イシューからはじめよ【bookノートB】

実は、世の中で問題だと言われているもの、調べてみようと思うことの大多数は、今、答えを出す必要がないものだ。

そうした「なんちゃってイシュー」に惑わされないことが大切だ。

ある飲料ブランドが長期的に低迷しており、全社で立て直しを検討しているとする。

ここでよくあるイシューは「〈今のブランドで戦い続けるべきか〉もしくは〈新ブランドにリニューアルすべきか〉」というものだ。

だが、この場合、まずはっきりさせるべきはブランドの低迷要因だろう。

「〈市場・セグメントそのものが縮小している〉のか〈競合との競争に負けている〉のか」がわからないと、

そもそも「〈ブランドの方向性の修正〉がイシューなのか」という判断がつかない。

イシューの見極めについては、「こんな感じのことを決めないとね」といった「テーマの整理」程度で止めてしまう人が多いが、これではまったく不足している。

強引にでも前倒しで具体的な仮説を立てることが肝心だ。

「やってみないとわからないよね」といったことは決して言わない。

理由は3つある。

1つ目は、仮説が単なる設問をイシューにするということだ。

例えば「○○の市場規模はどうか?」という単なる設問ではなく、

「○○の市場規模は縮小に入りつつあるのではないか?」と仮説を立てることで、答えを出し得るイシューとなる。

2つ目は、仮説を立てて、はじめて本当に必要な情報や必要な分析がわかるということだ。

3つ目は、答えを出すべきイシューを仮説を含めて明確にすることで、分析結果の解釈が明確になり、無駄な作業が大きく減ることだ。

ちなみに、良い仮説というのは答えを出す必要があること、つまり本質的な選択肢であり、深い仮説があること。

また答えを出すことができることである。

ありふれた問題に見えても、それを解く方法がいまだにはっきりしない、手を付けないほうがよい問題が大量にある、ということを忘れてはならない。

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.「よいイシューとは何か」と「(強引にでも)仮説を立てることの重要性」がわかったところで、

次にそれを発見するための「材料」をどのように仕入れるか、情報収集のコツのようなものはあるのだろうか。



第一のコツは、「一次情報」に触れることだ。

一次情報というのは、誰のフィルターも通っていない情報のことで、具体的には、

モノづくりの場合は生産ライン、

商品開発の場合は商品が使われている現場に出向く、

データの場合は加工されていない生データに触れる

ということだ。

現場で何が起こっているのかを見て、肌で感じない限り理解できないことは多い。

よって、数日間は集中的に一次情報に触れることをお薦めしたい。



第二のコツは、一次情報から得た感覚をもちつつ、世の中の常識・基本的なことをある程度の固まりとしてダブりもモレもなく、そして素早くスキャンする(調べる)ことだ。

通常、ビジネスでの事業環境を検討する場合であれば、

①業界内部における競争関係

②新規参入者

③代替品

④事業の下流(顧客・買い手)

⑤事業の上流(サプライヤー・供給企業)

⑥技術・イノベーション

⑦法制・規制

の7つのひろがりについて、それぞれの数字、問題意識、考え方のフレームワークをスキャンすればよいだろう。



第三のコツは、意図的にざっくりとやる、つまり「やり過ぎない」ということだ。

情報収集にかけた努力・手間とその結果得られる情報量にはあるところまでは正の相関があるが、そこを過ぎると途端に新しい取り込みのスピードが鈍ってくる。

これが「集め過ぎ」だ。

「知り過ぎ」はもっと深刻な問題だ。

ある量を超すと急速に生み出される知恵が減り、もっとも大切な「自分ならではの観点」がゼロに近づいていくのだ。

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多くの場合、イシューは大きな問いなので、いきなり答えを出すことは難しい。

そのため、おおもとのイシューを「答えの出せるサイズ」まで分解していく。

分解したイシューを「サブイシュー」という。

イシューを分解するときは「ダブりもモレもなく」砕くこと、そして「本質的に意味のある固まりで」砕くことが大切だ。

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「ダブりもモレもなく」という考えのことをMECEという。

そして、この考え方を生かした汎用性の高い「考え方の枠組み」のことをフレームワークと呼んでいる。

フレームワークは、イシュー見極めの場面では網羅的な情報収集に役立ち、

イシュー分解の場面では汎用性をもった「イシューを砕く型」としてつかうことができる。

ただし、危険なのは、目の前のイシューを無理やりそのフレームにはめ込んで本質的なポイントを見失ってしまう、

あるいは自分なりの洞察や視点を生かせなくなってしまうことだ。

「カナヅチをもっていればすべてのものがクギに見える」という状況になってしまっては本末転倒であり、

このような状態になるくらいならフレームワークなど知らないほうがよい。

イシューを分解し、そのサブイシューに仮説が見えれば、自分が最終的に何を言わんとするのかが明確になる。

ここまでくればあと一歩だ。

次のステップは分解したイシューに基づいて、ストーリーラインを組み立てることだ。

人に何かを理解してもらおうとすれば、必ずストーリーが必要となる。

それが研究であれば論文の流れであり、ビジネスであればプレゼンの流れだ。

できる限り前倒しでストーリーラインをつくると言うと、

「決め打ちですか、ここでたいしたアイデアが浮かばなければ終わりということですね」という人がいる。

だがこれは大きな誤解だ。

ストーリーラインは検討が進み、

サブイシューに答えが出るたびに、

あるいは新しい気づき・洞察が得られるたびに、

書き換えて磨き上げるものだ。

問題を検討するすべての過程に伴走する最大の友人、

それがストーリーラインなのだ。

ストーリーラインには2つの型がある。

1つ目は「WHYの並び立て」、

2つ目は「空・雨・傘」というものだ。

前者に関してはシンプルな方法だ。

最終的に言いたいメッセージについて、

理由や具体的なやり方を「並列的に立てる」ことでメッセージをサポートする。

「第一に、第二に、第三に、というタイプの説明」と言えば理解しやすいかもしれない。

ここでも「あの論点はどうなっているんだ」と意思決定者や評価者から攻撃されることを防ぐために、

重要な要素を「ダブりもモレもなく」選ぶようにする。

後者の考えは多くの人にとって馴染みやすいのではないかと思う。

「西の空が良く晴れているな(空)。

今の空の様子では、当面雨は降ることはなさそうだ(雨)。

だとすると、今日傘を持っていく必要はない(傘)。」

という流れだ。

多くは、「雨」の部分で見えてきた課題の深掘りがどこまでできるかが勝負どころとなる。

イシューが見え、

それを検証するためのストーリーラインもできれば、

次は分析イメージ(個々のグラフや図表のイメージ)をデザインしていく。

ここでも「分析結果が出ないと考えようがない」とは言わない。

基本はいつでも、「最終的に伝えるべきメッセージ(=イシューの仮説が証明されたもの)」を考えたとき、

自分ならどういう分析結果があれば納得するか、

そして相手を納得させられるかと考えることだ。

そこから想定されるものをストーリーラインに沿って前倒しでつくる。

この分析イメージづくりの作業を「絵コンテ」づくりと呼んでいる。

絵コンテづくりで大切な心構えは「大胆に思い切って描く」ということだ。

「どんなデータが取れそうか」ではなく、

「どんな結果がほしいのか」を起点に分析イメージをつくる。

ここでも「イシューからはじめる」思想で分析の設計を行うことが大切だ。

「これなら取れそうだ」と思われるデータから分析を設計するのは本末転倒であり、

これをやってしまうと、ここまでやってきたイシューの見極めもストーリーラインづくりもムダになってしまう。

「どんなデータがあれば、ストーリーラインの個々の仮説=サブイシューを検証できるのか」という視点で大胆にデザインする。

もちろん、現実にそのデータが取れなければ意味はないが、

そのデータを取ろうと思ったらどのような仕込みがいるのか、

そこまでを考えることが絵コンテづくりの意味でもある。

場合によっては既存の手法ではやりようがないこともあるだろうし、大胆な工夫をする必要も出るだろう。

このようにイシューの視点からデータの取り方や分析手法にストレッチ(背伸び)が生まれるのはよいサインだ。

正しくイシューをベースに絵コンテづくりをしている証拠でもある。

イシューが見え、

ストーリーラインができ、

それに合わせて絵コンテができれば、

あとはその絵コンテを本物の分析に変えていく。

そこで大切なことは

「いきなり分析や検証の活動をはじめない」ことだ。

最終的に同じイシューを検証するための分析であっても、それぞれには軽重がある。

もっともバリューのあるサブイシューを見極め、

そのための分析を行う。

ストーリーラインと絵コンテに沿って並ぶサブイシューのなかには、必ず最終的な結論や話の骨格に大きな影響力を持つ部分がある。

そこから手を付け、粗くてもよいから、本当にそれが検証できるのかについての答えを出してしまうわけだ。

重要な部分をはじめに検証しておかないと、

描いていたストーリーが根底から崩れた場合に手が付けられなくなる。

ここはストーリーラインのなかで絶対に崩れてはいけない部分、

あるいは崩れた瞬間にストーリーの組み換えが必要となる部分であり、

具体的にはカギとなる「前提」と「洞察」の部分になるだろう。

その他のバリューが同じくらいのサブイシューは早く終わるものから手を付けるのが、アウトプットを出す段階における正しい注力だ。

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イシューに沿ったメッセージを人に力強く伝わるかたちでまとめる。

これが、「メッセージドリブン」だ。

仮説ドリブン、アウトプットドリブンに続く、

イシューに対する解の質をグッと高める「三段ロケット」の最後にあたる。

ここの踏ん張りで、同じネタでも見違えるほど力強いアウトプットになる。

検討報告の最終アウトプットは、

ビジネスではプレゼンテーション、研究では論文というかたちをとることが多いだろう。

これを聞き終わったとき、

あるいは読み終わったとき、

受け手が語り手と同じように問題意識をもち、

同じように納得し、同じように興奮してくれるのが理想だ。

「イシューからはじめる」という当初から貫いてきたポリシーそのままに、

「何に答えを出すのか」という意識をプレゼンの前面に満たす。

シンプルに無駄をなくすことで、

受け手の問題意識は高まり、

理解度は大きく向上する。

「本当にこれは面白い」

「本当にこれは大切だ」

というイシューだけがあればよい。

まずは「ストーリーラインを磨き」

そして「チャートを磨きこむ」必要がある。

「イシューからはじめよ」
安宅和人 著
英治出版

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