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2024年韓国コミュニティ・オーガナイジング調査-民主化の担い手から寄る辺なき人々の組織へ

2024年コミュニティオーガナイジング調査に参加させてもらった。

わかったこと。

1. アリンスキー由来のコミュニティオーガナイジングは1980年代初頭までの韓国民主化、学生運動の理論と実践的な支柱。そこまではマルクス主義が禁止されていたことも理由。

2.家父長教会(Presbyterian)が担い手。アメリカからコミュニティオーガナイジングの理念と理論、金銭的支援はドイツから。他宗教、宗派への寛容さから、様々な組織の繋ぎ目になった。また、宗教的自由の下で独裁政権の弾圧からのサンクチュアリとして機能した。

3.Presbyterianおよび、YMCA, YWCAが組織化と訓練の場となった。

4.独裁政権が打倒されてから、学生運動、労働運動の主流は科学的(マルクス主義的)手法に傾倒し、コミュニティオーガナイジングから離れる。その理由は、コミュニティオーガナイジングが反政府、反体制の象徴となっていたことにもよる。

5.学生運動、主流労働運動から離れた、住宅、貧困、孤独、女性労働、非正規労働といった支援現場でコミュニティオーガナイジングは継続した。その教育訓練の場として、家父長教会、YMCA、地域労組が役割を担っていた。

6.主流派労組ではないところ。青年ユニオンにおいて2010年代になりコミュニティオーガナイジングが省みられるようになった。それは、階級や職場ということでは、労働運動や生活の基盤がつくれない人々をつなげる理論や実践が有効ではなくなったから。そこから、1980年代前半までの学生運動、反体制運動の主軸だったアリンスキー由来のコミュニティオーガナイジングの再評価がはじまった。

とくに、青年ユニオンリーダーが小規模政党の党首選挙にでたことで、選挙戦のなかで、コミュニティオーガナイジングとアリンスキーのことを紹介したことで、マスコミに大きく取り上げられ、絶版となっていたアリンスキーの訳本が再出版されたほか、新たに翻訳された本もあるなど、韓国社会でアリンスキーの注目が高まっているとの話も聞いた。

7.コミュニティオーガナイジングは、行政主体の社会福祉策へのカウンターとしても機能した。

 弱者を支援するということでは、支援される側が支援がなくなれば自ら何もしない。しかし、コミュニティオーガナイジングは支援される弱者が主体的に運動をリードするように促していくためのものであり、足下からの民主主義ということに他ならない。

 その意味では、職場ベースで時として企業利益を優先する労組や、支援する側とされる側を分ける社会福祉とは一線を画す。

8.訪ねた教会主体の地域組織は、女性労働者の労働運動を独裁政権時代から育成しており、時に政権からの弾圧やや保守派のキリスト教関係者からも批判されてきた。

9.しかしながら、信仰と信仰の自由の旗の下で、労働者による労働運動の小集団活動と組織化、リーダー育成を支援してきた。訪問先の牧師の1人は現在も労働争議の現場支援を行っている。

10. 仮のまとめ。コミュニティオーガナイジング、家父長教会、独裁政権と民主化運動、地域運動、女性労働、教会ベースのトレーニングとリーダー育成に加えて、2010年代以降のソウル市長による、住民参加型政策の数々、これらが、韓国における、組織間の利害調整、組織と個人との利害調整、といった、労使に止まらない、二元的ではなく、多元的な関係による民主的社会が実現されてきた。

11.そうした過程のなかで、政府は企業別には労働者が経営に関わることを義務付ける法律改正を行なった。

12.おもしろいところ。反体制、民主化運動と家父長教会、コミュニティオーガナイジングのつながりをみないと、韓国における連帯経済も理解は浅くなるだろう。

コミュニティオーガナイジング、アリンスキーはアメリカでは「共産主義者だ」との保守派からの攻撃もあった(現在もある)ところ、キリスト教保守派が反共の装置としても機能したことから、アリンスキーが独裁政権からも特段の反発を受けなかったというパラドックス。

科学的(マルクス主義)は韓国では1980年代半ばからおこったものであり、連帯経済の主体はそこからではなく、コミュニティオーガナイジングからではなかったか。

さりとて、コミュニティオーガナイジングはアメリカ型の集団的民主主義の手法であるとともに、現代的にはコミュニタリアン的と考えたらどうなのか。

一方、日本では労使が社会、地域から離れれば離れるほど、使用者・労働者、もしくは使用者・労働組合という二元的な関係に耽溺してしまい、労働者、企業、地域、政府といった多元的関係の拠り所が、総評がなくなったことで失われたのだろう、

韓国はキリスト教という場が、多元的関係を取り戻す機能を持ったが、日本では取り戻すというより、あらためて作らないといけないのではないか、

韓国のコミュニティオーガナイジングでは、社会正義、社会変革ということが強調される。これは革命のことではない。現代史とのつながり、ヒューマニズムに根ざした人間の心の幸福、それを実現するための社会正義と社会変革を基本にする。

現在の問題は、超格差社会、超少子化、気候変動。

産業宣教会(industrial evangelist)が独裁政権下から存在。

労働運動を支援する教会関係者のグループからはじまり、自立的に労働運動をリードできる小集団を育成する組織、industrial mission として、都市部の地域、生活問題の自主的解決を促すための活動まで広がりがある。

Industrialという名称はアメリカにおける民主主義や労使関係において使われる重要語で、たんなる産業ではなく、産業革命後のさまざまな問題をかかえる組織や地域をあらわす言葉であり、日本語になったいわゆき「産業」とか、「労使関係」のような訳では当然ながら収まらない言葉。

インタビューは、運動家、教会、政治学者、労働運動家、教会の民主化運動活動家など多面的に聞いており、おそらくここまで広範に聞かないと実態は掴めないとおもわれる。

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