“社会人”とやらになってみた

“社会人”になってやった。
なりたかなかった。ならねぇでやろうかとも思った。仕事なんてせずに遊び呆けてやろうかと。
嘘だなりたくてたまらなかった。社会人になって立場ってもんを得てみたかった。早く“大人”になりたかった。

だがなぁ、実際なってみると、なんだいこりゃあ。
派遣されたのは税金を扱う部署だが、毎日びっくりするほど同じことの繰り返しだ。終わったと思ったら、また次の日には同じような仕事がひょっこりと現れやがる。
その仕事の、まあやりがいのないことよ。
税金なんてただでさえ忌み嫌われてるもんなのによぉ、それを扱うなんざ、もちろんこっちだって気分の良いもんじゃねぇ。

“社会人”ってのはもっとこう、「責任」とか「成長」とか「展望」とか、なんていうか、学生の頃とは違う、ワンステップ上の“大人”の世界なんだと思ってたよ。
だがいざ蓋を開けりゃぁそりゃとんだ思い過ごしだってことがわかったよ。
毎日ちまちました作業を繰り返すだけの生活さ。そこにどんな“大人の世界”を見出せばいいってんだい。

もちろん俺ぁ結婚もしてないし、まだ入社して3ヶ月も経ってないペーペーだから、大人の世界を感じるなんてまだまだ早えぇってことかもしれねぇ。
だけどよぉ、俺が今見てるものが大人の世界の一部だってことには変わりねぇだろ?俺ぁこの世界で少しの間生きることになってんだ。ここで“大人”になる儀式が行われてくんだよ。
どうやって希望を見出せばいいってんだい?
大切なイニシエーションがしけたカラオケパブで行われるって考えたらどうよ?
「よーし良い大人になるゾォ!」
なんて思えるか?
そいつぁ無理な話だ。少なくとも俺にはな。

もしかしたら俺が仕事ってもんに求めすぎなのかもしれねぇ。仕事なんて単なる生活の手段で、そこに希望なんて見出すのが間違ってるってな。
それももちろんわかりはすんだよ。
けどこれもよぉ、また俺にとっては違うんだよ。
小学生や中学生の頃って言ったら、「大人になったら何になりたい?」とかいったことが特別授業なんかでテーマになって、それについて考えたりしたろ?加えて職業体験なんてもんもしたじゃねぇか。
俺ぁ少なくともそういう時間を通して、仕事ってもんに“大人の輝き”を感じたんだよ。
大人になるってことが、素晴らしいことのように思えたんだ。
実際、教育のテーマもそういうことじゃねぇのか?
んで俺ぁ夢を持ったんだよ。そう、まさに俺が今就いてるこの職業に就くって夢をな!
俺ぁ夢を叶えたわけだ。夢を叶えるってのは全ての人にとっての生きる目標だろ?(違うか?)ほんの一握りの人間しかなし得ないことさ。俺はそれを成し遂げた!
けどよぉ、こりゃぁないぜ。
あれだけキラキラさせてた“大人の世界”がよぉ、こんなにも魅力のねぇ色してるなんてよぉ。

おっと、ついつい長く話しちまった。
こんだけ文句言ってるけどよ、俺ぁ別に現代の教育とか仕事のありかたを変えろって言ってるわけじゃねぇんだ。仕事ってのにも色々あって、素晴らしい仕事もたくさんあるってのは知ってんだ。
ただ、俺個人が小さい頃から夢見てた世界が、この数ヶ月で崩れた、その報告だよ。
だからって俺ぁ仕事を辞めたりするつもりはねぇ。生活があるし、なによりそんな勇気は持ち合わせてねぇ。それだけの勇気があるんなら、ハナからこんな仕事に就いたりしねぇよ。
俺にできることは、ただ自分の仕事がどっかの誰かに少しでも役立ってて、その報酬として金を貰ってるんだって考えて、毎日を生きことだけさ。

すまねぇなぁ、“子ども”の俺。

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