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ボンボヤ - Uptown shit 03

寝坊してしまった。深夜に及びダラダラとパッキングした挙句、せんずりをこいてしまったことが元凶であろう。しっかり不動産屋とのカギの受け渡しの約束に遅刻してしまった。

旅立ちの日。
見慣れた名古屋駅の景色を通り過ぎて、淡々と改札へ。
荷物が重かったため、感傷と激情に浸ることなく、
青年を乗せた新幹線は東京へ向かう。

暑い1日だった。

新居に到着するも、おびただしいダンボールの数を目の当たりにし、すでに疲労が一定値まで達してしまった。
特に安堵感は無く、汗でベトベトになりながら作業を進める。
この日初めて口にしたのは、一服のお供に買ったピンク色のモンスターだった。
冷蔵庫も設置しておらず、バルコニーに置いたままにしたモンスターはすぐにぬるくなってしまっていた。

徒歩圏内の松屋で牛丼を流し込み、作業へ戻る。
同じクルーのマイメンが餞別でくれたアマギフで買ったスピーカーが、良いBGMを流してくれていた。

この日は夕方からマイメンと会うことになっている。
東京移住を1番始めに宣言したマイメンだ。
再会のよろこびも束の間、マイメンはイキって履いたローファーで靴擦れをおこし、痛い痛いと連呼していて少し鬱陶しかった。

セリアでサンダルを買ってもらいフットワークを再び手にした彼は、さすがのビジネス偏差値と豊富な引っ越し経験、想像より遥かに助けになった。
しれっとこうして助けてくれるのは本当にありがたい。

共にバルコニーで一服したのち、居酒屋を探し歩き回る。
感じの良いところにピットインする。
炙り明太子を注文。

様々な疲れが溜まっていた自由業生活終盤、
開高健先生の動画で
"明太子でもつまんどきゃいいのっ"
っていうフレーズを聞いて毎日を乗り切っていたものだから、美味しさはひとしおだった。

マイメンとレモンサワーをあおっていると、
少しの安堵感が去来して、全身が弛緩した。
"そんな表情見たことないわ"
マイメンの一言が物語っていた。

人生についての話をする。
彼から聞く話は、自分より思考の深度が何段階も上で、学びと刺激と反省を与えてくれる。
彼から聞く話はいつも、これ以上ない真理だと思うのだが、毎度それを上回ってくるのだからすごい。

酔いと秋の夜風。店を出た2人は、コンビニへ。
やることはいつでもどこでも変わらない。
スミノフとタバコ、AirPodsを片方ずつ。
お互いの好きな曲と夜風を浴びながら、
誰も自分たちのことを知らないこの街を、千鳥足で歩き回った。

これからも頑張れそうだ。

色んなことがあった。
やりたかったのに、出来なかったことが沢山あった。
現実から逃げるように、日々を過ごしていた。

夢を追う。否、自分の心から沸き起こった使命を全うする。その過程の一瞬一瞬、つまり今を、楽しみ切りたい。

焼肉屋でマイメンに宣言をした時から、
六本木のクラブでPopcornをシャザムした時から、
最終面接に向かう新幹線で身体から熱が迸った時から、
いや、そのもっと前から、使命は続いている。

オーストラリアからの、軸ずらし。
東京という新たな環境。新鮮さと未知の応酬。
予想だにしなかった場所でのトランジット。
さて、目的地への搭乗まで、どれだけかかるのだろう。でもトランジットときたら楽しむ以外ないじゃないか。

マイメンの終電の時間が来たため解散。その少し後に、
"酔っ払って乗り過ごしてしまった"
と連絡が来たのを確認し、"ワロタ"と返信。

それから私はどうやら酔いか疲れか、風呂も入らず知らぬ間に寝てしまっていたようだ。

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