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世界最大の機関投資家BlackRockが恐れていること。

2023年10月4日 宍戸健

世界最大の機関投資家、泣く子もだまるBlackRock他合計7社は6月にBTCのETF(Exchange Traded Fund、上場投資信託)組成を米国証券取引委員会(SEC, Security Exchange Comission)に申請している。SECは8月末に一度回答の延期をしたが、この決定は10月16-19日にかけて通知されると思われる。(新しい経済The Block。)

ETFの申請が受領されると、BlackRock始め合計7社がBTCを買い集めることになり、膨大なBTC買圧力がかかることになる。尚米Coinbase社がBTC調達、管理することとなっている。

さて、BlackRock社がSECに提出したETFの目論見書(Prospectus)は例によって非常に長い文章なのだが、その中には重大なリスクについての明示している。その中でクレイグ博士が登場している。以下にその部分を翻訳する。

48ページ。

「さらに英国では、クレイグ・ライトという個人に関連する法人(Tulip Trading Limited)から民事訴訟が提訴されている。

この法人は、数十億ドル相当とされるビットコインの秘密鍵がハッキングによってアクセス不能になったと主張し、ビットコインネットワークに関連する特定のコア開発者に対し、秘密鍵にアクセスできなくなったビットコインアドレスから、同法人が現在管理している新たなビットコインアドレスにビットコインを何らかの方法で移転するか、あるいはビットコインネットワーク自体のソースコードを修正して、盗難にあったビットコインへのアクセスを回復するよう裁判所に強制するよう求める要求をしており、一連の斬新な法的理論を提唱している。

2022年、英国高等法院は、同法人が「裁判にかけられるべき重大な問題を立証していない」と判断し、請求を棄却した。しかし2023年2月、控訴裁判所は高裁の判決を全会一致で覆し、「審理されるべき重大な問題が存在する」とした。

裁判所が請求された救済を認める決定を下した場合、ビットコインネットワークのソースコード、運用、ガバナンス、および基礎となる基本原則に対する広範かつ根本的な変更が必要となる可能性があり、ビットコインネットワークに対する社会的信頼が失われる可能性がある。

あるいは、ビットコインの使用または英国における障害に直面し、流通が減少する可能性もある。他の国々の裁判所も同様の立場を取る可能性がある。これらまたはその他の可能性のある結果は、ビットコインの価値の下落につながる可能性があり、株式の価値に悪影響を及ぼす可能性がある。」

翻訳ココまで。

尚、この部分を発掘したのはTwetchのRandyです。よく見つけよな〜。
(目論見書に書かれている重大なリスクにはまぁー、いろいろ言い訳なんですが、他にはFTXみたいな事件がまた起こったとき、ソフトウェアに重大なバグが見つかったとき、とかいろーんな言い訳が書かれてあります。)

さて、BlackRockはクレイグ博士にびびってますね。(笑 こんなにびびるんなら、この裁判の結審するまで申請を取り下げればいいと思うんですが、どうしてもETFの組成はやりたいようです。

この背景は、以前書いた記事で解説しています。2020年2月以前にクレイグ博士のロンドンの自宅に何者から侵入し無線デバイスを設置しており、そのデバイスからクレイグ博士のネットワークに侵入し、約110,000Bitcoin(1BTCが約400万円として、約4,400億円)の秘密鍵を含むファイルが消去されていることが判明したことです。(Coingeek記事参照)

この事件は、即時ロンドン警察に不法侵入として届けられ、かつその後2021年に110,000Bitcoinの返還することに協力を求めて、BTC, BCH, ABC, BSVのプロトコルを管理する開発者に民事訴訟を起こした。主張の内容は、プロトコル開発者はソフトウェアを管理しており、本件のような事故、事件があった場合「管理者としての史実義務(Fiduciary Duty)」としてコイン返還に協力する必要があるということだ。

この裁判は上記のBlackRockの目論見書の中の説明にあるように、一審の判断では「裁判にかけられるべき重大な問題を立証していない」として棄却されましたが、第二審では「審理されるべき重大な問題が存在する」として再度審理されることになったのです。こちらは2024年に審理されることになっています。

なにもクレイグ博士は開発者を犯人だと言っているわけではなく、実際に盗難にあったコインについて有償で協力してくださいと要請しているのです。当然ながら、訴訟をする前にそれぞれの開発者に対して交渉の申し入れをしましたが、BSV以外は全て拒否。このため裁判をすることになりました。

この裁判はいわゆる分散型デジタル通貨が事件、事故などにより失われた場合にどのように法的に判断されるかが問われる非常に重要な判例となるはずです。「分散型プロトコル=法的責任を誰も持っていない。」ということは大きな誤解であるということが確定します。

ましては、今後ビットコインがビジネスや日常に大規模に使われることを考えると、個人や法人が事故、事件によりコインを失ったとしても、ある程度の金額(おそらく数億円レベル以上)と法的手段をとれば返還してもらえることが示されることは非常に良いことだと思います。

例えば日本での身近な例でいうと、SUICAの記名式のカードは、紛失した場合にはチャージしていた金額分も返還してもらえます。(JR東日本 Suica定期券・My Suica(記名式)をなくした場合の再発行)

というわけで、本日はBlackRockがクレイグ博士を恐れている理由と、英国での盗難コインの返還を求める裁判について解説しました。今月10月はBlackRock他のETFが決まるかどうか、炎の10月(Red October)になりそうですね。それでは本日はこの辺で。



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