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エイプリルフールに重ねて

 昔お世話になった会社の上司とは、ひどい別れ方をしてしまった。
当時はほぼテレワークだったし、私は精神的に限界で、あまり気の利いた立ち振る舞いができない状態でいた。だからせめてもの贈り物として、仕事で返してきた。
 ゼロから仕事を教わって、先生であり、上司であり、友人だったはずのその方に、仕事を終える最終日、私は挨拶をしていない。それどころか、顔も合わせていなかった。

 最後に関わったのは、たまたま出社日で顔を合わせた日。ちょうど会社を辞める一週間くらい前だった。彼がPCの前で煮詰まっていて、それに気づいた私は、飴玉を差し出した。彼が大好きな梅干し味の飴玉を、たまたま持っていたからだ。会話はなかった。だけど、ありがとうと言って、ちょっとだけ笑ってくれた。

 エイプリルフールの今日、前の会社を辞めてから約5ヶ月が経とうとしている。時効かな?なんて都合のいい事は思っちゃいないけれど、今日は嘘をついても許される、特別な日だ。この日にちなんで、エイプリルフール用にふざけて作った小さな動画を彼に送った。騙されちゃいましたか??なんて軽口を叩くようなメッセージを添えて。
 もし送られて不快だったなら、無視を決め込んでくれればいい。4月1日なら、それもきっと許される。
 意外にも、返信が届いた。小馬鹿にしたような小さなツッコミ。まるで私が精神的に追い詰められてしまう前のような、温度感と距離感だった。仕事を辞めてからずっと心の奥につかえていた何かが、ポロッとどこかに落ちて消えた。

 今日はエイプリルフール。だけど、嘘になるといけねぇって思うことも、あるものなのですね。

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