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No.10 プロを目指すか?旅に出るか?

彼との初めての出会いは中学校。

彼は地元のサッカー少年のあいだでは超がつくほどの有名人で、その運動神経はずば抜けていた。休み時間も放課後も休日もずっとサッカー。高校でも全国大会に出場した噂を聞いていたし、大学もサッカーで行ったと聞いていた。

今まで出会った人の中で一番プロスポーツ選手に近いと思った人だ。

そんな彼が今、北海道にいるという。気になって電話をしてみると、電話越しの彼は中学生の時と変わらずどこまでも少年だった。

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erick/江口大輝(えぐちだいき)
兵庫県宝塚市生まれ。大阪体育大学卒。
幼稚園からサッカーをはじめ、中学時代はJリーグのジュニアユースでプレー。高校時代には全国高校サッカー選手権大会にも出場し、大学では全国3位の成績を残した。
夢は土に還ること。現在は、旅の資金を貯めるため北海道の農家で働いている。


絶対にプロサッカー選手になると思っていた少年時代

______今はどう過ごしているのですか?

旅に出たかったのと、ワーホリに行きたくて富士山で働こうと思ってたんです。めっちゃキツいって聞いて、修行のつもりで行きたいと思っていました。
でも、コロナでそれがなくなって、どこか住み込みで働けるところ探して全国に電話しまくってたら、たまたま北海道で仕事が見つかったんで、今はブロッコリー刈りながら歌うたってます(笑)

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______元はサッカー少年ですよね?

僕、ずっとサッカーしかしてなかったんですよ。びっくりするぐらいサッカーしかしてなかった。中学もクラブチームに入ってたし、高校も大学もサッカーで行かせてもらいました。
もちろん、プロになる事しか考えてなかったですね。高校の時は特にサッカーだけの生活で、朝から練習して、寮に帰ってからもトレーニングして、あとは寝るだけみたいな感じでした。
ひたすらそんな生活をしていて、絶対プロなると思ってました。そのためにできる事は全部やってましたね。

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______遊んだりはしてなかった?

サッカーしか知らんかったんですよ。視野が狭かったんですかね(笑) だからサッカー以外の選択肢はなかったです。とにかくサッカーが好きで、ずっとサッカーだけしときたかった。「好きなことで飯食えたら」ってずっと考えてて、だからそれにはサッカーしかないと思ってました。
でも、大学入ってから遊びに行ったり、買い物行ったり、いろいろするようになって他の世界を知りました。高校の時には知らなかった世界。
それで、大学2年の夏にヒッチハイクしたんです。実家がある宝塚から、通ってた高校がある米子まで。その時は珍しくサッカーが2連休で、時間あるし、普通に行ってもおもしろくないなぁと思って(笑) 前からちょっとやってみたかったから。

______いきなりかなりの距離ですね(笑)

めちゃめちゃ時間かかりましたね。米子までって単純に距離も長いし、田舎なんで走ってる車も少なくて。途中、気付いたら逆方面に向かってたり、変な外国人に乗せられたり、トラブルに見舞われながらやっとの思いで米子に着いたのは真夜中でした(笑)
でも、そのヒッチハイクがめちゃめちゃ楽しかったんです。全然うまいこといかなかったんですけど、それすらも楽しかったです。僕は人と話すのも好きなので、とにかくヒッチハイクを楽しんでましたね。
それからヒッチハイクにハマって、ずっとヒッチハイクを繰り返してました。基本的には連休とかないので、休日を使って1日でどこかに行って帰ってきてって感じです。

______それは「新しい楽しさ」を見つけたみたいな感じ?

そうですね、サッカー以外の楽しみ。
それまでは、休みの日もサッカーするかトレーニングするかしか思いつくことがなかったんですけど、気づいたら「次の休みどこ行こう?」とか考えるようになってました。どこまでやったら1日で行って帰ってこれるかチャレンジしてましたね。
失敗した時とかはたしかにキツイですけど、自分のやりたいことやから苦じゃなかったです。その感覚は好きな感覚でした。

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______サッカーやってる時とは違いましたか?

サッカーの時と同じ感覚ですね。サッカーでは、どんなきついトレーニングも自分のためで、サッカーが楽しいから頑張ってました。だからそれと同じようなものを見つけた感じでした。「めっちゃしんどいけど、なんか楽しい」みたいな感じ。
あとは、大きなきっかけで言うとその年の正月にひとりでタイに行ったんです。めっちゃ面白かったです。日本と全然違うし。めっちゃ汚いけどみんなが平気で過ごしてたり、見たことない建物があったり、日本以外にもこういう世界あるんやって言うのを初めて知りました。その感覚がめっちゃ良かった。右も左もわからへん知らんところで誰かと出会って、ほんで喋ってみたいな。
それで、世界のいろんなところ行きたいと思いました。
そういう感覚をもっと味わいたいと思って。日本帰ってからもヒッチハイク繰り返して、ずっと「また行きたいなぁ」とか「行ってみたいなぁ」っていう場所がめっちゃできました。

それから「今まではサッカーに縛られてたのかも」って考えるようになりましたね。今まではサッカーしか知らんかったから、「サッカーしたい」っていう選択肢しかなかったけど、もっといろんなところを自由に回りたいっていうのが自分の中で出てきて、進路希望も「プロサッカー選手」って書くのやめて、「旅」って書くようになったんです。
サッカーはほんまに好きやから、大学でもずっと上目指して頑張ってたんですけど、サッカーはもう十分頑張ったから、次に行こうかなと。


シンプルにサッカーよりも旅がしたいと思った

______どうしてサッカーは諦められた?

それは自分でもめっちゃ不思議なんですよね(笑) 今まであんなにサッカーに懸けてやってきたのに。
でも、シンプルにその時やりたいって思ったのが旅やったんです。これからどうするってなったときに、「俺、今やりたいのはサッカーよりも旅やなぁ」と思って。サッカーを上回るほどの楽しさを見つけてしまったみたいな。だからスパっと辞めれた。単純に旅がサッカーを超えたんですかね。

______旅に出会ったのは1年前とかで、一方でサッカーは小さい頃からずっとやってきたんでよね。サッカーに対する未練みたいなのはなかった?

未練とかは全くないですね。「旅」って決めたと同時に、サッカーはあと2年マジでガチでやって、ほんまに後悔残らんようにしようって決めました。
まあでも、途中ほんまに大学辞めようとした時もありましたけどね。旅したすぎて。「旅したいからサッカーを辞める」って監督に言ったこともあります。
そんな葛藤もあったんですけど、今まで色々な人にお世話になってサッカーやらしてもらってるっていうのもあったし、自分のやりたい計画を進めながらも、サッカーの時間はガチでやることにしました。
最後、全国大会は3位で終わったけど、3位までしか行けなかったんですけど、自分の出せる力は全部出したって感覚がありましたね。「マジでやり切った」みたいな。

______「サッカーやめた」っていうよりは「サッカー終えた」って言う方が近い?

そうですね。人生の第一章が終わったみたいな感じ。感覚的には。「ここから第二章スタートやな」って。これから楽しみなことしかないですね。

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小さい頃からの夢を諦めるということ

______小さい頃からずっと思ってた「プロサッカー選手になりたい」っていう気持ちとはどうやって折り合いつけた? ずっと思ってた夢をやめるってかなりの決断な気がします。

確かに狂ったようにサッカーしてて、高校の時も朝は絶対一番最初に行って、夜も一番最後まで残ってました。「やりすぎやろ」ってぐらいやってたんですよ。そんぐらいなりたかったんですよね、サッカー選手。できることがあるなら何してでもなりたかった。
でも、プロサッカー選手に憧れてたのはサッカーが好きやからなんですよね。「1日中サッカーのことだけ考えてたらいいの、めっちゃええやん」と思ってたんですよ。プロサッカー選手ってそうじゃないですか、サッカーしかしてないのに金もらえる。それめっちゃ幸せやんって思ってたからプロサッカー選手になりたかったんです。単純なんですよ(笑)


______一般的に言われてる夢とは少し違う気がしますね。単純にサッカーが好きな人(笑)

サッカーが好きやから、あれだけ頑張れてたんやと思うんですよ。
でも、大学に入ってから、高校の時みたいに頑張れへんなって思う時期があったんです。全然熱が入らなかった。「高校の時はあんだけ頑張れてたのに、なんで頑張ろう思えんくなったんやろう?」って自問自答してました。サッカーは好きやのに……って。それも旅しようって決めた要因かもしれないですね。
今は、「サッカーなんか旅しながらでもボール1つあったら誰とでもできるし、それもそれで面白いやん」って思ってます。

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【編集後記】
ずっとサッカーばかりしていて、きっと誰よりもサッカーが好きだった彼がサッカーを辞めたということは、少なくとも彼のことを知る人からすると驚きだっただろう。
そんな彼がサッカーを辞めた理由はどこまでもシンプルで、やはり「彼らしいな」と思わせてくれる真っ直ぐな言葉で語ってくれた。

「本気で目指したものを諦める」という経験は誰にも来るはず。やりたいことをシンプルに比較して未来を考え、終え方を探していく彼の姿勢をきっと何かあるたびに思い出すことになるのだろう。

【ライター】
前原祐作

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