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月の下の、荒野を歩くけもの

莫迦みたいだ、と思う
全部、莫迦みたいだ
そうして、自分はまだ自分にそんなに価値があると思っていたのかと思う

わたしにとってわたしはそれほど大事ではなくて、まして他の誰かにとっては尚更、だった筈だ
何を、何に、失望することがあるだろう

誰も誰への価値も認めない
仮にそこを荒野と呼ぶ

少なくともわたしが立っているここは、ずっと荒野のはずだ

荒野を歩いているけもの、だった筈の自分に、いつの間にか価値なんてものを見出している
老いだ
自分の足跡に、歩いている自分に、価値があると思い込んでいる

莫迦みたいだ、と思う
誰も、誰かが、そんなことを言ったわけでもないのに

月の下の、凍った大地を走る獣を、美しいと思った
それから、わたしにとって荒野を歩くけものでいることが潔さになった

頽れて蹲り、最後の呼吸をするまで、わたしは荒野を歩くけものでいることができるだろうか

そうできないのなら、今すぐわたしを骨にして、どこか、誰にも見られない場所へ、埋めて仕舞ってくれたらいいのに

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