プリンセス・マーケティング【bookノートB】

人の気持ちを動かすためによく用いられる手法に「ストーリー」がある。

物語の中で「潜在的に抱えている問題」を自覚し、自然に、商品やサービスを「欲しい」気持ちになってもらうのだ。

ストーリーには、その人が持っている「前提」を書き換える力がある。

ただし、女性と男性では心を動かされるストーリーが異なる。

男性が心を動かされるのは、「ヒーロー物語」だ。

平凡な主人公が仲間とともに試練をくぐり抜け成長し、古い秩序や価値観を壊して新しい秩序を打ち立てることで世界を救う。

一方、女性が感情移入するのは「プリンセス・ストーリー」である。

それは、今いる場所に漠然とした違和感を持っている主人公が、「自分が本来、当然いるべき」と感じる「新しい世界」で生きるまでの個人的な旅だ。

他人からの評価は不要であり、旅の目的は「自分らしさ」を取り戻し、「自己充足」することにあるのだ。

これをビジネスに応用するには、それぞれの主人公たちが「得たい結果」が「自分の商品やサービス」とイコール関係になるような「ストーリー」を提案するということになる。

つまり、男性に対しては「客観的な評価」が得られること、女性に対しては「自己満足」が得られることに訴求していくことによって、売れる可能性が高くなる。

シンデレラが一人掃除をしているとき「私は本来お城にいるべき」と思っているように、女性は「今の自分は、仮の姿だ」と信じている。

男性からすれば、一度も経験したことのない理想的な状態が「本来の自分」という感覚は信じられないかもしれない。

それほど、女性と男性は異なる現状認識を持っている。

物語の前提となる「設定」がまったく違うのだ。

したがって、男性向けには問題解決のアプローチとして、今の悩みを自覚させ、「より能力が高くなるアイテム」や「目標達成への近道」を提供できれば良い。

しかし、そもそも女性にとって悩みとは「本来の自分」を取り戻せば魔法のように一瞬で消え去ってしまう幻なので、「悩んでいるはずだ」という前提が通用しない。

ゆえに、女性にアプローチするのであれば、女性が何を見れば「本来の自分らしさ」を感じられるのかを考えることが鍵になる。

「不本意な現実」を生きている女性たちに、商品やサービスを使うことで「本来あるべき理想的な状態になることができますよ」と語りかけることが重要なのである。

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男女がそれぞれ求めているストーリーの違いは、他の登場人物たちが果たす役割や行動にも影響する。

男性の好むストーリーでは、主人公は次々と現れる試練を攻略しながら前進する。

だからこそ、冒険をともにする仲間たちは戦いに貢献し成長することが求められる。

一方で、女性の好むストーリーにおいて、仲間は一緒に戦うというよりも主人公の内面をサポートする役割を担う。

なので、ミスを連発して足を引っ張るような小動物が仲間でもよいのだ。

したがって、女性顧客とのコミュニケーションの際には、顧客の抱く葛藤に共感し、試練を乗り越えるために必要な情報を提供することでサポートができないかという視点で考えよう。

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それぞれの冒険の旅に出る「きっかけ」をつくる人物の役割にも違いがある。

男性の場合は使命を自覚させる「賢者」や「メンター」がキーパーソンになるのに対して、

女性の場合は「本来の自分」を自覚させ「過去のしがらみを断ち切ってくれる存在」が鍵を握る。

売り手には、自身がそれぞれのストーリーにおけるキーパーソンとして登場し、背中を押す役割を果たすことが求められる。

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いっけん同じ行動をとっているように見えても、男女でその行動を取る「動機」が大きく異なっていることがある。

購買を通して何が手に入ったかということを尋ねると、男性は手に入れた結果に対する「周囲の評価」を挙げる人が多いが、

女性は「もっと自分に自信が持てるようになる」という主観的な返答をする人が大半だ。

女性の興味や関心は「自分の内側」に向いているのだ。

自分にフォーカスがある女性にとって、共感は、問題点を指摘しあうことではなく、現状を承認し合うことから生まれる。

女性に売る場合は、まずは、あなたは間違っていないというメッセージを与えよう。

女性にとっての買い物は、自分に自信を持つための手段である。

男性たちの多くは他人からの評価=モテを求めるものだが、女性にモテは必要ない。

女性は誰かに勝つために努力しているわけでも、男性の気をひくためにキレイにしているわけでもない。

商品やサービスにお金を払うことによって、多くの女性が本当は何を得ようとしているのかを考え、意思決定者本人の直接的な「感情の満足感」に訴える方法を模索することが重要だ。

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買い物の際、男性はたいてい目的の売り場に直行して決めていた商品を掴み、即会計を済ませすぐに帰宅する。

しかし、女性はついでに寄り道を繰り返そうとする。

男性にとってはしっかり吟味して最高のものを手に入れることが買い物だが、

女性にとってはバッタリ運命の商品に出会うことこそが買い物の醍醐味なのだ。

消費者の購買行動プロセスはまず、

商品の存在を「認知」し、

「興味・関心」を持って、

情報をネットで「検索」した上で、

購買の「行動」を示し、

ソーシャルメディアで「共有」する

という一連の流れがある。

これは男性にはぴったり当てはまるが、実際の購買行動を観察してみると、

女性の場合、検索という比較検討の手順はしばしば抜け落ちる。

男性の買い物は「戦いに役立つ武器」を「仕入れる」感覚に近いが、

女性にとっての買い物は、「本来の自分」を一気に取り戻すための「魔法」のようなものなのだ。

「魔法」らしいものに出会ってしまったら買わずにいられない。

つまり、とりあえず試してみたいと思えば、女性は他社商品との比較検討はほとんどせずに購入することになる。

そこで、女性に売る場合には、とりあえず試すという感覚を持たせるために、男性より圧倒的に気軽な買い物のプロセスに沿った見せ方を工夫しよう。

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商品やサービスを案内する際、顧客の信頼を得るために必要な「証拠」を与えなければ購買につなげることはできない。

この「証拠」にまつわる考え方も、女性と男性では異なっている。

男性は戦いに挑む際の武器を選ぶがごとく、イメージよりも実質を重視し、加点法で判断をする。

信じるに値する客観的な証拠を集めようとするのが特徴だ。

しかし女性は、とりあえず試すために衝動買いをすることが多いので、

論理的な説明よりもぱっと見のときめき、

第一印象の重要度が高い。

そして「何か違う」ということがあれば減点法で判断していく。

よって、女性向けの商品やサービスの説明は、データを揃えるということよりも、違和感を抱かせないように一貫性を大切にしてつくるほうがよい。

女性にとっての「証拠」は、自分の直感が間違っていないという消極的な信用で十分なのだ。

多くの女性にとっては、論理的な記述が邪魔になることもありうる。

女性は、成分名がまったく記載されていないホームページからでも、化粧品を買うことができる。

イメージで決まってしまうかもしれないことを十分に意識しよう。

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物語のたとえに再び戻ると、男性が主人公となる物語では早くゴールにたどり着くことが目標とされるため、リーダーとチームメンバーが区別された「縦の関係」を築くことが好まれる。

指揮命令系統がはっきりしたほうが効率がよいからだ。

それに対して、女性の主人公が目指しているのは「自分らしい世界」を取り戻すことであるから、権力構造は必要ない。

「私たち」という価値観を共有しあえる、親しい「横の関係」を築くほうが好まれる。

女性客に接客する場合には、好まれる関係性を正しく反映した対応をすることが求められる。

丁寧な言葉遣いで相手を気遣うことから始めて、徐々に信頼を築きながらフレンドリーな対応に変えていくことが基本だ。

言葉づかいや話題の目安は「3歳年上の同僚」と話す程度を目指す

前述のように、女性の購買はお試しから始まるからこそ、継続を前提とした関係の構築が非常に重要となる。

顧客に「こちら側」に来てもらい、横並びの関係にまで発展させることができれば、「私たちって、こう考えるから、こういう商品がいいよね」というふうに、前提の軸となる価値観を共有していくことが可能となる。

このレベルまで関係性がつくれれば、顧客が情熱をもって口コミを広げてくれることにもつながる。

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少年漫画には根拠のない自信と全能感に溢れた男性主人公が多く登場するが、典型的な女性主人公は自己評価が低く、すぐに不安になりがちだ。

昔ながらのプリンセス・ストーリーの主人公たちも、最初はためらいがちで自信がない場合がほとんどである。

着実な努力で自信をつけていく男性主人公に対して、女性主人公はゴールに近づこうとしても運命に奔走されうまくいかずに、かえって自信を打ち砕かれる場合が多い。

自分の力だけでは「本来の自分」に確信が持てない女性に自信を持たせるには、きちんとサポートして励ます必要がある。

そんな女性の「欲しい」という気持ちを後押しするには、商品やサービスを、努力なしに一瞬で本来の自分を取り戻せる「魔法」として見せることが効果的だ。

説明すべきは、いかに一瞬で周りの世界を変え、どれほどすばらしい感情を体験できるかという魔法の効能である。

実際の商品やサービスが魔法ではないことは女性たちにもわかっているのだが、それでも女性たちは「魔法っぽく見える」ものにときめく。

効果が出るのに時間がかかる商品であっても、じわじわと効いてくる魔法として見せられれば、女性に受け入れられやすくなる。

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説明の都合上「男性は」「女性は」と型にはめて解説しているが、これは傾向を表すものであって、すべての人に必ず当てはまるという意図ではないことをご留意いただきたい。

「プリンセス・マーケティング」
谷本理恵子 著
エムディエヌコーポレーション

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