見出し画像

知の巨人がHBS卒業生へ伝えた最後のアドバイス

読書ノート「プロフェッショナル人生論」-"人生のジレンマ"を克服するために- How will you measure your life? C.M.クリステンセン 関美和 訳

今日1/23はクリステンセンの命日(2020.01.23)。彼が残した経営理論は、人類の宝物なのですが、彼が2010年にハーバード・ビジネス・スクールの卒業生向けに講演で語った内容がステキなので、備忘を兼ねてメモにしました。
彼が世界最高の頭脳を持つ卒業生たちに語ったのは、キャリアだけの話ではなく「かけがえのない日々をどう過ごすべきなのか」ということでした。

(↓期間限定で原文公開されています↓)

人生について問う3つの質問

HBSでの私の授業は、学生がよい経営理論とはどういったものか、それがどう構築されているかについて理解できるようになっている。
・・・
授業の最終日、私は、学生たちにこうした理論のレンズを自分自身に当てはめて、3つの質問に適切な答えを出すように求める。
 1) どうしたら幸せなキャリアをしっかりと歩めるか?
 2) どうしたら伴侶や家族との関係をゆるぎない幸福の源にできるか?
 3) 犯罪者にならないためにはどうしたらいいか?

最後の質問は軽いものだと思われがちだが、そうではない。私の同級生だった32人のローズ奨学生のうち、2人は服役することになった。
・・・
1) どうしたら幸せなキャリアをしっかりと歩めるか?という質問に素晴らしい洞察を与えてくれる理論の一つは、臨床心理学者のフレデリック・ハーズバーグが提唱したものだ。すなわち、人生で強い動機付けとなるのはお金ではなく、学習し、責任の中で成長し、他者に貢献し、成果を認められる機会だ、というものである。
・・・
私の結論はこうだ。マネジメントとは、正しく実践すれば、最も尊い仕事の一つである。人が学び、成長し、責任を担い、成果を認められ、チームの成功に貢献することを、これほど多くのやり方で手助けできる仕事はほかにない。
ビジネス上のキャリアとは、会社を売ったり買ったりそれに投資したりすることだと考えてビジネススクールにやってくる学生がますます増えている。これは残念なことだ。契約をまとめることから、人を育てることで得られる深い喜びは生まれない。私は学生たちに、そのことを理解してから教室を去っていってほしい。

自分の人生の戦略を生み出す

2) どうしたら伴侶や家族との関係をゆるぎない幸福の源にできるか?という質問に答えるに当たって役立つ理論は、戦略の定義と実行の方法に関するものだ。
・・・
私は1979年以来、HBSの同級生たちの運命の変遷を見てきた。同窓会のたびに、不幸せで、離婚しており、子供たちと疎遠になっている同級生の数は増えていく。請け合ってもよいが、HBSを卒業する時に、彼ら彼女らの中の誰一人として、離婚するため、親不孝の子供を育てるために綿密な戦略を立てていたわけではない。それなのに、驚くほど多くの同級生がこの戦略を実践してしまった。
それはなぜだろうか。自分の時間と才能、そしてエネルギーをどう使うか決める時に、人生の目的を中心に置かなかったからだ。
・・・
自分の目的を明確にすることは、ABC(活動基準原価計算)やバランススコアカード、コア・コンピタンス、破壊的イノベーション、マーケティングの4Pやファイブフォース分析といった知識に勝るものだ。
・・・
たとえば、教え子の1人は、祖国に正直さと経済的な繁栄をもたらすことと、自分と同じくらいこの目的に貢献し、互いに助け合える子供たちを育てることこそ自分の目的だと決心した。彼の目的は、私の目的と同じく、家族と他者に力を注ぐことである。
職業を選択し、その仕事で成功することは、自分の目的を達成する一つの手段にすぎない。しかし、目的がなければ人生は空虚なものになりかねない。

自分の資源を正しく配分する

個人の時間とエネルギー、そして能力をどう配分するかの意思決定が、最終的には人生の戦略を決める。
・・・
他人に勝ろうとする人たちは、無意識のうちに家族にあまり投資せず、キャリアに投資しすぎる傾向がある。家族との親密で愛に満ちた関係が最も強く長続きする幸福の源であるにもかかわらず───。
さまざまなビジネス上の大失敗を詳細に調べて根本的な原因を探ると、すぐに成果を得られそうな事業に飛びつくという傾向が散見される。

文化を生み出す

家庭にも企業とまったく同じように文化がある。こうした文化は意識的に築くことが可能だが、注意しないと意図せぬ方向に向かうこともある。
自分の子どもには、困難な事態でも解決できるよう、強い自尊心と自信をもってほしいと思っても、こうした資質は高校生になれば魔法のように現れるものではない。
そこで、家庭内の文化に組み入れておく必要がある。しかも、どう組み入れるかを非常に早い時期から考えなければならない。社員と同じく、子どもも難しいことに取り組み、成功体験を得ることによって自尊心を築いていく。

「限界費用」の罠にはまらない

財務や経済学の授業では、投資の選択肢を評価する際、埋没費用や固定費は無視して、個々の投資に伴う限界費用と限界収益に基づいて意思決定するように教えられる。
・・・
この理論は、学生たちと議論する第3の質問、どうすれば誠実な人生を送れるか( 3) 犯罪者にならないためにはどうしたらいいか?)に対応するものだ。我々は、善か悪かを判断するとき、この限界費用の教えを無意識のうちに自分の人生に当てはめている。
頭の中の声が自分にこう言い訳する。「もちろん一般的には、ほとんどの人がこれをすべきでないことはわかっている。だけど、この特別な状況なら、一度くらい許されてもいいだろう」
間違った行為に伴う限界費用は、「この一度だけ」であれば、いつでも小さく思われ、甘いささやきである。
・・・
背信や不正直さを正当化する言い訳は、「この一度だけ」という限界費用の計算が根底にある。
・・・
もし限界費用の分析に従って、同級生の何人かがそうしたように、「この一度だけ」の誘惑に負けてしまえば、最後には後悔することになるだろう。自分自身のために、自分は何を守るのかを決めて、安全な場所に線を引かなければならない。

謙虚であることの大切さを忘れない

謙虚な人たちには、ある一つの際立った特徴があった。皆、高い自尊心を持っていたのである。彼らは自分が何者かを知っており、そのことに満足していたのだ。
また、謙虚さは卑屈な行動や態度ではなく、他者を敬う気持ちから生まれるものだということもわかった。善行は、この種の謙虚さから自然に生じてくる。たとえば、ある人物のことをとても尊敬していれば、決してその人のものを盗もうとは思わない。また、嘘をつくこともないだろう。
・・・
すべての人から何かを学ぼうという謙虚な意欲があれば、学習の機会は無限に広がる。
一般に、自分自身に本当に満足している場合のみ、人は謙虚になれる。そして、周囲の人たちも自分自身に満足できるよう、これを助けたいと思うものだ。他者に対して攻撃的で、傲慢で、傷付けるような行動に出る人たちを見ると、その行動はほとんど例外なく自尊心の欠如をあらわしている。このような人々は、誰か他人を引きずり下ろすことでしか自分に自信を持てないのである。

正しい物差しを選ぶ

私は1年前にがんと診断され、思っていたよりも早く人生の最後を迎えるかもしれないという可能性に直面した。
・・・
私は、私の研究を利用した企業がそのアイデアからどれほど巨額の富を得てきたか、ちゃんとわかっている。
・・・
しかし、がんになってみて、その影響力がいまの私にとっていかに重要でないかが分かったのは興味深かった。そして、神が私の人生を評価する物差しは、お金ではなく、私が関わりを持った一人ひとりであるという結論にたどり着いた。
それは、我々みんなにいえることだと思う。自分がどれだけ高い名声を得られたかに気をもむことはない。そうではなく、どれだけ他者がより良い人間になるよう助けたかを気にすべきなのである。
そして、私の最後のアドバイスは次の通りだ。まず人生を評価する物差しについて考えなさい。次に、最後になって自分の人生は成功だったと評価できるように毎日を生きる決意をしなさい。

毎年1月23日は、クリステンセンのメッセージを自分なりに咀嚼する日にします!!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?