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自動価格調整が独占禁止法違反になる時代に備えて知っておくべきこと - 強化学習の報酬の仕組み

3/31に公正取引委員会が、アルゴリズムや人工知能 (この記事手では2つをまとめてAI技術と呼びます) を通じた複数の企業による価格調整が、独占禁止法違反になる恐れがあるという報告書をまとめたという記事が出ていました。
下記が関連する記事の引用となります。

公正取引委員会は31日、アルゴリズム(計算手法)や人工知能(AI)を通じた複数の企業による価格調整がカルテルとなり、独占禁止法違反になる恐れがあるとの見解を盛り込んだ報告書をまとめた。人間が直接かかわらない最先端のデジタル技術がビジネスに使われる事例が増え、従来の独禁法をどう対応させるかが焦点になっている。

引用元: 日本経済新聞(https://www.nikkei.com/article/DGKKZO70545780R30C21A3EE8000/)

この問題は、デジタルカルテルとして長い間議論されているものです。
デジタルカルテルは自分に関係がないことだと思っている人も多いかもしれません。
しかし、デジタルカルテルは、意図せずAI技術で実施してしまう可能性があるという厄介な問題があります。

価格調整をするAI技術の導入

この記事では、ホテルの仲介システムを提供している会社を例にして考えてみます。
この会社は競合より多くの売上を上げてるため、競合を分析しながら最適な価格を設定しています。
しかし、最近は価格変動が激しくなってきているため、人間による価格調整ではなく、価格の自動調整ができるAI技術を導入することにしました。
AI技術が提供するものは以下のとおりです。

「AI技術が提供するもの」
他社が提示しているホテルの料金を常に監視し、自社で提示するホテルの値段をリアルタイムで調整し、売上を最大化していく

公開されている情報を用いて価格調整するので、人間がやることをAIにやらせていくようなイメージです。
この価格調整の実現のために強化学習を用いていきます。

報酬を最大化する強化学習

強化学習では、エージェントと呼ばれるプログラムが決められた報酬を最大化するために、次の行動を決めます。
そして行動の結果得られた状態と報酬で学習を実施し、次の行動を決めます。

強化学習 - 強化学習 (1)

ホテル価格自動調整におけるエージェントは、行動として価格の調整、報酬として売上、そして状態として他の業者の価格情報を得ます。
つまり、マーケットの状況と今までの価格と売上を見つつ、次の価格を決めていくということです。
これだけ聞くと、全く問題がないようなAI技術です。
しかし、このAI技術による自動的価格調整により市場価格の上昇をもたらしてしまうことがあります。

報酬の最大化による自動価格つり上げ

エージェントがどのように価格を決定するかは、得られる報酬によって変わってきます。
このとき、同様のシステムを複数社導入していくようになると、市場価格が高騰するリスクが生じます。
複数社のエージェントが報酬を最大化するために、徐々に価格を上げていく行動を繰り返していき「価格のつり上げ」が自動的に起こる可能性があるということです。

強化学習 - 価格上昇

そして、マーケットがこの状況になってしまった場合、導入したAI技術によって独占禁止法違反の疑いをかけられる可能性出てくるということです。
もちろん、顧客が高すぎるものは買わないであったりとか、価格の調整には様々な制約があります。
しかし、自動的に報酬を最大化するAI技術を導入する動きが加速したとき、このような問題が起きる可能性は十分にあると思います。実際、過去にも航空券の価格を吊り上げるシステムが問題なった事件もありました。 (参照: ATP事件 (BUSINESS INSIDER https://www.businessinsider.jp/post-211405))
AI技術が導入コストが低くなって身近になり、またデータがより簡単に手に入る時代となってきた今だからこそ、AI技術を導入する側が市場に与える影響を理解していく必要が出てきています。

まとめ

オープンな情報を使って報酬を最大化する仕組みを構築していても、独占禁止法違反とされる時代は目の前に来ているのかもしれません。
報酬の最大化が価格のつり上げを起こす可能性があるのは、報酬を短期的な目線で設定しているのが問題だと私は考えています。
DXが進み、顧客との接点が見えやすくなってきた現代では、長い目線での顧客との付き合い方が必要となってくると思います。
短期的な利益だけを追求して、顧客満足度が下がる行動を取ってしまっては良い関係を顧客と築くことはできません。
顧客満足度など顧客目線の報酬を強化学習の報酬の一部として入れ、顧客との長い付き合いを前提としたAI技術が今後必要になってくると私は考えています。

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