2022年2月22日

🟡 利用者の尊厳を守る「おむつ外し」への取り組み

 そのほかの取り組みでは、利用者の尊厳を守る排泄ケアを提供しようと、平成21年から利用者のおむつ使用をなくすことに取り組んでいる。自立支援介護の実現を目指すカリキュラムが盛り込まれた公益社団法人全国老人福祉施設協議会の「介護力向上講習会」を受講し、ケアのベースにしている。
 講習会で得た知識・理論をもとに実践する基本的ケアは、
①1日1500ミリリットルの水分摂取、
②1日1500キロカロリーの食事、③下剤を使わず自然排便を促す、④毎日の歩行訓練の4つである。
 認知症の症状は脱水状態と関連することが多いといわれ、脳の覚醒水準を高くするためには、一定の水分摂取が必要になるという。1500キロカロリー以上の食事を摂ってもらうためにミキサー食などを廃止し、食欲がわくソフト食を導入しており、最終的には普通食を摂れるようになることを目指していく。また、寝たきり状態で入所した人や要介護4、5の人であっても、5秒間つかまり立ちが可能であれば、歩行器を使用して歩行訓練を行う。毎日一定の水分や食事をとることで腸の働きを活性化し、排便のリズムを整えて、トイレで用が足せるようにするために歩行訓練を習慣づけることで、ほぼ決まった時間にトイレでの排泄ができるようになるのだという。
 これらの基本的ケアを実践するために、利用者の家族への説明・理解を求めるとともに、「介護力向上委員会」を立ち上げて、全職員に理論や知識を浸透させたという。はじめは効果に半信半疑であった職員も、取り組みを進めるにつれて、車いすだった利用者が歩行器で歩けるようになったり、表情が豊かになるといった変化がみられたことで、多職種がより一丸となり取り組みを進めたという。
 「800ミリリットルであった水分摂取量を倍近くに増やすのは、非常に難しいことでした。飽きがこないようにさまざまな飲み物を用意したり、頻繁に散歩に出かけたり、たくさん会話をして喉が渇いたときに飲み物を差し出すなど、職員はさまざまな工夫をして取り組んでくれました」(中村施設長)。


職員のやりがいにつながり離職者が減少

 これらのケアを実践することで、同施設は取り組み開始から2年半を経て、平成23年に利用者のおむつゼロを達成した。当時、全国老人福祉施設協議会から認定を受けた県内で第1号の施設であった。精神的負担が大きいおむつ使用をやめることで、高齢者も前向きになり、在宅で暮らし続ける可能性を広げることのきっかけにもつながるという。
 「当施設はターミナルケアにしっかり取り組んでいますが、本当は特養に入らなくてもよい方や、少し訓練することで自宅に帰れる方を、介護の力によって元気にするという両方のケアをする施設となっています。特養だから最期を看取る場所と考えるのではなく、介護老人保健施設のように中間施設のような力があってもよいのではないかと考えています」(中村施設長)。
 また、おむつを使用しない取り組みは、利用者だけでなく職員にとっても大きなメリットがあったという。  「当施設の介護職員の平均年齢は27歳前後と若いのですが、自らが率先して取り組んだ『おむつ外し』を達成できたことは大きな自信になり、自分の意見や想いをはっきり伝えてくれるようになりました。年間10人近くいた離職者も減少し、一昨年度は1人もいませんでした。取り組み前に比べて業務量はむしろ増えているのですが、やりがいをもって働けるということは、人材確保においても重要であることをあらためて実感しています」(中村施設長)
 なお、若い職員が多い同施設であるが、80歳になる介護職員も在籍する。施設の取り組みに共感し、「働いてみたい」との申し込みから採用しており、入職直前に介護福祉士の資格を取得したという。若い職員の刺激になるとともに、同施設が実践する回想法では、自らの実体験をもとに利用者と大いに盛りあがるという。
 利用者の尊厳を守るターミナルケアと自立支援介護の両方のケアを実施する同施設の取り組みが、今後も注目される。
〜 佐藤憲一〜
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