事実は何故人の意見を変えられないのか-説得力と影響力の化学-を読んでみた。

◼️選定理由

クライアントワーク力を高めるためです。これまでの悩みとして対面や電話越し(特にこちら)で話をしていると、どうも話が噛み合わずお互いの雰囲気が悪くなる瞬間があります。こちらはロジカルに説明しているつもり、でもつもりであって伝わっていなければ伝わっていないのと同じです。今回はその悩みを解決するための補足として本書を選択しました。

※本書のテーマは「影響力」、そして脳科学の視点から影響力の鍵となる7つの項目(事前の信念、感情、インセンティブ、主体性、好奇心、心の状態、他人)です。これらをとことん調べ上げ、活用し、より効果的な説得の技法を伝授してくれるのが本書となります。

◼️書籍情報

書籍名:事実は何故人の意見を変えられないのか-説得力と影響力の化学-

著者名:ターリ・シャーロット (Tali Sharot)

◼️ロジカルじゃ相手を変えられない(事前の信念)

誰かと言い争いになったときを想像して欲しい。

人は「自分こそが正しく、相手が間違っている」と考え、それを示すための攻撃材料をよく探すが、事実や数字・データを元に練りに練った提案や説得をしたとしても、結果、相手の意見が結局は変わらなかった経験は無いだろうか。

これを「ブーメラン効果」という。高度に発達したインターネット社会では、いくらでも自分の意見を補強する情報が手に入りやすくなった。

そのため、Googleなどの検索エンジンで必要な情報を探し、説得材料やエビデンスと言われる証拠を見つけ出し、自身の意見を補強する。その結果、さらに自分の意見に固執するようになってしまう。

この検索行動で手に入れた情報の使い方は両極化を招きやすい。なぜなら自分の持っていた世界観(事前の信念)に合う情報には賛意を示す一方で、自分の意見を否定するような情報には全く新しい反応を思いつき、さらに頑なになってしまうことがあるからだ。

ロジカルにデータを固めて固めてぶつけたとしても、互いにこの意見の補強を繰り返してしまうため、結果的に折り合いがつかず仲違いしてしまうのだ。

※この自分の意見を裏付けるデータばかり集めてしまうことを「確証バイアス」という。このバイアス(偏見や思い込み)から逃れるのは難しく、しかも分析能力が高い人ほど、情報を合理化して都合よく解釈しがちだ。

この終わりの無い論争にどうやってピリオドをつけるかを考えた時に重要なのは、どうしても意識のよりがちな食い違いのポイントではなく、共通点に注目すること。これにより変化は訪れると本書内では事例を元に1つの解決策としている。培われ、取り除きづらいバイアスを根絶やしにするのが難しい時には、共通点を元に新しい種(考え)を蒔くのも1つの手だ。

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★今取り組んでいる広告のビジネスにおいて、メールやチャットのログや、様々な理論を持ってクライアントを説得する部分は切り離せません。社内であれば素直にまずは飲み込んでみるといった概念を持ち、スッと取り組んでみる機会も多々ありますが、対クライアントとなると共通認識がなかったり、価値観が異なったりするためどうしてもロジカルをぶつけ合う論争になりがちだなと感じます。

やがて感情と感情がぶつかり合い、互いに折り合いがつかなくなるのは上記が原因なのかと腑に落ちました。

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◼️信念を動かす感情

ではその凝り固まった信念に対して、効果的に対処する方法は無いのか。そのヒントとなるのが「感情」だ。

多くの人を感動させる演説やコンサート、あなたが最後に大勢の前で話をした時のことを思い浮かべて欲しい。時折聴衆と一つになる感覚を味わったことは無いだろうか。

この、強力に感情を動かすものを受け取っている時の人間の脳は、「歩調を合わせている状態」、つまり、文字どおり脳波の上がり下がりや脳の活動領域が、ほとんど同期している状態になっている。

研究の結果からわかったことだが、感情に訴えるような出来事が起きると、扁桃体の動きが活発になり、脳の他の部分に「警告シグナル」を送り、その時取っていた行動を変化させるのだ。

※また人間の脳の大部分は、興奮を伝達する「扁桃体」を中心とし、感情を喚起する出来事に対して何かしらの反応をすべく設計されている。

この他人同士の「心が通い合う(感情の伝達)」瞬間は双子でなくても訪れる。このとき話し合っている相手の脳にはカップリングが起きており、聞き手が話し手の脳の動きを先導しさえする。

※感情の伝達経路は2種類ある。1つ目は無意識の模倣(ペーシング)、2つ目の経路は、模倣ではなく単に感情が刺激されたことに対する反応が該当する。本書では人は無意識のうちに外からの刺激に影響を受けており、それはSNS経由でも引き出されていると述べている。またTwitterの伝達速度(拡散性)や範囲の広さなどが人間の扁桃腺と似ていることから、Twitterを「インターネットの扁桃体」では無いかと説いている。

わたしたちは、自分自身を他人とは違う存在だと考えがちだが、実際は脳の構造や機能の大部分が似ている。その為上記のカップリングや感情の伝達にもあったが、自身のアイデアを伝える最も効果的な方法のひとつは、伝えたい気持ちを相手と共有することなのだ。

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★こちらも以前からNNGを通して学んでいたことではありますが、中々根本から実践できていない=だから齟齬が起きるのだと振り返ることができました。僕はこの共感部分が欠けてしまいがち(時間に追われて余裕がない=意識が散漫し共感できない)状況が起きがちです。マルチタスクが苦手なのでクライアントとのコミュニケーション(打合せ)がある場合は、そこに集中するためのタイム・タスクマネジメントが必要です。

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◼️快感で動かし、恐怖で凍りつかせる(インセンティブ)

インセンティブとは端的に言うと、「人の意欲を引き出すための外部からの刺激」のことだ。

従業員は必ず手を洗いましょう!短でよく見かける張り紙ですが、たとえ「病気にかかるから」と言っても、人に手を洗わせるのは意外に難しい。その状態を解決するために、ではどういった行動が取れるだろうか。

これをシンプルに「アメとムチ」で例えてみると、実は即時的な「アメ」のほうが、将来の「ムチ」よりも人を動かせることが多い。

アメ:誰かに何かをしてもらいたいときに、報酬を約束をする
ムチ:何かを失うぞと警告したりする

この行動を導くことに関して、即時の報酬は、将来の罰よりも有効なことが多い事象を掘り下げる。

心理学的視点では、自分のプラスになると信じる人間や出来事に接近することを「接近の法則」、マイナスになると信じるものを回避することを「回避の法則」と呼ぶ。

前述したアメとムチと絡めて考えてみると、即時的な報酬があるとわかっている場合、脳に「ゴー(GO)反応」が起き、対象に向かって接近行動が促される。反対に何か悪いことを予期すれば、直感的に後ずさりをする「ノー・ゴー(NO・GO)反応」が起きる。

社員の意欲を高めたい時、子供に部屋の片付けを促す時、このポジティブな期待感を植え付けることで人は行動する。また、この「ゴー反応」がポジティブな結果に結びつきやすいのには、「報酬中枢」と呼ばれる脳の側坐核(喜びの感情を処理する脳の領域)が関与している。

※逆に、特定の行動を相手に「してほしくない」場合、その時はすぐさま報いを受けるかもしれないというネガティブな警告を発するのが効果的だ。恐怖を感じた際に身がすくむ思いを経験したことがある人は多いと思うが、これも一種の「ノー・ゴー反応」である。

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★これも使い分けだと思いますが、僕は基本的に悪化要因などを細かく語りがちです。ネガティブトークになると想定ができる場合は、最後にポジティブに持っていくための流れを事前に想定しておくことでここはカバーができるのではと感じました。※特にリテラシーの無いクライアントに対しては不安を残すだけになるので、不安点の共有には気をつけます。

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◼️権限を与えて人を動かす(主体性)

人は、自動車より安全だと言われても飛行機を怖がったり、目の前の高所やクモを極端に恐れたりする。自分で操縦できない飛行機やどうにもならない目の前の「危機」、それらを恐れるのは自らが環境をコントロールする能力が奪われ、主体性が損なわれていると感じてしまうからだ。

※税金がいい例だろう。税金が他の支出よりも耐え難いのは、そこに選択の余地がないからだ。支払いたいかどうか聞いてくれる人もおらず、払ったお金がどこに行くのかも定かではない。

他人の行動に影響を与えたい場面でも、これと同じことが言える。他人から与えられるものよりも、自分が「選択した」「関わった」という感覚を得られる経験の方が、人は高い満足を得られる。

これは子どもに勉強させたいとき、社員に仕事に励んで欲しいときなどでも同様だ。「こうしなさい」と命令するのではなく、少しばかりの責任を与えて、選択肢があることを当人に意識させる。そうすることで、人は「主体性」のなかで幸福に行動するようになる。

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★税金=代行費、不安=何をやっているかわからない。直近のクライアントでまさにこの部分を毎月連絡されて来る方がいらっしゃいます。これも状況が見えない、コントロールできない飛行機と同じだなと書籍を読んでいて腑に落ちました。一番は成果が出ていれば問題はないと思いますが、全体像を相手の言葉で見せて上げる、どのように進行するかを主体的に選んでもらえるような問いかけを行う。これだけでも不安の払拭はできると思います。

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◼️悪い知らせと良い知らせ(好奇心・心の状態)

前述の飛行機の例を参照する。航空会社のスタッフは救命胴衣の場所や安全な膨らませ方を伝達したい。しかし自らの命に関わる情報であるにも関わらず乗客は自分の世界に入り全く耳を持とうとしない。この重要だが乗客にとっては不愉快な情報をどうやったら乗客に届けられるだろうと考えた際に活用されたのがポジティブな感情だ(水着をきたモデルのブレイクダンス×機内安全ビデオの組み合わせが後日人気を博した)

この例のように、何か重要なことを伝えようとするとき、伝える側は訳もなくその内容を相手も知りたがっていると考えがちだ。しかし、実際に相手が知りたいと感じるのは、その情報を得ることによって知識のギャップを埋めることができ、不確定さが軽減する場合に限られることを認識しておかなければならない。

人間には情報を報酬として捉える性質がある。それは情報が得られそうなときに脳内でドーパミンが流れるのも、事前の知識が良い決断をするのに役立つことを、脳が知っているからだ。

人は情報に関する他条件がすべて同じ場合、ポジティブな感情を喚起する情報を求める性質を持った生き物だ。逆にネガティブな知らせに対しては、その事象がほぼ確実になるとわからない限り、無視を続ける。リーマンショックのように、事実が明らかに誤った方向に進み、ほんのわずかな希望すら持てない状態になってはじめて、ようやく被害を見極められるようになるのだ。

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細かい案件の情報や施策など、こちらは良かれと思った情報であってもそれが相手にとって本当に必要な情報とは限らない。逆に伝えなくても良い情報を伝えることで、ネガティブな知らせを届け、関係値を悪くしてしまうことだってあることを学んだ。(リテラシーの低い顧客に対してよく自身がやりがちなことです)

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◼️他人からの無意識な影響(他人)

大抵の人は「自分は他人に影響を受けにくい」と考えがちだが、実際は無意識下で影響を受けている。それは人間の特質として、他人の行動を観察することによって学ぶ、「社会的学習」という要素を持っているからだ。現に試行錯誤を一人で繰り返すよりも、そのほうが早く効率的に学習スピードを上げることができる。

ただこの「社会的学習」に関しては1つ問題を抱えており、それは時折本人の不本意ながら最善ではない決断をさせてしまう可能性があることだ。

Amazonなどがわかりやすいと思うが、人気のウェブサイトの多くでは、ユーザーの意見がレビューなどを使い数値化されている。この評価も社会的学習の一部であり、良くも悪くも自身の選択に影響を与えるのだ。ある実験によると、評価が0の状態からまず最初に高評価のレビューが掲載されると、その後続く好意的レビューの数は通常より32%も多くなった。つまりたった一人の意見でも、そのレビューが後に続くレビューすべてに影響を与えていたのだ。

また多人数で意見の擦り合わせが起きる場面において、自分が正しいと思った回答でも、他の全員が自身と異なる回答をしていた場合、人は自分の意見を変えてしまうことがある。これは脳の扁桃体(感情に反応する部分)が他者の意見によって活性化し、それが記憶を司る海馬に刺激を与え、自分の記憶自体を改竄してしまうからだ。

短な例を取り上げたが、自分自身がすでに他人に影響されていることを認知し、前提として人の推論には誤りがあるかもしれないことを持ち、自分の個性と他人の個性を勝手に同一化しないことが重要である。

◼️まとめ・Todo

信念のぶつけ合いになってしまう場面はビジネスにおいて避けられない。しかし、その上でも折り合いをつけて相手を動かしていくには、相手の視点に立って感情に訴えかけていく方法が効果的だということを今回本書を通して学んだ。

・伝えなくてはと思って伝えなくても良い(ネガティブ情報)を伝達してる

・相手に主体的に選んでもらうための選択肢提供を心がける

・相手の立場(共感)を心がける

上記が本書を読んでいて気づいた主な自分の課題なので、各章の気づきと合わせて、週明けのコンサルワークに取り入れてみます。


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