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寝る準備は朝から始まる

こんばんわ、久しぶりだね。
寒い漆黒の闇を散歩するには、始め勇気のいることだ。

スナッキンは、数ヶ月ぶりに合うと、いきなり話し始めた。

心の闇といえば、『暗い』、ネガティブで良くないイメージだが、ほとんど明るいところにいる心でも、ほんのひととき、無意識な時間、ある一時期には、闇の中にいるものだ。

そういう場所は、本当にあるよ。
見たんだ。

白衣のスナッキンが、帰ってきた。


このうちの一番いい椅子にわたしをを座らせて、お茶を用意している。少し興奮気味だ。

君にあえて嬉しい。
打ち震えている。

そうだろうな。
カップがガチャガチャと、テーブルに置かれた。

「知りたくない」「知らないほうがいい」そう思い込もうとしても無理だ。
君ももちろんその一人だろう。
スナッキンは、チロッと光る眼でこちらを見て、言った。



国語や数学、体育、音楽、☯陰陽思想や、仏教の教え、星座占い、歴史、どんな学問も真理を追求するものの枝分かれで、究極には、宇宙や時間、生きるという意味を理解するためのツールなんだよ。

そして成績が、優秀であれば、環境が整っていれば、結果、良い生き方ができるのなら、大学教授は幸せな人生か、王様は人に左右されずにいつも幸福を感じているか、答えがそこにも眠っている。
職業でも立場でもなく、君の興味を満たすもの、好奇心を追求すれば、いずれたどり着くのは、同じ場所だ。
安心して。
何も持たない僕だけど、少なくとも僕は、そう思う。
いや、持っているね、一つだけ。
命という宝物をね。
それもちょっとの間、預かっているだけだけど。
今は、僕のものだ。


諦めこそ、幸せの成れの果てであると、僕は言いたい。

君の若さに、こう声をかけたら、社会主義かと、誤解されそうだね。
僕には主義はない。ただよう冒険家は従属性がないものね。


幸福は、他人が決めることではないから、幸せそうだな、羨ましいな、そんなことを誰に対しても抱いてはいけないよ。
まして君の母親に、息子に、夫に対して、そんなことでは不幸になるわ、なんて思い込ませてはいけないよ。

君が幸せな顔でいることだけが、君の命の望んでいることだ。


スナッキンは、お茶のおかわりをし、椅子に座り、厚めの布を手繰り寄せた。
この布は、冒険に欠かせない。体を寒さからも暑さからも守ってくれる。
大切な人にもらったものだ、、と、前に言っていた。
わたしもそんな布が欲しいけど、もう少しきれいな模様がいいな、なんて余計なことを考えていた。

暗闇を散歩したことがあるかい?
スナッキンは、思い出すように窓の方を見て低いけれど強めの声で、話し始めた。
静かな詩を読むかのように。



真っ暗で月明かりもない
霧が濃く少し息苦しい夜の道

ヅル、ヅル、と
砂混じりの道を歩く
自分の足音さえ恐ろしい

見えないその少し先に
水の
流れる音だけがする
そんな道だった

数歩行って後悔した
戻ろうかと躊躇した
けれど
戻れないと突き落とされた
そこは、孤独で重々しい
海の底だった

冷たく重いその底で
どれだけ時間が経ったのか

浮かびたくても進みたくても
どっちが上か、方向もわからない


完全に見失った

誰のせいでもない
踏み出したのは自分だ



どうせ真っ暗なら目を閉じよう
どうせどこへも行けないなら石になろう

ただのかたまりだ!


生きられないのか
生きていいのか
許されるのか
生きるって
人って
これって
何なんだ


吐き出せ
聞こえる

吐き出していいよ
それでいいよ

もういいよ





電気信号のような光が、音もなく
石に当たり
スッと消えた



あっ流れ星。
窓の外に月が細く光っている。スナッキンは、見えたのか見えなかったのか、わたしの方を見もせず続きを話した。
願いごとは思いつかなかった。


ドクッドクッ心臓だ
呼吸をしている

生きたい
生きたい生きたい


小さな石はミドリムシになって
その海で
体を震わせた

波紋は広がり少しずつどこかへと
流れるままに吸い込まれていった

渦の中にもはまり込んだ
急に浮上したかと思ったら
どこかに叩きつけられた

それでもミドリムシは
嬉しくて
その感覚を覚え込んだ


しやすくなった息を存分に楽しみ
手足を動かしていると
ミドリムシは目を開けた

その道がほのかに見えだした

慣れるものだな


何を恐れたのか
過去のものとなった時間に別れを告げ
踏み出した自分の勇気を讃えようと
空を見上げた

空には星が
かつてのあの石のように
孤独に存在した

見上げて初めてわかったことがあった

その石は
自らが光りを放っている
無数にある星の一つだった


ミドリムシは、
あの星ほどの時間を
生きることはできないけれど
あの星をまた
明日見上げることはできる

あの星の光は何億光年もの距離を
進んで
ミドリムシに届いた
光のメッセージだ


ふと足元を見ると
影ができていた

月が少し顔を見せたのだ

光あるところには
影がある

そんなことも知らずによく生きてきたな


そのときミドリムシは
太陽の光に会いたいと
切望した

きっとはっきり
今度こそ
自分の影を見ることができる

それが自分を生きるということだ



僕たちは光と影を行き来して生きている

夜には、朝を望み
朝には夜への準備をする


はるか昔の記憶によって
生かされる

 
2つの世界を行き来するエネルギーは
さいごには
膨らみすぎて
散り散りの星になる

星になる

無くなりはしない

有りもしない


あくびを噛み殺しながらわたしはスナッキンの話し終わるのを待った。


ねえ、ミーイ、ふふっ、
もとから暗闇は怖くなかった?
時々、悲しくなるのは、こういう話を聞いてくれる友達が、遠くになることだ。
自分で旅に出ておいて、我儘極まりないけれど。

今日は、嬉しくて、つい、長くなってしまったよ。お茶を煎れなおす?
あぁ、こんな時間だね。
じゃぁまた、会えるのを楽しみにしているよ。

おやすみなさい。

スナ、キン、、、
その布は、大事なんでしょ、
貸してくれるの。
ありがとう。


君にあるのは勇気だね。
ここへ来てくれて嬉しかったよ。




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