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あきかぜの想い

八神やがみ 靖隆やすたか
二見ふたみ 結輝海ゆきみ

※こちらの作品は過去作「サンキュ.」と「秋風に揺れるブランコ」の内容を統一したものです。


 靖隆「ユキ。...いや、二見結輝海さん、僕と付き合ってください。」

結輝海:ヤスからそう言われたのは突然だった。いや、前から正直薄々は感じていた。ただ私に向けられるその好意が幼なじみとしてのものなのか、それとも恋愛の意味を含んでいるのかは判断できずにいた。

 靖隆:僕らは小さい頃からずっと一緒にいた。僕の両親が仕事で帰りが遅い日はユキの家でご飯を食べさせてもらうことも多く、家族同然の付き合いをしてきた。ユキから見てみれば僕は弟みたいな存在なんだろうってことも分かっていた。僕からしてみても最初は優しいお姉ちゃんという感じだった。

結輝海「ヤス…気持ちは嬉しい…けど、んー。ちょっと考えさせてくれる?」

 靖隆:意外だった。すぐに断られることを覚悟していた。勝算なんてなくて、今までの関係が崩れてしまうことも想定して、悩みに悩んで玉砕覚悟で気持ちを伝えた僕は、振られた後の言葉しか準備していなかった。

 靖隆「だよね。これからも今まで通りにってわけにはいかないかもしれないけど…えっ…?あの、えっ?考えて…くれるの?」
結輝海「ふふっ。どうせダメ元で言って、今までの関係がーとか考えながら悩んでそれでも私に気持ちを伝えたいって思って言ってくれたんでしょ?何年ヤスと一緒にいると思ってるの。それくらい分かるよ。分かる…から。真剣に想ってくれてるのも分かる。だからね、私もしっかりと向き合って考えなきゃ失礼でしょ?」

結輝海:この言葉に嘘は無い。ヤスは私の中でとても大切な存在だ。今までも、きっとこれからも。私がレオ-前の彼と付き合っていた時に浮気をされていたことを知って、ヤスに相談した事があった。

 靖隆「僕ならそんなユキが悲しむことはしたくないな。ユキの笑顔見てると元気になれるからどうやって笑顔にしようって考えることに時間使うけどね。」
結輝海「ヤス…ありがと。ヤスはやっぱり優しいね。」
 靖隆「えっ?そんなことないと思うけどなぁ。でもね、ユキがどうしたいのか、それはしっかりとユキ自身で答えを出さなきゃいけないことだからさ。僕は別に何もしてないよ。ユキの話を聞いて、思ったことを言ってるだけ。」
結輝海「うん、そうだよね。レオはね、基本的には悪い人じゃないんだ。でもさ、2年半も騙されてたんだって思うと…結構ショック大きいなぁ。」
 靖隆「…。ユキは優しいからさ、傷付けることが申し訳ないとか、謝られてるのに許してあげないのは非人道的だって思ったりするでしょ?でもそれってホントに優しいのかな?ってちょっと僕は思うんだよね。自分を蔑ろにして、負担をかけてる。相手を全部肯定することは認めてるんじゃなくて甘やかしてるんじゃないかな。…って、偉そうなこと言ってごめん。」
結輝海「ううん。ヤスの言う通り。私は自分がどうしたいってことよりも、相手がどうしてほしいかを考えてしまうから。あーあ、人間関係って難しいね。」
 靖隆「うん。ホントにね。オジさんたちみたいな運命の人ってなかなかないんだろうね。」

結輝海:ヤスの言うオジさんとは家の父のこと。父と母は学生の頃に両思いだったのにお互いがそれに気付かず、それから数年後の同窓会をキッカケにまた距離が縮まって付き合いだしたらしい。けどその時は一旦別れて、またそのあと復縁。そして結婚したそうだ。父の友達のカシューさんが酔っ払って教えてくれたことがある。

 靖隆「もしさ、ユキの運命の人が今の彼なんだったら、うん…。なんて言えばいいんだろ。えーっと…僕は違う気がするな。」
結輝海「どうなんだろうね。わかんないや。」

結輝海:その1週間後、私はレオに別れを切り出した。怒ることも泣くこともせず、感情を抑えて、ただ淡々と別れの言葉を告げた。レオは初めこそ「もう一度やり直したい」と言っていたが、そこは流石に3年の付き合いで私の頑固な部分を知っている。こうして、私とレオは終わりを迎えた。家に帰ると私はベッドに横になり、ひたすら泣いた。そして気が付くとヤスに電話をかけていた。

結輝海「…あ、もしもし?ヤス?」
 靖隆『ユキ?珍しいね、こんな時間に。どうしたの?』
結輝海「…いや、花火でもしない?」
 靖隆『花火?もう売ってないんじゃないかな?』
結輝海「そっかぁ。そうだよね。」
 靖隆『うん。』
結輝海「急にごめんね!じゃ!」

結輝海:ヤスとの電話を切ったあとに私は枕に顔をうずめて泣いた。どのくらいの時間が経ったのだろう。電話が鳴る。

結輝海「…もしもし?」
 靖隆『はぁ、はぁ、花火!買ってきたよ!出ておいで!』

結輝海:窓から外を覗くとヤスが花火が入っているであろう袋を掲げて手を振っている。

結輝海「買ってきてくれたの?」
 靖隆「うん、なかなか見つからなくてさ、遅くなってごめんね。」
結輝海「ううん、ありがと。」

結輝海:公園に移動する。「まずはこれでしょ。」と言いながらヤスがヘビ花火に火を着ける。

結輝海「何でそんな地味なのから行くかな。」

結輝海:私は少し呆れながらそう言った。

 靖隆「ほら、こっから徐々に盛り上がっていくのがいいんじゃん。」
結輝海「ふふっ。」

 靖隆「ユキー!見てみて!文字書くから当ててみてね!」

結輝海:手持ち花火でなにやら文字を書きながらはしゃいでいる。小さい頃から全く変わらない。

 靖隆「うわっ、風向きが!ゴホッゴホッ。」
結輝海「ちょっと、大丈夫?」
 靖隆「うん。…綺麗だね。」
結輝海「あはははっ。煙目に染みた?涙目になってるよ。」


結輝海:花火を終え、火の始末をするとどちらからともなくブランコに座る。きっとヤスは分かってて何も聞かずにいてくれてる。

 靖隆「~♪」
結輝海「ふふっ。」
 靖隆「えっ?なに?」
結輝海「いや、急に鼻歌歌うから。…あのね、今日彼にさよならしてきた。」
 靖隆「うん。」
結輝海「泣かなかったし、責めなかったよ。」
 靖隆「そっか。…えらかったね。」

結輝海:ヤスのその言葉を聞いて、溜め込んでいたものが溢れだしそうになる。

結輝海「あーあ、好きだったのになぁ…。」

結輝海:そう口に出すと自然と涙が溢れてきた。隣に座るヤスに目を向ける。

結輝海「ちょっと?なんでヤスが泣いてるの!?あはは。」
 靖隆「煙かな…。あははっ。」

結輝海:お互い涙目のままブランコを漕ぐ。

 靖隆「…ちょっとかっこ悪いけどさ、ユキが髪切るなら僕も付き合うよ。」
結輝海「なにそれ。」

結輝海:冗談なのか本気なのか、ヤスのその一言で私は笑顔になれた。ヤス、ありがとね。

 靖隆:ユキが例の彼氏と別れたことを僕に教えてくれた。僕はやっぱりユキの笑っている顔が見たい。もう何年も前からこの気持ちには気付いていた。ずっと、蓋をしてきていたけど、今を逃すと伝えることができないまま終わってしまいそうな気がした。やらないで後悔するぐらいなら、結果はどうあれやって後悔した方がいいに決まっている。

 靖隆「あのさ、髪の毛、ホントに切る?」

 靖隆:公園からの帰り道、僕はユキに尋ねてみた。

結輝海「えっ?んー…まぁそうだね。気分一新ってのもいいかもね。うん、切っ…てみようかな。」
 靖隆「じゃあ約束通り、僕も付き合うよ。」
結輝海「はははっ。約束ってかヤスが勝手に言ったことじゃん。」

 靖隆:よかった。ちょっと無理してるのかもしれないけど、笑顔のユキだ。こうして僕達は1週間後に髪を切る約束をした。-そして

結輝海「おー!いいねいいね!男前じゃーん!」
 靖隆「いや、恥ずかしいから。でも…うん、ユキも似合ってる。」
結輝海「ホント?ありがと。ずっとロングだったからどうかなーって思ってたんだけどね。」
 靖隆「ここまでバッサリ行くとは思ってなかったからちょっとビックリしたけどね。」
結輝海「まぁどうせなら?結構スッキリしたし、ホントに気分一新って感じ!」
 靖隆「…。」
結輝海「これから頭洗うのも乾かすのも楽になるんだろうなー。楽しみ!」
 靖隆「…。」
結輝海「よし、じゃあ今からどうする?ご飯でも食べて帰る?」

 靖隆:今から…これから、どうする。僕はどうしたい。伝えよう。緊張で口から心臓が飛び出してしまいそうだ。口の中が乾いて上手く喋れるかわからない。でも、今だと思う。

 靖隆「ユキ。...いや、二見結輝海さん、僕と付き合ってください。」
結輝海「ヤス…気持ちは嬉しい…けど、んー。ちょっと考えさせてくれる?」
 靖隆「だよね。これからも今まで通りにってわけにはいかないかもしれないけど…えっ…?あの、えっ?考えて…くれるの?」
結輝海「ふふっ。どうせダメ元で言って、今までの関係がーとか考えながら悩んでそれでも私に気持ちを伝えたいって思って言ってくれたんでしょ?何年ヤスと一緒にいると思ってるの。それくらい分かるよ。分かる…から。真剣に想ってくれてるのも分かる。だからね、私もしっかりと向き合って考えなきゃ失礼でしょ?」

結輝海:この件から2週間。私は悩みに悩んだ。きっとこの何倍もヤスは悩んでいたんだろう。中途半端なことはしたくない。幼い頃からずっと一緒にいたヤス。そう、思い返すと私が辛い時にいつも相談するのはヤスだった。嬉しいことがあったときに1番に報告する相手はヤスだった。遠慮せずに素直に気持ちをぶつけて、喧嘩できる相手がヤスだった。-よし。私はヤスに電話をかける。

 靖隆『はい。もしもし。』
結輝海「今から、会える?」
 靖隆『うん、どこにする?』
結輝海「じゃあ、あの公園で。」
 靖隆『わかった。じゃあまた後でね。あ、少し肌寒いから暖かくしておいで。』
結輝海「うん、ありがとう。じゃあまた後で。」

結輝海:ほらね、そう言うさり気ない優しさ。電話を切った私は着替えるとすぐに公園へと向かう。公園に着くと、ヤスはそこにいた。1人で楽しそうにブランコを漕いでいる。私の緊張を返してくれないだろうか。私に気が付くと、子どもの頃と変わらない笑顔でこちらに手を振る。私はヤスに駆け寄ると、全力で抱き着いた。

-END-

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