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東京←→神奈川 デュアルライフ5年目、団塊ジュニア世代。 けろやまデイズ https://www.keroyama.com

記事一覧

藪を漕ぎ天命を知る

やぶ‐こぎ【×藪×漕ぎ】 [名](スル)登山などで、笹や低木の密生する藪をかき分けて進むこと。「藪漕ぎして谷に下りる」 デジタル大辞林 2021年も2月だというのに去年…

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3年前
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少年、カーキ色のエプロンを手に入れる

甥っ子と私の同居人がキッチンに立つとなかなかこちらに戻ってこない。マンツーマンの調理実習が繰り広げられているからだ。 私と父、甥っ子の母である妹は、お先にビール…

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3年前
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雨の日のお楽しみ、踏み台昇降のすすめ

運動不足の解消に「踏み台昇降」を始めたのは去年の今頃。 外に出られない梅雨の時期と、その後の猛暑日に大活躍した。 膝が悪いので毎回少しずつ。20分くらいがちょうど…

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3年前
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ショートカットはいいぞ

子どもの頃からずっとショートカットにしている。 10年に一度くらい髪を伸ばしてみるけれど、鬱陶しくなってすぐに切ってしまう。 そんな私のショート歴は通算40年を越えた…

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3年前
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制服が擦り切れるほど

小さな調光室から見下ろす舞台。 緞帳が上がると60分間の戦いが始まる。 カラーフィルターと埃の匂い。 客席のざわめき。 帰りたくなるような、胸がきゅんとするような、 …

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4年前
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涙はぜんぶ砂壁が吸ってしまった

青い砂壁の部屋でひとり、 目の端が切れるほど泣き続けた。 誰にも会わずに。 布団の中でいつまでも涙を流す私を、ぬいぐるみのうさぎが見ていた。 若かったし、油断して…

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4年前
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うさぎはすべてを見ている

大学に入学して一人暮らしを始めるとき、母は隣の駅の西友で生活用品一式を買い揃え、最後に大きなうさぎのぬいぐるみを買ってくれた。 砂壁と畳敷きの古いアパートの部屋…

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4年前
14

怯えるひよこはペンを取り、波と戦う高校生となった

高校時代を過ごした街のエピソードを書こうと思っていた。 しかし、考えてみれば、その街をうろうろしていたのは3年間だけだ。 朝から晩まで、休みの日もずっと、教室か部…

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4年前
14

エンジェルさまと、ふにゃふにゃの夏

電車の中でぼーっと考えごとをしていると、突然「エンジェルさま」のことを思い出した。 ーーー 「こっくりさん」をご存じだろうか。 ちょっとオカルトな性質のある、占い…

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4年前
7

「ポリネシア」のごはんはいつだっておいしい

母が最後の入院をしたのは、ぐったりするような暑さが続いた頃だった。 病院通いの帰り道、父と私、時には妹が一緒になると、駅前の古いレストランへ寄った。 店の名前は…

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4年前
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「新姓」そのまま使っててもいいじゃない

20代の終わりに結婚したとき、姓が変わったのが本当にうれしかった。 職場ではワーキングネームを使うのが通例だったけれど、勢い余って無理やり新姓に変えてもらった。 …

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4年前
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こうもり、光に向かってまっすぐに羽ばたく

「こうもり問題」という言葉がある。 ものや情報を分類する際、どのカテゴリーに入れるか迷うことはないだろうか? 私がブログで「ダイエットにおけるメンタルの対策」に…

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4年前
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食べたいものがあるからがんばれる

今、引っ越しをするなら、譲れない条件はスーパーだ。 家から歩いていける距離に大きな店舗がいくつかあって、新鮮な食材が手に入ること。調味料や加工食品のバリエーショ…

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4年前
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「ばかばかしい」がもたらす自由

嫌な人と付き合うとき。 嫌なことを認めるのも嫌すぎて、いいところを探したり言動の背景を想像したり、精いっぱい回避を試みているのにやっぱり嫌なとき。 つまらない仕…

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4年前
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俺とは違う

街でいちばんの天ぷら屋の店主がカウンター越しに言った。 隣町の新しい天ぷら屋をお忍びで偵察したが、その味は「俺とは違う」。 味の優劣という「程度」の問題ではなく…

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4年前
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お金の手綱を握る

お金との関係のありかたについて私が目指すのは、他界した母だ。 堅実な金銭感覚を持ちつつメリハリのある使い方をする人だった。 家計の管理は母が担当していた。 郊外…

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4年前
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藪を漕ぎ天命を知る

やぶ‐こぎ【×藪×漕ぎ】 [名](スル)登山などで、笹や低木の密生する藪をかき分けて進むこと。「藪漕ぎして谷に下りる」 デジタル大辞林 2021年も2月だというのに去年の経費を泣きながら入力している。PCのフォルダには終わった仕事のデータがぐちゃぐちゃに放り込まれていて、1つずつ中身を見ながら仕分けしないといけない。度が合っていない眼鏡は無残に歪み、眼球は常に乾いている。コロナを理由に健康診断を先送りしているのもよろしくないし、夏からちりちりと痛む背中のことも気にかかる。奥

少年、カーキ色のエプロンを手に入れる

甥っ子と私の同居人がキッチンに立つとなかなかこちらに戻ってこない。マンツーマンの調理実習が繰り広げられているからだ。 私と父、甥っ子の母である妹は、お先にビールで楽しくやっている。 肉の焼ける匂いが漂ってくる。もう間もなく、大皿がこちらにやってくるだろうか。 久々に甥っ子に会ったのは中学2年生の頃だった。砂漠の穴に暮らす小さな生き物のようにひょろっとしていて、顔は青白く、小さい声でぼそぼそと話し、髪は寝ぐせで跳ねていた。 同居人はなんだかんだで面倒見がいい。甥っ子はラ

雨の日のお楽しみ、踏み台昇降のすすめ

運動不足の解消に「踏み台昇降」を始めたのは去年の今頃。 外に出られない梅雨の時期と、その後の猛暑日に大活躍した。 膝が悪いので毎回少しずつ。20分くらいがちょうどいい。 トータルでちょうど600分を達成したところだ。 (三日坊主じゃないでしょ?) 踏み台昇降をなめてはいけない。 10分も動くと着替えが必要なくらい汗が噴き出る。 消費カロリーはウォーキングの約2倍。 1週間続けるとみるみるおしりが上がってくる。 私がおすすめしたいのは、単なる「踏み台昇降」運動ではない。

ショートカットはいいぞ

子どもの頃からずっとショートカットにしている。 10年に一度くらい髪を伸ばしてみるけれど、鬱陶しくなってすぐに切ってしまう。 そんな私のショート歴は通算40年を越えただろうか。 髪が短いことは私にとっては生まれながらの性質のように当たり前のことだ。 小学校に上がったら、すぐに髪を短く切った。 恐らくこれは母の好みによるものだろう。 映画で見たセシルカットへの憧れもあったのかもしれない。 クラスに髪の短い女子はいなかった。 男子につけられたあだ名は「どうぶつ」。 (なんて

制服が擦り切れるほど

小さな調光室から見下ろす舞台。 緞帳が上がると60分間の戦いが始まる。 カラーフィルターと埃の匂い。 客席のざわめき。 帰りたくなるような、胸がきゅんとするような、 まるで恋のような瞬間。 音楽! --- 高校生になったらどうしても文化部に入りたかった。 明るくて「メジャーな」文化部に。 中学では母の言いつけで運動部に入った。 バスケ部のメンバーは気の強い子ばかりで、先輩は厳しく、訳の分からないルールで下級生を締め付けた。 体の小さな私にとって練習はハードでついてい

涙はぜんぶ砂壁が吸ってしまった

青い砂壁の部屋でひとり、 目の端が切れるほど泣き続けた。 誰にも会わずに。 布団の中でいつまでも涙を流す私を、ぬいぐるみのうさぎが見ていた。 若かったし、油断していた。 別れたという事実が受け止められなくて、脳は処理能力オーバー。 泉のように涙がいくらでも湧いて出てくるのだった。 --- 大学に入学してはじめて借りたあの部屋は、古いアパートだった。 最初に入った古い不動産屋で頃良い物件があっさり見つかってしまった。 築14年。砂壁、畳敷き、渋すぎる襖の柄。 エア

うさぎはすべてを見ている

大学に入学して一人暮らしを始めるとき、母は隣の駅の西友で生活用品一式を買い揃え、最後に大きなうさぎのぬいぐるみを買ってくれた。 砂壁と畳敷きの古いアパートの部屋で、段ボールをテーブル代わりに置いて、うさぎと一緒にもさもさとごはんを食べた。 私が東京で暮らすための仕送りに母のパートの給料がまるごと充てられていたことを、父が最近教えてくれた。 あの頃の母は、今の私くらいの歳だったのではないだろうか。無理をして働いて、命を削っていたんじゃないかと今になって思う。 ---

怯えるひよこはペンを取り、波と戦う高校生となった

高校時代を過ごした街のエピソードを書こうと思っていた。 しかし、考えてみれば、その街をうろうろしていたのは3年間だけだ。 朝から晩まで、休みの日もずっと、教室か部活の稽古場にいた。そうでなければ、河原かシャノアール、たまにイタトマとシェーキーズ。 街のことはよく知らないのだ。 その代わりに、30年前のこんな出来事を思い出した。 ーーー 高校へ進学するとき、通っていた中学校から受験したのは私一人。 田舎で育った私はひよこのようにほわほわで、世の中は怖いものでいっぱいだ

エンジェルさまと、ふにゃふにゃの夏

電車の中でぼーっと考えごとをしていると、突然「エンジェルさま」のことを思い出した。 ーーー 「こっくりさん」をご存じだろうか。 ちょっとオカルトな性質のある、占いのようなものだ。 50音と数字、鳥居の印を書いた紙の上に10円玉を置き、皆で指を添えて狐の霊を呼び出す。 そうすると、10円玉が自然に動いて質問に答えてくれる。 私の育った地域では「エンジェルさま」と呼ばれていた。 10円玉の代わりに鉛筆を使う。 2人の右手どうしを指相撲のように組み合わせ、間に鉛筆を挟んで紙

「ポリネシア」のごはんはいつだっておいしい

母が最後の入院をしたのは、ぐったりするような暑さが続いた頃だった。 病院通いの帰り道、父と私、時には妹が一緒になると、駅前の古いレストランへ寄った。 店の名前は「ポリネシア」。 南国風のメニューではなく、ハンバーグやスパゲッティーなどの洋食を出す店だ。 数年ぶりに会う父がクリーム味を好むことをここで知った。 店内の壁は古い映画のポスターやレコードのジャケットで埋め尽くされている。 酒のつまみになるようなものもメニューにあり、仕事帰りの人たちも一杯飲みに寄るようなカジュ

「新姓」そのまま使っててもいいじゃない

20代の終わりに結婚したとき、姓が変わったのが本当にうれしかった。 職場ではワーキングネームを使うのが通例だったけれど、勢い余って無理やり新姓に変えてもらった。 私の改姓は朝礼で大発表され、名刺も印鑑もアドレスも書類上の表記もみんな変わり、取引先の担当者に会うたびに、にこにこで名刺を配ったっけ。 あの頃は若かった…。 --- 離婚するとき、それまでの姓を使うことを選んだ。 子どもはいないし、仕事上でも姓をそのままにする必要はなかったので、私のようなケースでは旧姓に戻

こうもり、光に向かってまっすぐに羽ばたく

「こうもり問題」という言葉がある。 ものや情報を分類する際、どのカテゴリーに入れるか迷うことはないだろうか? 私がブログで「ダイエットにおけるメンタルの対策」について書いたとすると、その記事のカテゴリーは「健康」なのか、「こころ」なのか、それとも中年太りなので「エイジング」なのか。 ものや情報は複数の属性を持ちうる。 ところが階層構造のような方法でいずれか1つの属性によって分類しようとするとき、ダイエットの記事のように宙ぶらりんなものが出てきてしまう。 このような問題は

食べたいものがあるからがんばれる

今、引っ越しをするなら、譲れない条件はスーパーだ。 家から歩いていける距離に大きな店舗がいくつかあって、新鮮な食材が手に入ること。調味料や加工食品のバリエーションが豊かで選択でストレスを感じさせないこと。 買い物事情が貧弱だと食がスーパーに支配されてしまう。 おいしいもの、体にいいものを覚えてしまった。 シロさんの言うところの「パンドラの箱」を開けてしまったのだ。 必ずしも高いものがいいのではない。 食材の「勢い」を目で見て確認したい。 生きていくうえで食べること以

「ばかばかしい」がもたらす自由

嫌な人と付き合うとき。 嫌なことを認めるのも嫌すぎて、いいところを探したり言動の背景を想像したり、精いっぱい回避を試みているのにやっぱり嫌なとき。 つまらない仕事をするとき。 意味ややりがいを探し、何か学びのテーマがないか散々考えてもやっぱりつまらないとしか思えないとき。 ついつい「ばかばかしい」と思ってしまう。 若い頃に比べて頭のフレッシュさや柔軟性を失ってしまったのか? 頑固になってきたのか? 排他的で不寛容になったのか? 昔だったら正面から向き合って、消耗したり

俺とは違う

街でいちばんの天ぷら屋の店主がカウンター越しに言った。 隣町の新しい天ぷら屋をお忍びで偵察したが、その味は「俺とは違う」。 味の優劣という「程度」の問題ではなくて、「流派」が違うという話。 もちろん実際には「俺の天ぷらの方がうまい」と思っているだろう。 それをあえて流派の違いと捉えるそのラテラルな発想に痺れた。 「うーん、これはいかがなものだろう」という人の振る舞いに出会ったとき、思い出すのは「俺とは違う」。 どちらが優れているということではない。スタイルの問題である。

お金の手綱を握る

お金との関係のありかたについて私が目指すのは、他界した母だ。 堅実な金銭感覚を持ちつつメリハリのある使い方をする人だった。 家計の管理は母が担当していた。 郊外の町の中流家庭。 小さな分譲マンションに住み、娘2人の学費のために母もフルタイムのパートで働いていた。 決して裕福ではないし、「できれば公立の学校へ行ってほしい」と言われていたけれど、本当に必要なことがお金のために制限されることは一度もなかった。 小学生のときに買ってもらったエレクトーンは、マツダのファミリアと