長編小説[最終話] ネクスト リビング プロダクツ ジャパン

はじまり
 「こうして会員ランクが上がっていくと、どんどん月会費が安くなって、活動が続けやすくなっていくんですよ。」
歳増しのリーダーらしき『導さん』と呼ばれている男性が話す。その横で30代と思わしき『小春ちゃん』と呼ばれている女性が、資料を指差しながら顧客の視線を誘導している。
 小春と『琴葉ちゃん』と呼ばれている顧客は、友達の関係だったらしい。琴葉は自分磨きのセミナーで出会った『友人だったはずの人』に営業をかけられて、困惑していた。
 琴葉にとってアロエベラドリンクなんて、数ある栄養ドリンクの中の、選択対象のうちの一つに過ぎない。そのくらいネクプロの商品なんて、彼女にとっては心底どうでもいい物だった。けれどこれまで参加してきた『自分磨き』や『身体づくり』の勉強会は、今の彼女にとって、希望になる内容だった。また、せっかく出来た友人を失いたくない思いもある。
 裏切られたような気持ちと、せっかく見つけた勉強会の機会を失いたくない気持ち、そして友達を信じたい気持ち。それらの想いの間で、彼女の心の天秤は揺(ゆ)れ続けていた。

 時計の針はもうすぐ深夜1時を回ろうとしていた。
 大きなスタジアムで行われた、イベントのDVDが再生される。グリーンのロゴを模したフェイスペイントや帽子を被り、そこかしこにネクプロをアピールして盛り上がる人々が画面に映し出される。
 中央のステージで行われる派手なマイクパフォーマンス。そこから発せられる耳心地のいい言葉達。その響きに酔いしれるように、客席は終始熱狂していた。
 メタリックな紙吹雪が会場中に降り注ぐ。どうやらこれがフィナーレのようだ。

 「ネクプロの活動を始めると、こうやって世界中の仲間達と、繋がる事ができるんです。普通に人生歩いていたら、なかなか出来る事じゃないですよ。」
DVDの再生が終わると、『導さん』と呼ばれるリーダーらしき男性は、流暢に、そして熱っぽく、そのイベントについて語り始めた。

 「すぐに答えを出さなくてもいい。これは琴葉ちゃんにとって、とても大事な決断だからね。その上で改めて琴葉ちゃんに伝えたいんです。」
そう言って一呼吸おいた後、導はしっかりと琴葉に向き合って、彼女に優しく、こう言った。

 「君の人生を、僕にプロデュースさせて欲しいんだ。」

 

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