グロース投資とバリュエーションについて

グロース株とは

グロース株とは売上や利益が成長している成長企業が発行している株式のことだとなんとなく思っていると思いますが、実際にはどうなのでしょうか。こういう時には、ETFが参照している指数を見てみるのがよいと思います。例として、バンガードグロースETF (VUG)が参照している指数CRSP US Large Cap Growth Index を調べてみます。

CRSP classifies growth securities using the following factors: future long-term growth in earnings per share (EPS), future short-term growth in EPS, 3-year historical growth in EPS, 3-year historical growth in sales per share, current investment-to-assets ratio, and return on assets.

と書かれていました。これをdeeplで翻訳したものが以下です。

CRSPでは、1株当たり利益(EPS)の将来の長期的成長率、1株当たり利益の将来の短期的成長率、1株当たり利益の3年間の過去の成長率、1株当たり売上高の3年間の過去の成長率、現在の投資対資産比率、資産収益率などの要素を用いて成長株を分類しています。

つまり、指数を組成している企業としては、グロース株は過去の売上高、利益の成長をもとにして将来の成長を推定しているということが読み取れます。また、そのための重要な要素としては企業としてどれだけ投資して、それに対してリターンが得られるかがわかります。投資に対するリターンについては、投資対資産比率や投資収益率(ROA)について記載がありますが、自己資本収益率(ROE)や投下資本収益率(ROIC)などの指標を使うことも一般的です。

企業の利益について

企業はどうやって利益を生み出しているのか?企業は、資産を使って利益を上げ、利益分を投資に回し、資産として積み増して、さらに利益を上げるというループを回すことでどんどんと利益を向上しています。

例えば、500万ドルの資本で100万ドルの利益を得る企業Aと2000万ドルの資本で100万ドルの利益を得る企業Bがあるとします。どちらの会社も利益を再投資して資本として積み増すとします。この時企業Aは600万ドルの資本で120万ドルの利益を生み出します。一方で、企業Bは2100万ドルの資本で105万ドルの利益しか生み出さないです。つまり、資本に対する収益率ROEが高い企業の方が利益成長が高いのです。

利益成長した場合の株価についてはどうなるでしょうか?株価はPER×EPSであるため、PERが一定であれば企業Aは株価が20%上昇し、企業Bは株価が5%上昇しているはずです。

株式の本質的価値

利益が増えれば株価が上がることはわかりましたが、妥当な価格とはいくらなのでしょうか?妥当な価格よりも高ければ利益が増えても株価は上がらないかもしれないです。一方で、妥当な価格よりも低ければ株価はEPSの成長以上に上がるかもしれないです。

一つの答えとしては、一定の期間で所定の投資額を回収できるかどうかです。事業や資産を購入する場合、それに対するリターンを考えます。例えば、毎年100万ドルを生み出す事業があったとしてそれが1000万ドルで売られているとしましょう。これは買いか?おそらく答えは買いです。国債利回りが2%程度しかない状況で投資額に対して10%のリターンを生み出す資産は魅力的です。この事業は10年目で投資額を回収し、その後延々と10%ずつ稼いでくれます。

こういう視点で考えると、投資家が支払える金額はいくらかの投資期間で投資額が回収できかどうかです。これを株で考える場合、株式会社の純利益はすべて株主のものであるという前提で考えると、純利益に対して時価総額がその10倍であるからPER=10である。では、PERが10を超える企業は買うべきではないか?答えはNoです。グロース企業の場合は、将来のEPSの成長を見込んでいるため、現在の利益に対しては企業価値が高いため、高いPERがつくのです。

将来の見通しとバリュエーション

それでは高いPERはどこまで許容できるのか、それはone fit to allな指標はないです。ただし、いくつか言えることがあります。

1. 売り切りのビジネスよりもストック型のビジネスの方がよい。例えば、ADBEやMSFTを見ると、売り切り型のビジネスからストック型のビジネスに転換してからPERは右肩上がりです。これは、将来の見通しの解像度が上がったため高いPERとしてもそれが回収できる可能性が高いと投資家が考えたからだと思われます。

2. 利益成長率が高い方がPERが高くなる。利益成長が早いほど回収するまでの期間が短いためです。例えば、MSFTよりもNVDAの方が利益率成長が高いためPERは高くなる。

ちなみにここまでPERで話をしてきました。これは、株主にとっては純利益が重要だからですが、企業活動で最も重要な部分は営業利益(EBITDA、EBIT)と営業キャッシュフロー(OCF)、フリーキャッシュフロー(FCF)です。なので事業の価値を比較する場合はEV/EBITDAやPrice to OCF、Price to FCFなどの指標を使う場合も多いです。

SaaS企業について

SaaS型の企業は人気の投資対象ですが、利益を上げていない企業が多いように見受けられます。企業価値は利益であるとこれまで話してきたが、なぜこれほど人気なのでしょうか?これについての個人的な見解としては、

1. 粗利率が高いため将来の利益率が高いことが想定される
2. 成長率が高いため、将来の収益額が高い可能性がある
3. ストック型のビジネスであり 将来の予想が立てやすい

3について企業の立場で考えて見ると、SaaS型の企業では将来の収益の見通しが高いため事業に対する投資額が見積安いという点が上げられます。そのため、会計上の収益として計上する前に投資に使うという点や、そもそもマーケティング費用自体が将来に収益に対する投資である点を考えると、営業利益や営業キャッシュフローがほとんど0でも事業は継続可能で売上高はどんどん成長していくのです。

ある程度の大きさになると成長は鈍化して営業利益が出始める。つまり売上高が成長しているか、その後利益が出るかという点で企業を評価できそうです。そういう点を考慮しRule of 40(営業利益率+売上高成長率)が考えられたのだと思うと、こういった指標はなぜ用いられているかを十分に考えるべきです。

特に新しいSaaS企業は売上高しか評価指標がないので売上高株価倍率(PSR)を使って評価するべきなのだろうと考えております。

まとめ: バリュエーションの使い道について

バリュエーションは事業の見通しや成長率により異なる事を説明しましたが、割安、割高の指標として使えるのでしょうか?

私の見解としては部分的に使えます。

使用できる局面としては、似たような企業の比較、企業の過去の実績値との比較などが挙げられます。

ただし、注意していただきたいのは、低い方が安いという一次思考的に使うのではなく、なぜ割安なのか、割高なのかを考えるきっかけとして使用して欲しいです。

例えば、前述の通りMSFTやADBEはストック型ビジネスに転換した後では利益成長の解像度が良くなったため高PERが許容されるようになったようです。この前後を比較して割高であると結論付けるのは適切ではないでしょう。

まとめとしては、バリュエーション指標は企業の比較においては一つの強力なツールです。それを使う前提に企業分析があるということを認識しておくことが投資家としての洗練度を上げるのに有効だと考えられます。


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