月の記憶

今日は月が綺麗だ、今まで月を見上げた回数を数えたらいったいどれくらいになるだろうか。服を買った回数よりは少なそうだし、天津飯を食べた回数よりかは多そうだ。ひとりで月を見上げることはよくあるが、人と一緒に月を見た記憶はあまりない。

その中でも今ふと思いついた記憶がひとつある。大学生の頃、僕は家から原付で40分くらいかかる銭湯のレストランでバイトをしていた。そこは甲子園球場から近く、酔っ払った柄の悪い客から暴言を吐かれることもしばしばあったが、辞めたくても辞めたいと言い出せず、結局限界になるまでそのバイトを続けていた。その日も、深夜2時までテーブル席で寝続けていた客を叩き起こし、キッチンの女の子と「最悪や!!!!!!!」と叫びながら一緒に締め作業をしていた。

外に出ると、その女の子が原付に乗ってみたいと言い出したので、練習をすることになった。女の子は原付に乗ったことがなかったらしく、止まり方が分からず余計に力んでアクセルを回し続け、危うく目の前から来た車に激突するところだった。「手を離せ!!!!!」と叫びようやく原付がぶっ倒れて止まった。それから僕たちを何も喋らず道に座り込み空を見上げた。月がすごく綺麗だった。時間が止まった気がした。明日も一限から政治学言論の授業があったがそんなことはどうでもよかった。どれくらい時間が経ったのかわからなかったが、「めちゃくちゃ怖かったな」と言い合って笑った。その二ヶ月後女の子はバイトを飛んだ。一年後には銭湯は潰れた。僕はその日、いつもより原付を飛ばして家まで帰った。原付からは変な音がしていてまた笑った。

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