COVID-19情報:2023.09.18

皆様

本日のCOVID-19情報を共有します。

本日の論文は、Nature系列から3編、Scienceから1編です。
Natureの1編目は、BA.5感染の致死性については、急性hACE2トランスジェニック(hACE2.Tg)モデルマウスを用いて検証した研究です。hACE2.TgマウスにBA.5を経鼻感染させると、COVID-19による臨床症状および病理学的症状が減少し、肺感染および病理学的症状が減弱しました。
2編目は、COVID-19治療薬開発の重要な標的であるSARS-CoV-2の主要プロテアーゼ(Mpro)に関する研究です。本研究では、触媒システインがジスルフィド結合した酸化コンフォメーションを示すMproの点変異体(H163A)の結晶構造を示すことが明らかになりました。
3編目は、RSウイルスを標的とする2種類のワクチンとモノクローナル抗体が承認されたことに関するNature MedicineのEditorialです。
Science論文は、SARS-CoV-2を中和する代替手段としての高親和性ACE2とIgG1 Fcドメインからなるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)デコイ(デコイとは、囮のことで、二本鎖のDNAで転写因子などの核酸認識タンパク質を標的とするもので、タンパク質が認識する核酸配列を模倣し結合を阻害する機能がある)の治療効果に関する研究です。SARS-CoV-2は、中和剤の濃度が最適でない条件下で、野生型ACE2デコイとモノクローナル抗体を回避するSARS-CoV-2変異体を生成しましたが、人工ACE2デコイに対しては回避変異体は出現しませんでした。さらに、エアロゾル化したデコイの吸入は、静脈内投与の20倍少ない投与量で、SARS-CoV-2に感染したネズミの予後を改善しました。最後に、人工ACE2デコイは、SARS-CoV-2に感染したカニクイザルに対して治療効果を示しました。
Nature MedicineのEditorialは、徹底して情報が収集されており、非常に価値のある情報です。このようなEditorialを掲載するJournalは、なかなかないものと感じます。

また、報道に関しては、「[FT]新型コロナ、ワクチン接種で変異型の拡散防げ 」は英国の報道内容(ファイナンシャル・タイムズ記事)ですが、コロナ対策で先陣を切った英国の現在が見て取れます。
また、コロナ・インフル同時感染に関する記事が、表題はやや不安を煽る書き方となっていますが、内容としてはきちんとした専門家の知見を掲載しています。フジTV系列の記事ですので、チープなエンターテイメント路線を狙ったのでしょうか。報道までお笑い番組のノリとは下品です。
また、コロナ感染でできる抗体保有率が若年層で7割前後 高齢者は3割弱ということのようです。
最後に、「「会計年度独立の原則」むしばむコロナ 予備費繰り越し3兆円超」では、記者が、会計年度独立の弊害を全く考慮せず、会計年度独立が正しいものという前提に立って論を進めています。テストの点数を満点取るのは得意な、優等生なのでしょう。受験と同じ感覚で社会問題を取り扱っています。ものを考えない記者が堂々と記名記事をかくメディアは、信頼性に欠けます。

高橋謙造

1)論文関連      
Nature
Omicron sub-lineage BA.5 infection results in attenuated pathology in hACE2 transgenic mice
https://www.nature.com/articles/s42003-023-05263-6
*BA.5感染の致死性については、急性hACE2トランスジェニック(hACE2.Tg)モデルマウスを用いて検証した研究です。
hACE2.Tgマウスを用い、BA.5感染によって誘導される組織対流性と免疫病理学的所見を検討しました。
その結果、hACE2.TgマウスにBA.5を経鼻感染させると、COVID-19による臨床症状および病理学的症状が減少し、肺感染および病理学的症状が減弱しました。BA.5は、オミクロン(B.1.1.529)と同様に、SARS-CoV-2の祖先株であるWuhan-Hu-1と比較して、炎症性サイトカインの産生、抗ウイルス反応、エフェクターT細胞反応が減弱しました。また、B.1.1.529感染から回復したマウスは、肺のウイルス量と病理学的所見が減少し、BA.5感染に対して強固な防御を示しました。
これらのデータから、BA.5感染症はSARS-CoV-2感染によるT細胞免疫の誘導を免れるが、オミクロンで回復した個体では免疫病理学的症状が軽くなり、再感染の可能性が緩和される可能性があることが示唆されたとのことです。

The H163A mutation unravels an oxidized conformation of the SARS-CoV-2 main protease
https://www.nature.com/articles/s41467-023-40023-4
*COVID-19治療薬開発の重要な標的であるSARS-CoV-2の主要プロテアーゼ(Mpro)に関する研究です。
最近の研究で、Mproは細胞や免疫系が誘導する酸化に反応して、酸化還元に関連した構造変化を起こしやすいことが明らかになりました。酸化に伴う大規模な再配列を示す構造エビデンスがあるにもかかわらず、構造変化のメカニズムやその機能的帰結は十分に理解されていませんでした。
本研究では、触媒システインがジスルフィド結合した酸化コンフォメーションを示すMproの点変異体(H163A)の結晶構造を示すことが明らかになりました。
Mproが酸化ストレス下でこのような結晶構造をとるのは、過剰な酸化から守るためではないかと考えており、メタダイナミクスシミュレーションによれば、H163がこの転移を調節する潜在的なメカニズムを示し、この平衡が野生型酵素にも存在することが示唆されています。他の点変異もまた、立体構造自由エネルギーを変化させることにより、この状態へ平衡を著しくシフトさせることが示されました。

Progress at last against RSV 
https://www.nature.com/articles/s41591-023-02571-6
*RSウイルスを標的とする2種類のワクチンとモノクローナル抗体が承認されたことに関するNature MedicineのEditorialです。
◯2023年5月、米国食品医薬品局(FDA)は、グラクソ・スミスクライン(GSK)とファイザーが製造したRSVワクチンを60歳以上の成人に使用することを承認し、欧州医薬品庁(European Medicines Agency)からも承認勧告を受けている。
・60歳以上の成人を対象とした無作為化プラセボ対照第3相臨床試験において、RSV融合糖タンパク質の融合前形態を標的とする両ワクチンは、RSVに関連する下気道疾患の予防において80%以上の驚くべき有効性を示した。
・これらのデータに基づき、米国疾病予防管理センター(CDC)は6月、最終的に中程度の推奨を選択し、60歳以上の人は医療従事者と相談の上、これらのワクチンを受けてもよい-むしろ受けるべきである-と慎重に勧告した。
・この慎重な勧告は、RSV関連合併症のリスクが最も高い人ではなく、より健康な高齢者に試験集団が偏っていることへの懸念を反映したものである。
・この勧告の結果、有望な結果やワクチンに対する一般的な熱意にもかかわらず、高齢者のRSVワクチン接種率は低下する可能性が高い。
・このような人々におけるRSVワクチン接種の有効性と安全性については、今後RSVが流行する季節に医療機関が実際のデータを収集・分析することにより、最終的に明らかになるであろう。
◯ファイザー社はまた、抗体が胎盤を通過して新生児を保護することができる妊娠24週から36週4におけるRSVワクチンの有効性を証明した。
・8月、FDAはこのワクチンを妊娠中の人に使用することを承認した。しかし、安全性については疑問が呈されており、ワクチン接種群ではプラセボ群に対して早産の頻度がわずかに(しかし統計学的に有意ではない)増加したことが観察されている。
・GSK社は昨年、早産の増加を理由に妊婦を対象としたRSVワクチンの臨床試験を中止した。
・早産は、RSV関連合併症のリスク上昇を含め、赤ちゃんにかなりの健康リスクをもたらすが、ファイザー社もGSK社も、潜在的な原因や決定要因についてあまり洞察を示していないが、ファイザー社のワクチンが最終的にCDCやその他の公衆衛生機関によって妊娠中の人への使用が推奨された場合、市販後のサーベイランスが非常に重要であり、その安全性をより明確にし、患者へのガイダンスとなる可能性がある。
◯RSV予防薬で最もエキサイティングな開発は、ワクチンではなくモノクローナル抗体であろう。
・アストラゼネカとサノフィが製造するF蛋白結合モノクローナル抗体であるニルセビマブは、早産児と健常児を対象とした第2相および第3相試験において、RSVに関連した下気道疾患の予防に70%以上の効果を示した。
・7月、FDAはニルセビマブを2歳未満の乳児および脆弱な幼児に使用することを承認した。母体の抗体は生後1年で減少するため、このモノクローナル抗体を使用することで、母親が出産前にワクチンを接種していたとしても、小児に対する予防の重要なギャップを埋めることができる。
・ニルセビマブは季節的な予防手段として想定されるが、実施上の課題や法外な費用を考えると、どの程度広く使用されるかは不明であり、特に低・中所得国(LMIC)での使用が制限される可能性がある。
・米国では、CDCが連邦政府が資金提供する「子どものためのワクチン」プログラムに含めるよう勧告しており、これにより米国の2歳未満の子どもの約50%が無料で接種できることになる。このニュースは心強いものだが、2019年には全世界で5歳以下の子どものRSV関連死が10万人を超えると推定されており、特に幼児とLMICsでの死亡率と罹患率が高い。したがって、ワクチンやニルセビマブのような予防療法を世界的に利用できるようにすることが極めて重要である。
◯重要な問題の提起
・乳幼児が母親のワクチン接種と抗体注射の両方から予防を受けられるようになる日は近いと思われる。しかし、これらの治療法が相加的な効果をもたらすかどうか、あるいはRSVワクチンを同時に接種した場合、妊娠中に定期的に接種される他のワクチンの免疫原性に影響を与える可能性があるかどうかは、まだ不明である。
・より広い意味では、ワクチン接種をためらう気持ちや反ワクチン感情が、ワクチン接種率に対する大きな障害となっている。医療従事者や地域住民のための適切なガイダンスや、これらのワクチンやニルセビマブに対する意識に関するデータ収集は、ワクチンの受容を助けると同時に、リスクのある人々をよりよく教育するための公衆衛生戦略への情報提供に役立つ可能性がある。

これらのワクチンと阻止抗体の承認は、公衆衛生にとって大きな前進であるが、公平な配布と効果的で透明性のあるメッセージングを確実に行い、広く摂取を促すことが、今、世界と各国の保健機関に求められている責任であるとのことです。

Science
An inhaled ACE2 decoy confers protection against SARS-CoV-2 infection in preclinical models 
https://www.science.org/doi/10.1126/scitranslmed.adi2623
*SARS-CoV-2を中和する代替手段としての高親和性ACE2とIgG1 Fcドメインからなるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)デコイ(デコイとは、囮のことで、二本鎖のDNAで転写因子などの核酸認識タンパク質を標的とするもので、タンパク質が認識する核酸配列を模倣し結合を阻害する機能がある)の治療効果に関する研究です。本研究グループは、以前に、げっ歯類モデルにおいて、その幅広いスペクトラムと治療の可能性を報告しています。
ここでは、現在臨床で使用されている抗体を完全に回避するXBB株やBQ.1株を含むオミクロン派生型に対しても、ACE2デコイが中和活性を維持することを示すことを試みました。
SARS-CoV-2は、中和剤の濃度が最適でない条件下で、野生型ACE2デコイとモノクローナル抗体を回避するSARS-CoV-2変異体を生成しましたが、人工ACE2デコイに対しては回避変異体は出現しませんでした。さらに、エアロゾル化したデコイの吸入は、静脈内投与の20倍少ない投与量で、SARS-CoV-2に感染したネズミの予後を改善しました。最後に、人工ACE2デコイは、SARS-CoV-2に感染したカニクイザルに対して治療効果を示しました。
これらの結果は、この人工ACE2デコイが、免疫を侵すSARS-CoV-2変異株を克服する有望な治療戦略であり、液体エアロゾル吸入が、COVID-19治療の有効性を高める非侵襲的アプローチとして考えられることを示しているとのことです。

2) 治療薬、 ワクチン関連       
国内     

海外    
[FT]新型コロナ、ワクチン接種で変異型の拡散防げ 
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB047ZE0U3A900C2000000/
*英国政府は東部ノーフォークの老人ホームで8月に集団感染が起きたことを受け、もともと10月から予定していたコロナとインフルエンザのワクチンの同時接種を3週間ほど前倒しした。ところが最新のコロナワクチンは公的な医療制度でしか供給されず、対象は重症化リスクの高い人と医療・介護従事者に限られている。
幸いにも感染拡大のピーク時ほどの深刻な感染の波は予想されていない。とはいえ、感染が広がれば国民の健康や生産性が損なわれる。会社が費用を負担し従業員に接種を促したい雇用主などに、なぜ提供されないのだろう。
現時点で専門家が注視している変異ウイルスは少なくとも3種ある。いずれもオミクロン型XBBから派生したものだ。感染力、重症化リスク、免疫回避能力の点で、ばらつきはあるが従来型より強力だとみられている。最も新しい「BA.2.86(通称ピロラ)」は5日までに9カ国で確認され、世界保健機関(WHO)が「監視中の変異型(VUM)」に指定した。8月に英国の老人ホームで感染を引き起こしたのもピロラだった。

治療薬      

3)診断・検査、サーベイランス関連
変異株     
オミクロン株派生型「エリス」が急拡大 50カ国以上で確認 
https://www.sankei.com/article/20230817-7AJWZFJZ5RIEBMPVVH5FYYK6HY/
*エリスの特徴に関して、簡潔にまとめている動画があります。

Long COVID

国内        
体温“39.7度”コロナ・インフル同時感染の恐怖…患者「味わったことのない倦怠感」 ワクチンは同時に打つべき?専門医が解説
https://www.fnn.jp/articles/-/587624?display=full
*「川崎医科大学・中野貴司教授:
2つ病原体が検査で検出されるということは、少なくともその検査する検体をとった呼吸器(鼻・喉)の粘膜、その場ではウイルスは共存しているんだと思います。
この同時感染については、医師も分からないことが多いという。
川崎医科大学・中野貴司教授:
教科書とかにも、同時感染の症状っていうのは書いてないと思うんです。医師たちもですね、そんなに経験があるわけではないですので。
広がる兆しを見せる同時感染…。
その時、私たちの身に何が起こるのだろうか? 」

コロナ感染でできる抗体保有率、若年層で7割前後 高齢者は3割弱
https://www.asahi.com/articles/ASR9H7V11R9HUTFL013.html?iref=pc_special_coronavirus_top
*「新型コロナウイルスに自然感染した後にできる抗体を保有している人の割合(抗体保有率)について、5~29歳は7割前後で、高齢者は2~3割弱であることが分かった。15歳以下や70歳以上の抗体保有率が明らかになったのは初めて。厚生労働省が15日に調査結果を公表した。」

コロナ感染が不安な父親は鬱病のリスク2倍 パートナー出産前後の男性調査
https://www.sankei.com/article/20230916-SMPB3M4UMNIU5MA65BCN6CTPFM/
*パートナーが出産前後の男性、コロナ不安でうつ病リスク2倍に
https://mainichi.jp/articles/20230917/k00/00m/040/081000c
*「パートナーの出産前後の男性が新型コロナウイルス感染症に強い不安を感じていたり、家族や周囲のサポート体制が不足していたりする場合、鬱病のリスクが約2倍に高まるとの調査結果を国立成育医療研究センターなどのチームが発表した。
同センターの帯包エリカ研究員は「父親は支援を求めにくい傾向がある。父親もメンタルに不調が出やすいことを認識して予防や対策に役立ててほしい」と述べた。」

インフルで学級閉鎖や休校、前週の7倍に急増…コロナでも都内小学校など大幅増
https://www.yomiuri.co.jp/national/20230915-OYT1T50269/

コロナ「第9波」加速か 3週間で倍増、学級・学年閉鎖も 群馬
https://mainichi.jp/articles/20230916/k00/00m/040/096000c

海外       

4)対策関連
国内      
コロナ医療、支援縮小へ 治療薬、最大9000円自己負担―来月以降の方針公表・厚労省
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023091501048&g=cov
*「同省の試算によると、新型コロナの初診料は3割負担だと治療薬を含め1万2270円程度。経口治療薬「パキロビッドパック」などは価格が9万円以上に上ることから、自己負担の割合は1割相当の9000円とする。
入院費補助は月額2万円から1万円に縮小した上で、来年3月末まで継続する。一方、4月以降は外来診療や入院医療費について通常の自己負担を求める方針。」

海外       

5)社会・経済関連   
日本の研究、米国など「後追い」1年半遅れ 論文7100万本分析
https://mainichi.jp/articles/20230914/k00/00m/040/091000c?f  
*「ある研究テーマに取りかかる時期が平均して最も早いのは米国で、世界をリードしていた。米国と比較すると、日本は平均1年~1年半程度遅れてその研究テーマに取りかかる傾向がみられた。英国は米国とほとんど時差がなく、ドイツは数カ月の遅れ。研究力の伸びが著しい中国は1~2年程度遅れていた。
また、「どれだけ先端研究に取り組んでいるか」を調べたところ、日本は90年には世界9位で、米英などと共にトップ集団に位置していた。しかし、徐々に順位を下げて2020年には13位となり、中国や韓国などと共に2番手集団に落ちていたという。」

「会計年度独立の原則」むしばむコロナ 予備費繰り越し3兆円超
https://mainichi.jp/articles/20230915/k00/00m/010/347000c
*コロナ予備費で多額の繰り越し ワクチン経費で治療薬購入も―執行状況公表求める・検査院
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023091500899&g=cov
*「会計検査院による2020~21年度の新型コロナウイルス対応予備費の検査で、各省庁へ配分され、使用が決定された予備費が翌年度に全額繰り越された事業が複数見つかった。事業の必要額算出で、年度内の残り日数ではなく、1年分の経費を見込んで要求していたケースもあった。財政法の「歳出予算は翌年度に使用できない」との規定を破り、会計年度独立の原則を無視するやり方がまかり通っている。【藤渕志保】」
*この記事の記者は、会計年度独立の弊害を全く考慮せず、正しいものという前提に立って論を進めています。
ものを考えない記者が堂々と記名記事をかくメディアは、信頼性に欠けます。

コロナ後経済、朝型シフト 飲食配達や英語学習も早朝に
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC1622M0W3A810C2000000/


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