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目標を形骸化させないために

多くの人が1年の抱負を年始に立てる。
「英語を頑張りTOEICで高得点取る」とか「新しい技術を学んで転職する」とか「旅行のために貯金する」などさまざまだ。
そして、2021年も半年たった今、その抱負はいまどうなっているだろうか。
立てた抱負すら忘れている人が多いのではないだろうか。
1年の抱負は大きな目標であり、実際にどのようなことをやっていくかというアクションと紐付いていないことが多い
そして、アクションが紐付いていないと、定期的な振り返りで目標がどのくらい達成できているのかを確認できない。
このようにして、年始に立てた大きな目標は忘れさられていく。
そして、次の年を迎えたときに「今年こそは達成する」とまた同じような抱負を立てて、同じことを繰り返す。
これは誰しもが経験したことのあることだと思う。

会社で立てる目標

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個人で立てた目標の達成が難しいことは皆さんご存知だと思うが、会社で立てた目標はどうか。
会社では新しい期が始まるときに、その期に達成するべき目標を立てる。
そして、毎月目標の進捗を確認したり、半期や四半期に目標の大幅な見直しをおこなったりする。
しかし、会社で立てた目標も個人の目標と同じで容易には達成できない
場合によっては、目標の進捗確認が未達の報告をするだけの状態が続き、毎回達成できない言い訳だけを考えるようになり、その結果、目標自体が達成できないものとして形骸化してしまう。
こうなってしまっては、この会社でのビジネス成長は見込めない。
では、目標をビジネス成長につなげるために、成長し続けるトップカンパニーはどのように目標を設定しているのだろうか。

成長し続ける会社の目標設定

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毎年成長し続けているトップカンパニーであるNetflixを例に見てみる。
有料会員数が2億人超えで日本の人口を遥かに越えているNetflixは、2021年第一四半期の会員数の伸びは鈍化したものの400万人増加という驚異の伸びを見せている。
そして、月次の解約率は、創業当初は約10%だったものが、2005年に約4.5%となり、2019年には2%まで下げており、サブスクリプションサービスを提供する会社のお手本となる企業だ。
最近はゲーム事業にも参入するということでも話題となっていた。
Netflixでは、会員の継続率を会社の重要指標としている。
しかし、継続率は重要指標ではあるものの、継続率の増減を追うためには大規模なA/Bテストをする必要があるため、すべてのプロジェクトで継続率を指標として追い続けることは現実的ではない
そこで、Netflixでは継続率をあげるという目標を直接使うのではなく、プロキシメトリクスというものを用いている (参考: NetflixのGibson Biddleの記事)
プロキシメトリクスとは、

「Proxy = 代理」+「Metrics = 指標」

つまり、代理指標と呼ばれるもので、本来目指す指標の測定がすぐにできないときに代理として用いられる指標のことだ。
Netflixでは、「新規会員のうち、初回セッションでキューに3タイトル以上追加した人の割合」をプロキシメトリクスと用意した。
そして、このプロキシメトリクスを向上させたことで、結果的に継続率88%から90%に上がったということだ。

プロキシメトリクスで重要なこと

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では、プロキシメトリクスをどのよ設定すればよいのだろうか。
プロキシメトリクスを設定するときに重要な点として、Gibsonは以下のようなものを上げている。

1. 測定可能である
2. 変更可能である
3. 平均ではない
4. 上位レベルの指標と相関する
5. 新規顧客と既存顧客を区別する
6. ゲーム性はない

この中で、私が特に重要だと思ったのは、「3. 平均ではない」ことと「5. 新規顧客と既存顧客を区別する」ことだ。
この2つは「シンプソンのパラドックス」を避けるためにも目標設定時に常に考えておくべきことだからだ。
本来であれば別々にしていれば観測される傾向が、混ぜてしまうことによって見えなくなってしまうシンプソンのパラドックスは、目標を設定する世界でもよく見かける。
シンプソンのパラドックスに気づかないと、ビジネスとして間違った意思決定をしてしまうことになる。
しかし、実際の現場の目標設定でここまで考慮されることは少ない。
こういうところにこそ、データサイエンティストが正しい数値目標の設定と評価の仕方をサポートすることが重要となる。

プロキシメトリクスで目標達成できるわけではない

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もちろんプロキシメトリクスは目標達成を保証するものではない。
プロキシメトリクスは結局のところ、現場に近い粒度で現実的に実行・到達できる目標に、もとの大きな目標を噛み砕いたものにすぎない
プロキシメトリクスを用いたところで、目標設定のアンチパターンに陥るとすぐに目標は形骸化してしまう。
目標設定において、よく見かけるアンチパターンをいくつか紹介する。

[アンチパターン1] アクションとつながらない
新年の抱負と同じ状況だ。
アクションとつながらない目標は達成されないと言い切ってもよい。
現場の業務を理解していないために、目標と日々やっている作業がすりあわないということはよく見かける状況だ。

[アンチパターン2] 根拠なき目標からの逆算
経営やチームがこうなりたい姿というのがあり、そこから逆算して無茶な目標を設定してしまうことがある。
目標が達成をしなくてもよくて、ただ全体の方向性を示すだけの指標であるのであれば問題ないかもしれない。
しかし、達成すべき目標として掲げるのであれば、根拠のある数値目標を考えないと現場がただただ疲弊していくだけになる。

[アンチパターン3] 振り返りを長期化
目標が達成できるかどうかの振り返りを長期化させると、方向転換のタイミングが遅くなる
そのため、目標との乖離に気がついたときには、時既に遅しということになってしまう。
もし、更新頻度が高くない目標を設定してしまっているのであれば、短い期間で確認できるプロキシメトリクスを用意すべきだ。

[アンチパターン4] 責任者が不在
設定された目標に責任者が不在である状況をよく見かける。
特に組織における目標だと複数人が関わるため、誰かが目標を牽引してくれると思い、お見合い状態になってしまいがちだ。
このような状況になると、目標の数値のトラッキングや振り返りが実施されなくなってしまい、期限になって何も進まなかったこと気づくことになる。

[アンチパターン5] トップダウンで全ての目標を設定する
トップダウンで目標を設定すると、目標を達成する人にとって、目標は自分のものではなくなる
達成したいものを自分を決めてこそ、目標は自分のものとなり達成に近づくための行動ができる。
もちろん、個々人が好き勝手に目標を設定していいということではない。
会社の大きな目標に合わせて、その枠組の中で目標を設定する必要がある。

最後に

目標設定のフレームワークやアンチパターンはたくさんあれど、結局のところ、何のために目標を設定するかが重要だ。
目標は個人や会社が一丸となって、自らを鼓舞しつつ達成するものである。
そのため、目標を自らが考え、自分のものとする必要がある。
個人で目標を設定をするのは難しくないが、会社で目標を設定することを難しいと感じる人は多い。
もし、社員が自発的に目標を考えない人が多いと考えているのであれば、それは社員の問題ではなく、目標を立てたくなるような仕事や環境を与えられていない会社に問題がある
自戒を込めてここは常に意識していきたいと思う。

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