ジャグの鼓動 〜序章〜後編
パチスロも好調で将来への不安も全くなく幸せの絶頂だった いつまでもこんな日々が続いていく 当時の僕は本気でそう思っていた
変わらぬパチスロ生活が続いていく中で、少しずつだが気になる事が増えていった。
まずは北斗の設定状況が悪くなってきた事、当初はガチ勢は僕だけだったが、日に日に他の専業が増えていき、それに呼応するかのように高設定が少なくなっていった。
もう一つが大山さん 明らかに負け続けており、どんどん元気がなくなっていってるように思えた。
兎にも角にもパチスロしか収入がなかった僕は設定状況が悪くなろうが、打ち続けるしか道はなく、日増しに悪くなっていく設定状況に段々とイライラが積もるようになっていった。
そしてそれは起こった。
その日、僕は何日間か連続で高設定を掴めずかなり焦っていた。そして何とか辿りついたと思った北斗で天井(1999g)までいき、見事なまでの単発を喰らって呆然としていた時、大山さんが『おー兄ちゃんやっと光ったけん揃えてくれんやろか』と北斗の島にやってきた。
いつもの笑顔だった。 ただ、その時僕はその笑顔に何故か無性に腹が立った。 そして僕の中で何かが音を立てて切れた
『いい加減にしろよ!いつまで人に頼ってんだよ!そんなんだから負けてばっかなんだよ‼️』
ハッと我に帰った時には遅かった。
何事かとこっちを見てくる周りの人達、見た事ない悲しい顔で俺を見てる大山さん。 パチスロの騒音が響く中で、僕と大山さんはお互い何も言わずに、ただ向かいあってるだけだった。
どれくらいの時間向きあっていたか分からない。大山さんが『兄ちゃんすまんかった』と言い残して北斗の島から出て行った。 僕は何も言えなかった。
そして次の日から、大山さんはそのホールに来なくなった。
僕は変わらずにそのホールで北斗の設定狙いを続けていたが、やはり全盛期程は稼げなくなっていた。大山さんの事はもちろん気になっていたが、正直それどころではなかった。
それから3か月が経ったくらいだろうか、大山さんの事も忘れかけていたある日、ひょこりホールに大山さんが現れた。
僕を見つけるなり『兄ちゃん久しぶりやな。元気にしとったか?』あの頃と変わらない笑顔で話しかけてきた。僕も久しぶりに会えたのが嬉しくて『大山さんこそ何しよったん?元気やったと?』と返した。 ただ良く見ると明らかに前より痩せていた、いや痩せてるというよりやつれていた。 大山さんは僕の視線を感じてか『心配するな』と小さく言った。
そして『兄ちゃん実は俺引っ越す事になってな、今日来たんは、最後に兄ちゃんの顔を見たかったのと、ジャグラーを打ちたかったんや』と言いだした。 僕は『そうか残念やな』とだけ返した。
『兄ちゃん最後に隣で打ってくれるか?』大山さんがジャグラーを指差しながら聞いてきた。 『もちろんよかよ。打とうや』二人で並んでジャグラーを打ち始める。
大山さんは、千円札を10枚下皿に入れて『今日はこの1万だけ打つ。1万なくなったら帰るな』と呟くように言った。 僕は『最後なんやけん好きに打ち、金ないなら俺が出しちゃるけん』と言いかけて、言葉を飲み込んだ。
思えば、今まで大山さんはいくら負けても金の話しなんか一切してこなかったし、コインを貸したのですら、いつかの光った後の1枚だけだった。 ここで金の話をするのは、大山さんに対して非常に失礼に感じたので、何も言わずに頷いた。
大山さんはその日もなかなか当たらなかった。 下皿の千円札は1枚また1枚とサンドに消えていき、気がつけば最後の千円札1枚になっていた。 僕も最初は隣の台を打っていたが、途中からどうでも良くなり、大山さんの台をじっと見ていた。
そしてとうとうコインが最後の3枚になってしまった。大山さんはそのコインを投入口に入れて『これが最後かぁ』と呟いた。 僕は堪らず『大山さん、金貸しちゃるけん好きなだけ打ちいよ』と言ってしまった。
大山さんはいつもの笑顔で『兄ちゃんありがとう。でも俺はこれで最後なんや』とレバーを叩いた。 この時、僕は大山さんの異変に気が付いた。 異変というより、言葉では説明出来ない何かが、その時の大山さんにはあった。
そして大山さんの指は第1停止ボタン、第2停止ボタンを押し、最後の第3停止ボタンを押した。
僕はこの時、光ってほしいと思う反面、絶対に光らない確信みたいなのがあった。 単純に確率的に厳しいというのもあるし、当時はパチスロで生活しているプライドもあり、そういう都合の良い展開なんか起こる訳ないと思ってたからだ。
『兄ちゃん離すで』大山さんが祈るように言った。そして指がボタンから離れたその瞬間
GOGOランプが光ったのだ
『おい兄ちゃん光ったで!見てくれよ!』 ランプを指差しながら喜ぶ大山さん。
僕はあまりに信じられなくて呆然としていた。 ただあのランプが光った瞬間は、今でもハッキリと覚えている。
そして大山さんの顔を良く見ると、涙が出ていた。大山さんは涙を流しながらGOGOランプをじっと見ていた。 僕は『何や大袈裟やな、揃えるで』とボナを揃えようとしたが、大山さんは『兄ちゃん悪い、あとちょっとだけランプ見させてや』とじっとランプを見つめていた。
しばらくランプを見て満足したのか『じゃ兄ちゃん揃えてくれるか?』と言って来たので、ボーナスを揃えた。 BIGだった。BIGを消化し終えると大山さんは『兄ちゃん本当にありがとう。元気でな』と握手を求めてきた。 僕も手を握り返し『大山さんも達者でな』と返した。それから少し思い出話をして、大山さんと別れた。最後まで大山さんはいつもの笑顔だった。
それから月日が流れ1年近く経ったある日
僕は相変わらずパチスロを打っていた。もう北斗は打てるような状況ではなく、変わりにストック機のハイエナ等をやっていた。
ボーと台を打っていると、いきなり肩を叩かれて振り返ってみると、大山さんの奥さんだった。 奥さんは『いきなりで申し訳ございません。大山の家内でございます。覚えてらっしゃいますか?』と聞いてきた。
僕はあまりに急で少しびっくりしたが『もちろんですよ。何度も夕食ご馳走になったじゃないですか。大山さんも一緒ですか?』と聞き返した。 奥さんは少しうつむいた後に『少しお話し出来ますか?』と言った。僕は『大丈夫ですよ。ちょっと外に出ましょうか』と言って呼び出しボタンを押し、店員に食事に行く旨を告げて奥さんと近くのファミレスに入った。
そして、奥さんから大山さんが癌で亡くなった事を告げられた。
実は大山さんはかなり前から癌にかかっており、入退院を繰り返していたそうだ。そして一時は状態も良く、パチスロが打てるまで回復したが、1年ほど前に急に悪化して、再び入院していたとの事。
話を聞くに、最後二人でジャグラーを並び打った少し後に病院に入ったみたいだった。 僕はショックで何も言えなかった。
それから、奥さんから大山さんの事を色々と聞いた。 遺産でかなりの財産があったが、パチスロと癌の治療でほとんど使ってしまった事。 息子さんがいるが、パチスロにハマった大山さんに愛想を尽かして息子さんは家を出ていき、疎遠になってしまっている事等。
そして入院中は 『あいつはいつも勝ってて羨ましい』 『あいつが息子だったら、いつも一緒に打てたのに』と僕の話を良くしていたとの事。
最後に奥さんから『大山から、あなたにぜひ渡してほしいと頼まれている物があります。お守りだって、死ぬまで肌身離さず持ってました』と小さな封筒を渡された。
中を開けると、パチスロのコインが1枚入っていた。 あの時、大山さんが返そうとしたコインだと直ぐに分かった。
しばらく僕はコインを見つめたままだった。
奥さんと別れたあと、僕は色々考えた。 どうして大山さんは僕を気に入ってくれたのか? あの時、僕が怒鳴った時大山さんはどんな気持ちだったのか?
最後のGOGOランプが光った時 そしてランプを見つめていた時間、大山さんは何を考えていたのか、、、
大山さん 僕の事覚えてますか?あれから20年近く経ちますが、僕はまだパチスロ打ってます。 しかもあの時、あんなに嫌っていたジャグラー専門でやってます。 今は結婚もして、息子も生まれました。 今ならあの時よりは、大山さんの気持ちを理解出来ると思います。 今でも余りコインでランプが光ると、大山さんの事を思い出します。 これ大山さんが光らせてくれたんだなって、思う時もあります。 怒鳴った時は本当にすいませんでした。
そして最後に光ったあのGOGOランプを
僕は一生忘れません。
byジャグ二郎
※この物語はジャグ二郎の実体験を元に作成したフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
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