★びしょびしょのお父さんのこと (架空作文⑦)
「びしょびしょのお父さんのこと」
3年6組 荒井 望
わたしはわたしのお父さんが乾いているところを見たことがありません。
朝でも夜でも、曇りでも晴れでもびしょびしょです。七五三の時の写真も、ひいおばあちゃんが亡くなった時のお葬式の写真もお父さんはいつもびしょびしょです。どれくらいびしょびしょかというと雨の日にグラウンドで一生けんめい、練習している野球クラブのみんなくらいびしょびしょです。
でもわたしは小学生になるまでお父さんがびしょびしょなことを不思ぎに思いませんでした。どうしてかというとわたしはお父さんという生き物はみんなびしょびしょだと思っていたからです。
それなのにはじめての父兄参観日にきたみんなのお父さんはスッカリと乾いていました。みきちゃんのお父さんも、ちかちゃんのお父さんも乾いていました。それで遅れてきたわたしのお父さんだけびしょびしょで、みんなが「なんでびしょびしょなの?」とくちぐちに言い合っていて、わたしは恥ずかしくなって机に頭を押しつけてなにも見ないようにしました。
帰り道わたしはお父さんに「なんでお父さんはびしょびしょなの?」と聞きました。そうするとお父さんはわたしのほっぺを2回ぶったあと「ごめんな、ごめんな、負けたらあかんで!負けたらあかんで!」と言いました。わたしはなんでぶたれたのか、なにがごめんなのか、なにが負けたらいけないのか、なんで神奈川生まれ神奈川育ちのくせに関西弁なのか、なにもわかりませんでしたが、お父さんはそのとき泣いていて、お父さんの目はいつもよりもっとびしょびしょで、その姿を見てるとぜんぶをゆるせるような気がしてきました。
そのあとわたしとお父さんはお母さんにナイショでステーキガストにいきました。ガストのお姉さんがやってきて、「タオルとかお使いになりますか?」と聞いたらお父さんは「あ、大丈夫です、ふつうに。」と言いました。なにが大丈夫で、なにがふつうになのか分からなかったけれど、わたしはむいしきにガストのお姉さんにむかって「負けたらあかんで!!!」とさけんでいました。
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