安倍元首相銃撃を山上単独犯と主張する陰謀論者への反証(Rev1)

安倍元首相暗殺の真相究明が日本の安全を担保する唯一の道
月刊Hanada2023年10月号の照井論文の不合理

「安倍元首相を狙撃したのは本当に山上なのか?」 著者 中田健二
 校正・編集 山岡鉄秀

「複数犯説、ライフル銃による狙撃説など、確かな根拠もなく、検証も不確かで強引な思考による推測」

 月刊Hanada2023年10月号の巻頭記事の書き出しは、この文章で始まった。元自衛隊幹部の軍事・有事医療ジャーナリストである照井資規氏によるものだ。この記事が対象としているライフル銃による狙撃説には私の著書である「安倍元首相を狙撃したのは本当に山上なのか?」も含まれているようだ。 

 私は著書の中で確かな根拠を示し、事実に基づく検証を積み上 げて論理的な思考のもとで山上犯行説を否定し、狙撃犯の場所、使ったと思われる銃や弾を推定し、安倍元首相を狙撃したのは山上では無いということを証明した。これに対して照井氏は、「確かな根拠もなく、検証も不確かで強引な思考」と断じた。著者としては自身の著書を根拠もなく一方的に検証も不確かで強引な思考による推測と決めつけられたことに不満を通り越して怒りさえ湧いてきた。 

月刊Hanada2023年10月号

 私と同じように照井氏の論文に怒りを隠せなかった人がいる。ジャーナリストの山口敬之氏である。山口氏は事件発生当初から安倍元首相暗殺の真相究明を精力的に行われており、アメリカでの実弾発射実験、医療関係者を含む膨大な数の人々へのインタビューを通じて山上犯行説はあり得ないことを確信し、それを広く発信されている。山口氏も照井氏の論文を看過できなかったようで、2023年8月30日の月刊『Hanada』チャンネルで照井氏と2時間にわたり討論した。

月刊Hanadaチャンネル 第9回

 討論の冒頭、照井氏は、絶対に狙撃説はありえないと言っていたが、山口氏が照井氏の論点の矛盾を指摘するにつれて、討論終盤で、絶対に狙撃説がありえないということではない、と主張を変えてきた。

 これで議論は終わったが、この事件を科学的に分析した技術者の立場から私も反論しておこうと思う。なぜなら、照井氏は絶対に狙撃説はありえない、なぜなら安倍元首相はこうして殺されたからだ、と主張している。それに対して我々は、安倍元首相は山上以外によって狙撃されたと主張している。照井氏が絶対にという単語を取り下げたとしても、照井氏の論理と我々の論理が並立することはありえないからである。

 照井氏は、見つからない狙撃犯を探し続けるよりも、山上を犯人と認定して政治家の演説時の安全確保を強化する方が合理的であると主張する。これは実に奇妙な論理である。安倍元首相暗殺の真相を究明することと、政治家の演説での安全を確保することは全く別の問題であり、両方ともに行わないといけないことである。照井氏は、ふたつの異なる問題を意図的にまぜこぜにすることで、山上単独犯行説に強引に誘導している。 

 本論文では、照井氏が月刊Hanada10月号の論文中で展開している山上犯行説の根拠と、我々が書籍やネット媒体の中で主張している山上以外の狙撃犯説の根拠を比較することで、安倍元首相暗殺の真相は未だ究明されていないことをひとりでも多くの国民に知らしめることが目的である。

銃弾の基礎知識、銃創の基礎知識?

 照井氏は記事の冒頭で銃弾の基礎知識と銃創の基礎知識に関して述べている。一般論が書かれているのではあるが、注意して読むと、ライフル銃は威力が強すぎて今回の事象の対象外だが、山上が使った散弾銃を模した手製銃の威力は拳銃並みの威力であり、今回報告された銃創を生じさせる可能性がある、ということを暗に示す内容であった。これは読者に先入観を与えることになり、真相究明のための記事としては不適切な始まり方だと私は感じた。弾の速度ひとつで威力は大幅に異なる。ライフル銃には亜音速弾という音速以下の速度を持つ弾もあり、ライフル銃は速度が音速より遥かに速いので今回の事象の対象外という主張には賛成できない。

 私は銃に関する知識を持ち合わせていない。従って使用された銃の候補を選ぶ際に専門家に協力を求めた。その結果、私は非常に強力な専門家の支援を受けることができた。彼は自衛隊の特殊部隊の関係者で、アメリカで訓練を積んだこともある武術と銃器の専門家であった。

 彼と議論を重ねた末、安倍元首相を狙撃した銃としてルガー10/22 バイナリートリガー機構付き、サプレッサー付きのライフル銃を選び、弾の候補として.22LR亜音速弾を選らんだ。理由は音響解析の結果、弾の速度が音速以下であったことと、安倍元首相の被弾状況から威力が強くない弾によるものと思われることである。それらを考慮して、威力は強くないが精度や殺傷能力に優れ、アメリカ軍やイスラエル軍の特殊作戦用にも使われた実績のある上記ライフルと弾を選定した。

 120msec間隔で2発の弾が着弾しており、複数狙撃犯の可能性もあるが、音響解析、画像解析の結果から、同一場所からの狙撃の可能性が一番高いことが判り、トリガーを引いた時に1発、トリガーを離した時に1発弾を発射するバイナリートリガー機構が付いた銃が使われたと推定した。.22LR弾はその危険性に対して過小評価されることがあるが、実際には多くの殺人事件や殺人未遂事件で使用されている。
例)
レーガン大統領暗殺未遂事件
     :1人死亡、3人負傷
セイナヨキ応用科学大学乱射事件
     :11人死亡、1人負傷

 .22LR弾に関して月刊『Hanada』チャンネル第9回で照井氏は射程の短さや威力の弱さについて言及し、この弾で心臓の壁を破ることは不可能だと断じた。照井氏の根拠は照井氏の射撃訓練の経験やゼラチンを使った実験によるものと思われる。

照井氏の.22LR弾では殺傷力がないという主張に対し、こちらは上記のとおり、元自衛隊特殊部隊関係者と相談の上で銃と弾丸の選択を行ったのであったが、さらに海外の専門家の意見を求めた。

まず、元海兵隊の民間軍事会社の銃器専門家からは、22口径で90メートルの距離であれば、確実に殺害可能との証言を得た。

さらに、ロンドン警視庁の元幹部を通じ、弾道学と爆発物の研究で博士号を持つ方からは、以下のフィードバックを頂いた。

「ライフルで90メートル(約100ヤード)の距離で発射された40grの.22LR弾の速度は1,000f/sの範囲にある。この数字をもとに計算してみると、その距離では120ジュールの残留運動エネルギーがある。射程90メートルで、腕のいい射手がいれば、22口径ライフルは正確な武器である。衝撃が中枢神経系(特に脳幹・延髄)の一部に当たれば、即座に致死となる。信じられないかもしれないが、.22LRは過去の暗殺用の口径として人気があった。もし、銃声を消すとしたら、サプレッサーが必要となり、ほとんどの場合(特殊なタイプのサプレッサーが使用されていない限り)亜音速弾薬を使用しなければならないが、その結果、力学は少し修正されるものの、全体的には結果はほとんど同じであろうと考えられる」

上記の二名は匿名が条件だったので、実名で証言してくれる人物を探し、元グリーンベレー(アメリカ陸軍特殊部隊)で、著名な戦場ジャーナリストのマイケル・ヨン氏から以下の証言を得た。

「良い銃を持つ狙撃手にとって、.22LRで100ヤード離れた標的を狙うことは非常に容易であり、ターゲットの目を打ち抜くことができる」

 これらの証言から明らかなように、.22LR亜音速弾は、88mの距離を難なく飛翔し、安倍元首相の頸部に着弾し、着弾後、胸腔内にある肺を経由して心臓に到達し得る。空洞である胸腔通過により、心臓に到達するまでに失ったエネルギーは非常に小さかったと推定され、その結果、心臓の壁を破ったと思われる。専門家たちの証言は私の推論を裏付けるものであった。狙撃手は銃声を消すために亜音速弾を使ったのである。

専門家らからはさらに、非常に参考になるYouTubeサイトを紹介された。
How far will a .22LR kill? (.22LRで殺害できる距離は?)

この動画では、イラク戦争に従軍した元兵士たちが、様々な距離で.22LRの殺傷能力を検証する実弾発射テストを行っている。この実験によれば、400ヤード(約360メートル)離れても致命傷を与えることが可能で、100ヤード(90メートル)であれば確実であることが証明されている。

また、続編の動画

では、高性能の銃と照準器があれば、500ヤード(450メートル)以上離れても致命傷を与えられることが示されている。こちらの実験では着弾を確認するために音を拾っているのだが、私が音響解析で発見したのとよく似た飛翔音が確認できる。

これらの動画における実証実験は、上記三人の専門家の証言に一致する。

安倍元首相の狙撃には当然高性能の銃と照準器が使われたはずであり、.22LRを使用しても100メートル以内の標的はプロにとって容易に致命傷を与えられることが証明された。

 真相究明で最も注意しないといけないことは、思い込みによる事実や可能性の排除である。照井氏によるライフル銃の排除は正に思い込みによる可能性の排除と言える。

治療上の記録だけが真実を語る?

 照井氏の論文で、ご自身の経験に基づき、治療上の記録と警察発表の内容を比べた場合、治療上の記録だけが真実を語るので、治療上の記録のみが正しいと考える必要があると記載されている意味は大きい。つまり、警察発表は経験上信用できないと断じているのである。ところが論理を展開する過程で、治療上の記録と奈良県警の発表を混同しているのは残念である。

 混同の理由は、奈良県警の発表内容に関して、検視結果と司法解剖の結果を同じかたまりとして扱ったことに起因すると思われる。具体的には、検視結果は2022年7月8日午後9時から行われた奈良県警幹部による記者会見の中で説明されているが、その中で、銃創に関しては、左肩に銃創1か所、前頸部に楕円形の銃創2か所を確認したと説明されている。これは、奈良県立医大の福島教授の説明と一致している。照井氏が議論の起点としている、頸部の銃創が1カ所という主張は司法解剖の報告書の内容である。奈良県警は銃創に関して2つの異なる内容を公表していたのだ。

 銃創に関しては、安倍元首相を搬送したドクターヘリに乗り、搬送と治療にあたった南奈良総合医療センターの植山徹医師がNHKの取材に対して、銃創が首の前側に2カ所、左肩に1カ所ある事を特定し、搬送先の病院の医療チームに伝えたと話している。つまり、ドクターヘリの医師、救急救命医、検視官、司法解剖医の銃創に関する所見の中で唯一、司法解剖医の所見だけが異なっている。面白いことに、ドクターヘリの医師、救急救命医、検視官は皆、事件当日に情報を公開したが、司法解剖医の結果だけが事件から4日後の7月12日に警察庁刑事局から発表されている。

 照井氏が述べる、治療上の記録だけが真実を語るという意味は、事件発生直後においては事実を変更する動機がないので、真実をそのまま語っていると考えて間違いはないという意味である。その意味で、事件発生直後に結果を公表したドクターヘリの医師も救急救命医も検視官も真実を語っていると認めうる。上記内容を表1にまとめる。

 照井氏は治療上の記録だけが真実を語る、と言いながら、論文の中では、左肩の銃創を射入口兼射出口(弾が跳ね返った)と言い、ドクターヘリの医師も救急救命の福島教授も奈良県警の検視官も司法解剖医も存在を示していないにもかかわらず、左胸に射入口があったと主張し、頸部の銃創のひとつを射出口とし、司法解剖でしか報告されていない擦過傷の存在を認め、右上腕に射入口があると主張している。治療上の記録だけが真実を語ると言いながら、自らの推測と司法解剖の所見を、自己の主張に都合よく混ぜ合わせている。治療上の記録だけが真実を語るというのであれば、福島教授の記録を正にして論理の組み立てを行うべきだ。

表1 安倍元首相の銃創についての
発表内容の違い
注1)警察庁刑事局からは7月12日に
国家公安委員会に説明資料を提出

混乱の元となった左肩の銃創

 ドクターヘリの植山医師も救急救命医の福島教授も奈良県警捜査1課長も左肩に銃創があったと言っている。しかし、照井氏を混乱させた理由はあった。左肩の銃創の位置の問題である。ドクターヘリの植山医師が左肩の銃創の位置をどのように搬送先の病院スタッフに伝えたのかは不明であるが、福島教授と奈良県警1課長が行った左肩の銃創の位置の説明は会見の動画の中に残っている。

 福島教授は記者の質問に対して左肩の前側と回答している。(写真1参照)。これに対して奈良県警1課長は記者の質問に対して左肩の外側を触っている(写真2参照)。

写真1と写真2

このときの奈良県警の対応が司法解剖での銃創の位置に影響を与え、射入口を左上腕部と報告した可能性があると私はみている。福島教授は自ら安倍元首相を治療しており銃創の位置を間違えないが、奈良県警捜査1課長は部下からの左肩という報告を自分の常識で考えて左肩外側を触ったのだろうと推定する。奈良県警捜査1課長が検視に同席し自ら安倍元首相のご遺体を確認しておれば、このような食い違いは起きなかったのではないか。この食い違いが、その後の奈良県警の情報操作に大きな影響を与えたと思われる。ちなみに、写真から銃創は左肩前側であることが確認できる。

判りにくかった左胸の血痕の原因

 照井氏は事件直後に安倍元首相の左胸に被弾したと報道する記事と、その記事中にある安倍元総理の左胸に血痕がある写真を見たと主張する。照井氏によれば、当該記事は早い段階で削除されて今は見られないとのことである。このことをもって照井氏は情報が隠蔽されたと判断し、左胸に射入口があると判断するに至ったと動画で説明している。しかし、この記事以外にも、安倍元首相の左胸に血痕がついている写真は広くネットで公開され今でも見ることができる。(写真3参照)

写真3

 左胸の血痕の原因はなにか?これは弾道を考えれば説明できる。福島教授は会見で頸部に射入した弾のひとつが左肩前側(左肩付け根前側)から射出したという見解を述べた。このことから弾道は、頸部⇒左胸皮下組織⇒左肩前側(左肩付け根前側)というルートであったと推定される。この左胸の皮下出血及び左肩前側(左肩付け根前側)の射出口からの出血が、狙撃後に横たえられた写真に血痕として映っていたのだと考えられる。ちなみ、心室を破ったもう一つの弾丸では皮下出血は起こらない。

 従って、安倍元首相の左胸に着弾があったとする照井氏の主張は、根拠が薄弱な憶測に過ぎない。また、もし事実であったなら、なぜ隠蔽する必要があるのか?警察は山上単独犯であったと結論しているのだから、それを証明する証拠をわざわざ隠す必要はないどころか、むしろ積極的に公表するはずである。そもそも、照井氏が削除されたと主張する写真は今も見ることができる。左胸に着弾したとの記事が削除されたのは、それが間違いだとわかったからである可能性が高い。何しろ、誰も報告していないのだから。

 照井氏は、左肩外側(左上腕部)の銃創について、弾が射入して骨で反発し、同じ位置から射出したと説明している。しかし前述のように、左肩の銃創は前部だったのである。照井氏は我々の見解を「確かな根拠もなく、検証も不確かで強引な思考による推測」だと断じながら、自ら不確かな根拠に基づく推測を行い、自ら信用できないとした司法解剖の報告を採用してしまっているのだ。驚くべきご都合主義である。

「狙撃説」はありえないという根拠が同時4カ所の銃創?

 照井氏はさらに、「狙撃説」はありえないという章で不思議なことを書いている。なんと安倍元首相の体に残された銃創が4カ所と書いている。照井氏は治療上の記録だけが真実を語ると明言しているが、その治療上の記録では銃創は頸部に射入口が2カ所で左肩前側(左肩付け根前側)に射出口が1カ所である。奈良県警の司法解剖結果の報告でも、左上腕部に射入口が1カ所、右前頸部に射入口が1カ所、頸部に擦過傷1カ所とあり、銃創が4カ所という情報はどこにもない。照井氏の論文には、銃創の位置を正確に記載した文章も図も存在しない。照井氏の言う同時4カ所の銃創とは何であろうか?

 一つ目の銃創は、左上腕部である。照井氏の論文の図6の中に、左上腕に射入し、上腕骨で跳弾となり射入口より跳出して消失(推定)とある。これは前述したように左肩の銃創の位置について、照井氏が、福島教授が示した左肩前側(左肩付け根前側)を採用せずに、奈良県警の司法解剖が言っている左肩外側(左上腕部)を採用したことによる。左肩外側からの射入では左胸の血痕を説明できないと判断した照井氏は、射入した弾が同じ場所から射出したという仮説をたてたと思われるが、大きな誤りである。そもそも、照井氏は山上の弾が下方から来たという前提に立っている。下方から来た弾が下方に跳ね返ることは物理的にあり得ない。

 二つ目の銃創は、左胸である。これは照井氏の論文にあるどの図にも具体的な場所が示されていない。唯一、図6の中で左胸の着弾について、致命傷となる心室への射入(推定)という記載がある。前述したように、この傷は誰も報告していないものである。左胸の血痕だけが照井氏の主張の根拠だが、頸部から射入した弾が皮下組織を通過する時に生じた皮下出血によるものと左肩前側(左肩付け根前側)の射出口からの出血であるとすれば説明がつく。

 三つ目の銃創は、頸部である。ドクターヘリの植山医師と奈良県立医大の福島教授によれば、頸部には2つの銃創が存在するが、照井氏はそのどちらであるか説明していないし、図の中にも具体的な位置を示していない。照井氏は、左胸から射入した弾が心室へ射入し、その後、頸部から射出したと論じているが、冷静に考えて欲しい。左胸に射入した弾が心室に射入するには、運よく肋骨を通過したとしても、そこから90度向きを変えて頸部に向かわないといけない。そうして頸部から弾が射出したとしたら待ち構えているのは顎である。心室から頸部に向かった弾が顎にあたらずに射出できるルートを私は作ることが出来ない。

 四つ目の銃創は、右上腕部である。これは奈良県警の司法解剖結果に右上腕骨で弾を発見とあることを採用した結果と思われ、それに対応する射入口を独自に作ったと思われる。この弾は公開されておらず、そもそも照井氏は司法解剖は信用できないと言いながら、なぜ部分的に採用するのか不明である。

 以上の結果から、照井氏が主張する4つの銃創の内、福島教授が示した銃創と場所が一致するものはたったのひとつ、頸部の銃創のみであり、射入口、射出口の整合性まで取れている銃創はゼロということが判る。治療上の記録だけが真実を語ると言いながら、福島教授による治療上の記録と全く違うこと主張するのには驚かされた。このような4つの銃創を根拠に狙撃説はありえないと言われても全く説得力がないばかりか、なんのためにそういう主張をしているのか理解できない。「狙撃説」はありえないという照井氏の主張こそがありえない。

「山上銃」と「銃弾」と「実弾発射」で検討すべきだった。

 照井氏が「山上銃」と「銃弾」に関する記載の中で、山上銃の製作難易度が高く、素人単独では製作不可能と言及したことの意味は大きい。ところが難易度を説明するために使われている事例が爆弾に関するものばかりなのである。記事の中で照井氏自身が言っているように、爆弾と銃では銃の方が技術的な難易度が高い。照井氏が成功事例として出している過激派の事例は爆弾の製作であり、手製の散弾銃の製作に成功した過激派はいないはずである。それだけ手製の散弾銃の製作難易度は高い。ところが照井氏の書き方では、過激派が支援すれば素人でも手製の散弾銃が作れるという印象を与える。これは、山上銃を模した手製の散弾銃での実弾発射についての考察が不十分なことが原因だと思われる。また、照井氏は上手く調整しないと爆発すると書いているだけで、爆発せずに実弾を発射出来た場合のことを書いていない。

 山上容疑者の手製散弾銃の再現が海外でいくつか行われたが、いずれも成功しなかったと照井氏は書いているが、それぞれの内容を書いていない。照井氏が指摘しているような爆発もあったが、爆発しなくても実弾発射の反動で銃身が後ろ方向に吹き飛んだ事例もあった。爆発しなくとも底部の蓋には非常に大きな力がかかり、海外での再現動画にあったように、底部や銃身が実弾発射の反動で後方に吹き飛ぶ可能性が高い。
(写真4参照)

写真4

 このことを書かないことによって、折角、手製散弾銃作成の難易度の高さを説明しているのに、難易度を実際より低く見せてしまっている。手製の銃では銃撃を実行できない可能性にまで踏み込まなければいけなかったと私は考える。

 手製銃では銃撃を実行できないことに踏み込まなかった理由は、「別の狙撃犯」はありえない、という主張であるので、山上犯行説を否定するわけにいかなかったからだ。「狙撃犯」はありえない、だから犯人は山上だという論理はいくらなんでも無理がある。山上が犯人であることを立証していない。犯人は山上だという結論ありきだから、無理な推論と都合のよい証拠だけを採用することによって、論理が破綻してしまうのだ。

山上の銃が空砲であった3つの理由

 照井氏は、発砲音の違いだけが、私たちが山上の銃を空砲である理由として主張していると理解しているようだ。照井氏は私の著書を読んだとのことだが、キチンと読んでもらえていたら、私が発砲音だけで山上の銃が空砲であると結論していないことを理解したはずだ。

 私は、山上の銃が空砲であることを、音による検証、反動からの検証、射界からの検証という3つの検証によって行っている。照井氏は、発砲音の違いを火薬の違いによると切り捨てているが、火薬の違いによって発砲音は異なるが、発砲音が異なる理由は火薬の違いだけではない。同じ火薬を用いても実弾と空砲では発砲音は異なる。

 私は著書の中で山上の銃の発砲音とBrandon Herrera氏が山上の銃を模して作った銃の実弾発射実験を行った時の発砲音を比較した結果を掲載し、その違いを説明した。Brandon Herrera氏が使用した火薬も黒色火薬である。下の図に両者の発砲音の周波数スペクトルを示す。図1は山上の発砲音の周波数スペクトルである。図2はBrandon氏の発砲音の周波数スペクトルである。図の縦軸は周波数、横軸は時間、波の色はその周波数の強度を示している。また上下のグラフは左右の音をそれぞれ示している。

図1 山上の銃の発砲音
図2 Brandon氏の銃の発砲音

 2つの周波数スペクトルを比べて判ることは、山上の発砲音は高い周波数成分が少なく、音の持続時間も短いのに対して、Brandon氏の発砲音は高い周波数から低い周波数まで広く周波数が存在し、音の持続時間も長いということである。この違いは空砲と実弾発射の違いから生じている。

 すなわち、実弾の場合、銃身内に弾が存在する為に、最初は音を作る空間が短いので、波長が短い高い周波数の音が発生する。弾が銃身内を移動するにつれて音を作る空間が長くなり、波長が長い低い音が発生する。これに対して、空砲の場合、そもそも弾が存在しないので音を作る空間が最初から長く、その結果、低い音が発生する。また、弾の移動もないので音の持続時間も短くなる。

 私の著書の初版には、山上の銃とBrandon氏の銃の周波数スペクトルの違いのみを示しているが、改定版では、火縄銃での空砲と実弾発射の周波数スペクトルの違い、ショットガンでの空砲と実弾発射の周波数スペクトルの違いも調べた。いずれも空砲は低い周波数の音が主体なのに対して、実弾は高い周波数から低い周波数まで広く存在することが確認できた。

 照井氏は単に音の違いに言及するだけでなく、周波数スペクトルのような科学的データを用いた空砲と実弾発射の違いを理解すべきであった。

 山上の銃が空砲であったことを示す反動からの検証と射界からの検証に関しては拙著に詳しく説明しているので、それを参照願いたい。簡単に説明しておくと、山上の銃で9mmの弾を6発同時に発射すると、600ジュールを越える大きな反動力を受け、あの日の山上のような歩き方はできない。また、山上は歩道に平行に道路を歩き、2発目を発砲した位置はマンホールの蓋の右端であることが詳細な画像検証で確認されている。山上の銃口は進行方向を向いており、そもそも安倍元首相に向いていなかった。仮にその位置から安倍元首相を狙って撃っていたら、90メートル後方の立体駐車場に着弾することはあり得ない。また、その位置から発砲しながら、安倍元首相以外誰も被弾していないのは不可思議である。

 なお、立体駐車場の壁や選挙カーのパネル、教団施設の壁で見つかった弾痕と言われるものが山上の銃が空砲ではない根拠として使われることがある。これに関しても幾つもの疑問点がある。

 第一に選挙カーの弾痕が、7月8日の犯行当日に報道されたものと7月13日の現場検証後のもので内容が違うという点。

写真5、写真6は7月8日に報道されたもので、写真7は7月14日に報道されたもの。

写真5,写真6、写真7

 写真5,写真6に残っている弾痕と言われるものと写真7に残っている弾痕と言われるものの位置や数や形状が違うことが確認できる。なぜ違うのだろうか。

 写真5、写真6は選挙カーの前側のパネルで、写真7は選挙カーの後ろ側のパネルであると記載しているブログもある。ここで、後ろ側のパネルが安倍元首相に面していたパネルになり弾が射入したパネルになる。ところが写真5や写真6と写真7を同時に掲載している報道記事はない。報道記事には、貫通か?、とか、貫通したとみられる、という記載があるのみである。写真5、写真6が選挙カーの前側のパネルで、写真7が選挙カーの後ろ側のパネルであるならば貫通したと断定するはずなのに断定されていない。

 山上の銃から発せられた弾が貫通したと仮定して弾道を計算してみた。弾道は水平角度と垂直角度で規定されるが以下に水平角度の結果を示す。
・安倍元首相に着弾する弾の角度:約45度
・選挙カーの後ろ側パネルに着弾する弾の角度:約75度
   選挙カーの後ろ側パネルと前側パネルの穴から推定した弾の角度
     後ろから見て左側の穴:約85度
     後ろから見て右側の穴:約80度

 上記結果から安倍元首相を狙撃したと言われる弾の角度と選挙カーのパネルに着弾した弾の角度が大きく違うことが判る。これが同時に起きたとは考えられない。また選挙カーに着弾した2発の弾の角度も山上の位置と選挙カーの位置から計算した結果と前後のパネルの穴の位置から計算した結果が大きく違い選挙カーのパネルにあいている穴が山上の銃から発砲された弾によるものとは思えない。

 奈良県警の主張は、山上の銃から発せられた弾が安倍元首相、選挙カー、立駐の壁に着弾したというものであり、上記の計算結果はこの主張と整合性が取れるものでは無い。山上、安倍元首相、選挙カー、立駐の壁が直線となるように奈良県警は山上の位置を変えることで整合性を取り、このことに疑問が生じないようにするために7月14日以降の報道記事には写真7のみが使われ写真5や写真6という選挙カーの前側パネルの写真が使われなくなったのではないかと推定する。

 また、教団施設の壁に残っていた弾痕と言われるものの姿も奇異に見える。写真8にその写真を示す。この写真から、弾痕と言われているものの数は6つ見ることができるが、それらの姿や深さは同じではなく、また角度も違う。特に違いがある2つの弾痕を写真8の左上のところに拡大して示す。発砲は1発であったので発射された弾は多くて6発であり、全て同じ弾のはずである。同じ銃の1回の発砲でできた弾痕とは思えない内容である。

写真8(弾痕と弾痕の拡大写真)

 余談になるが教団の壁の弾痕に関する報道の中には下のような写真もある。この写真と上の写真は明らかに違っている。同じ教団の壁の弾痕の報道であるにもかかわらず報道機関によって内容の違いが生じている。写真8‐1ではサッシの左横には金属のパーツが見え、ここにも弾痕と思われる傷があり他の弾痕と合わせると7つの弾痕が存在する。どちらの報道が正しいのか筆者には判らない。

写真8‐1(朝日新聞DIGITAL 2022年7月12日)

 立体駐車場の壁の弾痕と言われているものも山上の銃が空砲でないという根拠に使われている。これも7月13日の現場検証の際に発見されたと言われているものであるが、教団の壁の弾痕と言われているもの同様に不自然な姿をしている。その写真を写真9,写真10に示す。

写真9
写真10

 そもそも山上が発砲した位置からは選挙カーにも立体駐車場の壁にも弾が当たらないことは、拙著の中で射界の観点から山上の銃の銃口が安倍元首相にも選挙カーにも立駐の壁にも向いていなかったことを説明した。その上で、写真の弾痕と言われるものの姿の不自然さについても言及しておく。

不自然な点その1:
  着弾高さが低くすぎる。
   山上の位置と安倍元首相の体の
   銃創位置から計算すると弾の角度
   は約9度であるのに対して立駐の壁
   の弾痕と言われるものの弾の角度は
   2~4度であり角度が小さく着弾の
   高さが低く過ぎる。

不自然な点その2:
  弾痕の側壁が滑らかであり弾に
  変形がない。
   弾が壁に当たり壁の中に入るには壁
   の組織を破壊し破壊した物体を排出
   して壁の中を進んでいくことで成り
   立つ。写真10を見ると弾痕と言われ
   ている穴の壁面は破壊された跡とい
   うよりは機械加工された後のように
   奇麗である。
   入り口も垂直に切り立っている。
   幾つもの弾痕を調べたが、このよう
   な形の跡を見たことがない。更に
   不思議なことに弾も丸い形状を残し
   たままである。

 これらの不思議な弾痕が山上の銃によるものというのであれば、ぜひ再現実験を行って検証して欲しいと思う。

 このように、教団施設や選挙カーや立体駐車場に残された弾痕とされるものは、山上が安倍元首相に対して実弾を発射した証拠にはならない。

空砲を撃った山上の役割はなんだったのか?

「山上犯行説」はありえないと言ったが、では、空砲発射における山上の役割はなんだったのであろうか。私は、山上の役割を以下のように考えている。
1)母親による旧統一教会への過度な献金
  により家庭崩壊した背景を使って、
  安倍元首相銃撃に対する同情論を掻き
  立て、暗殺の真相究明の声を封じる。
2)爆音を発する銃を発砲することで聴衆
  の注意を引き付け、狙撃犯の弾に気づ
  きにくくする。
3)狙撃犯に狙撃のタイミングを知らせる。

 山上が発砲したので狙撃犯が安倍元首相を狙撃できた。狙撃犯は警察や国民に山上が安倍元首相を狙撃したと思わせる必要があるので、威力の強い弾は使わず、山上の銃から発砲されたとされる散弾の威力に相当する弾を使う必要があった。それが前述した.22LR弾である。

 また、狙撃犯の発射した弾が安倍元首相以外に当たらないように、安倍元首相の背後に人がいないように人員配置をした人物が存在したと思われる。これは警察内の人物である可能性がある。更には、狙撃犯の発射した弾が山上にあたらないようにするために、山上は安倍元首相の真後ろを避け、右後ろの道路上から発砲したと推測できる。

「緻密に計画された暗殺」における山上の役割はなんだったのか?

 このように考えた場合、安倍元首相の死は、「防ぎ得た死」ではなく「緻密に計画された暗殺」であることが判る。これは、防弾チョッキや警備計画で防げるものではない。同じような犯罪を防ぐには、安倍元首相暗殺の真相を究明するしかない。照井氏の記事は、奈良県警による捨て身の情報操作のように私には思えてしまう。照井氏の主張する対策を行っても「緻密に計画された暗殺」を防ぐことはできないからである。対策の強化を促すために山上を犯人と断定するのは本末転倒である。

 繰り返すが、安倍元首相暗殺の真相究明を行うことのみが次の暗殺に対する抑止力になる。きちんとファクトを認識し、そのファクトを科学的に解析し、狙撃犯がどこにいて、どういう銃でどんな弾を使って狙撃し、その弾の弾道はどういうもので、その弾道によって安倍元首相の体にどんな痕跡を残したか、それらの痕跡は治療上の記録に合致するのか、を分析することが必要である。ひとりの人間が行う分析では信憑性に問題があるなら、多くの人間が取り組めばよい。それこそ日本を代表する科捜研の優秀なメンバーが取り組めば良い。

 狙撃の真相究明ができても、犯行組織の解明を含む犯行自体の真相究明はできない可能性がある。それでも狙撃の真相究明を行い、山上以外の狙撃犯が存在することを示すことで、背後に邪悪な組織が存在していることを暗示することには大きな意味がある。安倍元首相暗殺の真相究明を政府が主導して行ってこそ、主権国家として日本が生きていける可能性が残る。それなくして日本の主権は存在しない。このことを全ての国民が重く受け止めるべきである。

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