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Atelier FUJITAYA

2024年4月30日
新店舗のスタートに伴うAtelier FUJITAYA最終営業日。

GWの真ん中、祝日でもなんでもない火曜日がこの場所に靴磨き屋が存在する最後の日。
窓の外は当然のように静かで、トラックと軽自動車がほとんど交互に通り過ぎるのみ。
いつも通りの時間が流れていく。


この街を選んだ訳ではなかったがこの建物は好きだった。
いつからあるのか分からないが以前はフジタヤ氷菓店としてアイスキャンデーを販売していたと聞く。
昔ながらの棒アイス。
その時代のフジタヤのことは何一つ知らないが、少なくとも自分が生まれてからしばらくはフジタヤ氷菓店として存在していたようで、その事実がまた時代の歪みのようななんとも言えない不思議な錯覚を引き起こしているのかも知れない。

大きなオレンジ色のアクリル扉を抜け中に足を踏み入れる。
正面の靴磨き台は、かつて氷を貯蔵する為に使っていたという地下室に蓋をしてその上に設置した。
東京から戻ってきてこの場所を使い始めた頃、一度本気でこの地下室を改装して使おうかと考えたこともあるが現実的ではなかった。
仕方なく地上で活動することにしたが、何度か模様替えを重ねるうちに悪くないアトリエになっていったように思う。


人口2万人弱の小さな街にどうやったら人を呼べるのか。
一年半の営業期間はそればかりを考える日々だった。
個人事業という機動力を最大限に活かしながら、様々試しては変化を重ねていった。

その結果相も変わらずに静かな街だったが、きっとそれで良かったと思う。
だからこそAtelier FUJITAYAは稀有な精神を維持できたとも思える。
ここはそういう世界だった。少なくとも僕自身にとって。

Atelier FUJITAYAは”靴磨き屋山岸賢治”にとって作業場でありお客様を迎え入れる店舗であると同時に、彼自身を受け入れてくれるギリギリ調和の取れた異世界でもあった。

最後の営業日にこの文章を書こうと思ったのは、僕からの精一杯の感謝だと思う。そしてこの文章を書ける時間はAtelier FUJITAYAが僕にくれた価値のある時間だ。


2024年4月30日
今日も静かで美しいAtelier FUJITAYAにて

Atelier FUJITAYA(2022〜2024)
〒399-0421
長野県上伊那郡辰野町辰野1632−1

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