OIST発ベンチャーが劇的に変える、プロテインドリンクの世界。
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彼らとの出会い
2019年3月5日(火)ー 東京の神田明神ホール会場は熱気に包まれていた.
今世紀において産業界と学術界に生まれた2つの新進気鋭な組織,NewsPicksとOIST(沖縄科学技術大学院大学)のコラボレーションによる,「Deep Techビジネス」についてのイベントが開催されたのだ.
私はどちらの組織にも思い入れがあり,一か月前から来場を楽しみにしていた.
テーマをもう一度おさらいする.
Deep Techビジネスー それは,「最先端の科学技術や研究開発によって構築された革新的なソリューションによるビジネス」のことを指す.
イベント当日は,研究者出身経営者,Deep Tech上場企業の副社長,現役の研究室教授など,多様な人物達が登壇し,オーディエンスを魅了していた.
Deep Techに賭けることが,
70億人相手に世界を変える道だ.
そんな言葉が登壇者から豪速球で投げられ,観衆の眠気を吹き飛ばす.
私は,メモを取る手が疲れてしまうほどの圧倒的な情報量に舌を巻いていた.でも興奮を覚える一方で,
「有望なスタートアップを現実に見てみないことには,絵に描いた餅で終わってしまうのかもしれない」
などとぼんやり考えていた.
そして次の瞬間ーZachary W. Bell率いるOIST発ベンチャー” 株式会社Shoreditch-son”が現れたときー私のメモを取る手は止まった.
彼らを既に知っていたからではない.
衝撃のあまり,手元の筆記に神経が行き届かなかったからだ.
彼らは何者なのか
人が何かに衝撃を受けるとき,それは既存概念が覆されたときだ.
それは例えば天は動かず,地が動くと知った学者の気持ちだった.
OISTーひいては既存の大学ーに対して私が持っていたイメージは,「研究に没頭する研究者集団」だった.
Shoreditch-sonは,そのイメージをいい意味で変えた.
”栄養補助食品のリエンジニアリング”
大きな文字でそう描かれたファーストスライドを見せた後,
プレゼンターであるCEOはプロテインパウダーを床にぶちまけた.
盛大だった.
固い表情と裏腹に,パウダーはふわふわ拡散していった.
会場に緊張が走ったのはいうまでもないだろう.
「プレゼンで失敗を取り戻すのは楽な話じゃない」そんな観衆の心の声が周囲をざわつかせていた.だが彼は,少し笑みを浮かべてこう続けた.
「これが既存のプロテインの問題です」
混乱が期待に変わった瞬間だった.
彼は続けた.
「僕らの解決法はシンプル—SEEDと呼んでいる,この固形物です.
これならこぼす心配はありませんね.
しかもほら,すごくよく溶けるでしょ.
そして—ポケットにだって入れられる.」
驚くべきなのは,私の固定概念についてだったのかもしれない.
プロテインシェイクをつくるのに必要なのはパウダーじゃなきゃいけないだなんて,一体だれが決めたんだ?
要するに,こうだ.
プロテインシェイクの既存の材料であるパウダーには問題がある.こぼしやすい,溶解性が低い,持ち運びにくい.
それらの問題点をすべて克服した製品が存在する.
その開発者であり研究者が,目の前にいるShoreditch-sonチーム,そして若きリーダーZachary W. Bellなのだ.
―もし私がプロテインパウダー会社の社長なら,反論の根拠を探すだろう(だが見当たらなかった).
彼らの狙い
Shoreditch-sonのCEO,Zachary W. Bellは,続けてこう語る.
「日本とアメリカのスポーツプロテインパウダー市場は,42億ドル.これが私たちの最初のターゲット市場です」
「で,世界のスポーツプロテインパウダー市場は,93億ドル」
「さらに・・・スポーツに限らないプロテインパウダーの世界市場は,164億ドル.つまり最初のターゲットは氷山の一角というわけです」
彼らはテクノロジーでもって,世界の164億ドル(日本円で約 1兆8286億円)市場をかっさらうかもしれない.
私の脳裏には,東京大学の御殿下記念館のトレーニングルームでプロテインシェイクを振る研究者たちの休日の姿が思い出された.Zachary W. Bellがあの光景を見たら,にんまりするかもしれない.
(ただし研究者とは不思議なもので工学的発明よりも流体の運動を記述するナビエストークス方程式の理解に関心の全てが集中している場合もある)
世界を変えるスタートアップ
「私たちは企業パートナーを募集しています」
そう締めくくってプレゼンが終わった.
拍手喝采だった.
私は,話を聞き終わってピンと来るものがあった.
科学者が事業家になると,圧倒的独自性をもった企業が誕生する.
世の中に革命を起こすには,誰も手にしていない技術で少しの変化を確実に起こしてやることが重要だ.それを彼らは熟知している.
気になったのは,「どんな企業パートナーが欲しいのか?」ということだ.天才的な発明があっても,それを普及させるには人為的なアレンジが要る.
私が聞いてみると,彼らは快く答えてくれた.
「既存の大手プロテインパウダー企業で,彼らが自身のパウダーを使ってSEEDを作製したいという要望があれば,私たちは契約ののち研究開発体制を取ります.完成したSEEDの技術に関してライセンスをお渡しします」
ビジネス戦略も,SEEDのように,丸くてかたくて溶解性が高い.
貴社のプロテインパウダーをアップグレードしたいなら,彼らのR&Dと組めばいい.
それは世界を変えることを意味する.
“革命は些細なことではないが,些細なことからはじまる.”
−アリストテレス
・・・
取材協力:
OIST技術移転セクション様
Zachary W. Bell様(株式会社Shoreditch-son, https://www.shoreditch-son.com)
文責:
水谷 健(株式会社Parks, http://parks-inc.com)
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