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訪れを告げる

この作品はnanaの企画で投稿したものを再編集したものです。45秒のBGMに合わせて「春一番」をお題にして書いた作品。45秒は短すぎる!でもその時間に収まるように書いてみました。今回はそこに文字を付け足したので普段よりもかなり短めな作品となっています。


サクラ
ハルキ

サクラ:この薄手のコートも今年はそろそろ役目を終えるのかな。ショーウィンドウに映る自分の姿を確認しながらそんなことを考える。私は腕時計に目をやる。まだ待ち合わせの時間には充分余裕がある。君が少し慌てた様子で駆け寄ってくる。

ハルキ「お待たせ。」

サクラ:私はその言葉に笑顔で応える。息を切らしながら軽く額の汗を拭う姿を見るだけで愛おしく感じる。

ハルキ「どうする?」
サクラ「少し歩かない?」

サクラ:君の呼吸が整うまで2人でゆっくりと桜並木の道を歩く。

サクラ「桜って儚いよね。蕾から花が開いたかと思ったらあっという間に満開になって散っていく。そして葉桜になって段々と緑が増えていく。」
ハルキ「うん、そうだね。ねぇ、知ってる?日本にあるソメイヨシノって元々は1本だったって話。」
サクラ「ん?どう言うこと?」
ハルキ「元は1本しかなかったソメイヨシノの枝を他のサクラに接ぎ木してったらしいんだ。それを何年もかけて、今や日本の桜の代表格ってわけ。」
サクラ「そうなんだ。じゃあみんな兄弟ってことだね。」
ハルキ「うん、人類みな兄弟って言うのと似てるかもね。」

サクラ:他愛のない話をしながら歩いていると君が不意に立ち止まり、私の名前を呼ぶ。それと同時に強い風が吹いて気合いを入れてセットをした髪が乱れる。1歩だけ先に進んでいた私は手櫛で髪を整えながら振り返る。君は真剣な表情をして私を真っ直ぐに見ている。

ハルキ「サクラ、伝えたいことがあるんだ。」

サクラ:真剣だった君の表情に少し笑顔が混ざる。また少し強い風が吹く。その時君の口元が動く。風の音で何て言ったかははっきり聞き取ることはできなかった。でも、それでも、君が何を言ったかは分かる。予想通りの口の動きをしていたから。

ハルキ「...だめ...かな?」

サクラ:少しの沈黙の後、君が少し不安げな眼差しで私を見る。私は少しだけ意地悪をしてみる。

サクラ「えー?」

サクラ:君の顔は雨で濡れた仔犬のようになっている。思わず笑ってしまった。君が頑張ってくれたんだもんね。うん、私もちゃんとそれに応えるよ。私の身体が少し熱を帯びる。君が春の訪れを報せてくれたから。

-END-

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