒルズワン (大阪府豊中市本町6-1-1 2F 阪急宝塚線「豊中駅」から徒歩8分
※入場無料

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