トイレの蛍光灯が切れて暗闇に尿を流し込んでいるときぼんやりとした無重力を感じる

明るかった時には気づかなかった。目が覚めてトイレに行くと蛍光灯の光がなくなっていて、そのとき初めてそれに気づく。闇の存在によってこそ光が輝く的なあからさまな伏線に腹が立って、部屋の電気を付けず、そのまま暗闇の中に尿を流しこむ。目を閉じると境目のない空間が広がっていて、なにかぼんやりした無重力を感じる。思考は部屋を飛び出し、京王線に乗って東京を飛び出し、日本、アジア、地球、そのはるか遠くの銀河から地球に向かって尿を流し込んでいる。地球はまだ出来立てホヤホヤで文化が存在しない。その大地に僕の排泄物が広がっていく。やがてそれにユーフラテス川、黄河、ナイル川、ミシシッピーミズーリーレッドロック、、、といった名前がつけられ、その近くに文明ができる。豊富な資源を巡り人々は争いを始め、そこである特定の人物を愛したり傷つけたりする。そういえば目を開けるとまだ自分が5.5畳の部屋にいた。好きな人たちの人生ごと受け止めて全部救おうとしたけれどそれほど自分が強くないことと自分程度の存在では何も変えられないということをうっすら分かり始めている。最近の話。もう大人なってしばらく経っているのにも関わらずまだ諦めたくないという気持ちを捨て切れずにいる。校長が校長室で変な動きをしていることを想像する。僕の趣味の一つ。校長が誰にも気づかれずに校長室でひとり変な動きをしている想像すること。誰も知らない。教頭も生徒指導も非常勤講師も給食のおばちゃんも誰も知らない。でも校長はひとりで校長室で変な動きをしている。そのことに僕はとてつもなく救われるのだ。なぜだろうか?世界が歪んでいることを実感できるからか、自分がまだ正常であることを認識できるからかそのどちらかだと思う。でもおれも、、と思う。トイレから這い出てもまだ4時12分、思い切って外に出る。大通りにでで道路の真ん中で寝そべる。このままたまたま通りかかったトラックが居たら轢かれて死ぬかもしれない。でも、そんなことは今の自分には絶対に起きないのだということを確信している。起こるべきときに現象は起こるのだけど、今の自分にはそれは起きない。結局その通りになってまた這い上がる。帰り道電柱を殴る。ひたすら殴る。そこには感情はない。骨と電柱に挟まれた皮膚から血が出てきたけれど痛みも感じない。ただ殴っているだけ。これも誰も知らなのだ。誰も知らなくてうれしい。誰も知ってくれてなくて本当にありがとう。そのとき校長はすやすやと眠っている。校長は忙しいから眠らないといけない。明日も学校にでて色んな業務をこなさないといけないし、明日は全校集会があるからスピーチもしなくちゃいけない。その隙を盗んで変な動きをする。これからもそれだけは続ける。誰も知らない部屋で、ひとり変な動きをし続ける。いまこの文章を読んでいる人がいれば各々校長に変な動きをさせて欲しい。誰とも共有せず、どんな動きかもわからない。でもそのことに僕はずっとこれからもとてつもなく安心するのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?