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おでん屋奇譚16

布団の中で
何度も寝返りを打つ
自分の中に沸いた、妙な想像に取り憑かれて
それを肯定したり
否定したり
寄せては返す、思いに。煮え切らない。

眠れない夜。

牧さん
死んだ父親
初めて作った 親友
いなくなった 親友
さびしい
悲しい
喋り出すおでん
魔法
予言するおでん
不思議な力
牧さん
バンダナ
左手首のブレスレット
白い骨
真っ黒い猫
首輪
金色に光る

おでんが喋った日、牧さんがこう言った
「うん。俺も初め驚いた。実に奇妙なんだけど
そんな気がしていたこともあるんだ。」


牧さんて
牧さんて

人間・・・・・・なの?
一体 何者・・・・・なの?


眠れぬうちに
朝を迎えた

今日も凛とした空気
わざと窓を開け
息を吐いた

白い煙の先には
チラチラと舞い降りる 雪


寒くて嬉しい日は
もうきっと
来ないんだろうな。


薄く降り積もった雪
衛星都市の雪はアスファルトに
膜を張るくらいだが
それでも、子供達は
可愛らしい長靴で、タップを踏んでいる。

その光景を店の中から垣間見ては
気づかれぬように、目を細めていた。


新しいパンの売れ行きは、とても良い。
何しろ、あの可愛らしい黒猫の形をしているのだから。
チョコレートとフルーツピューレの
黄金比を練りこんだパン生地は
春のように美味しい。

今日もいい仕事ができた。
若手の職人達の労を不器用にしか労えない
三郎は「明日もいい仕事しろ。」と肩を叩く。

店のシャッターが下り

清掃が終わると
職人達は帰っていった。

あの事件以来
裏口にクロ達は来なくなってしまった。

新作のパンも食べさせてやれない。
あの坊やも、今こんな気分を味わっているのだろうか

しかし
今日はなにやら、予感めいた気分が
背骨の辺りを這い回っている。


(ニィ・・・ニィニィ)


裏口に近づいて
ドアを開いた。

そこには

はげ頭のおやじが綺麗にかかとをそろえて
立っていた。

そして

綺麗に一礼する


「ニィニィニィ・・・ニィ」

一瞬目じりが落ちそうになるのを
寸前の所で食い止め
三郎はおやじが腕に抱えている3匹の子猫達を見た。
まぎれもない、サブローベーカリーの常連
あのクロ達だ。

「うちの子供達が、大変お世話になりました。」

再び綺麗に一礼する。
その瞬間左手首のブレスレットが光った。

「いや。」三郎はすぐ背中を向けたかと思うと
裏口の棚においてあるトマト缶を差し出して
こう言った。

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