長編小説[第13話] ネクスト リビング プロダクツ ジャパン

小さな反逆
 『動画のアップロードが完了しました。』
PCの画面に機械的な文字が映し出される。

『[削除注意] 闇深きMLM ネクOロの裏側を大暴露』
『MLMはブラック部活!? やりがいに洗脳された羊たち』

 黒い背景に白と赤の筆字で綴られた危なそうなサムネイル画像。削除注意のラベルと共に置かれたダイレクトなタイトル。
 その動画の内容は、星光と渚が、自分達のネクプロでの日常を、赤裸々に告白していくものだった。名前こそ伏せてはいるが、もちろん彩芽の自殺についても、独自の視点での考察を語っている。
 今はまだ再生数0回のこの20分程の動画に、彼女達は懸(か)けていた。


世間の追い風
 「そもそも、MLMと鼠講はどう違うのでしょうか?先生、解説お願いします。」
「はい、大きな違いは2点あります。一つ目は商品を介すかどうか。二つ目は法的に合法かどうか。しかし今回の詐欺事件のように、MLMの形態だったとしても法に触れるケースが近年増加しています。」

 部屋のソファーでテレビのワイドショーを眺めながら、導と彼の奥さんは、終始渋い顔を浮かべていた。
 「ルールを守らない同業の存在は迷惑だね。」導がぼやく。
「そうねぇ。だけど、今に始まったことじゃないんじゃないかしら。ほら、今流行りのコンカフェとか、ホストクラブとか、年中摘発されてるじゃない。」
「ははっ、夜の街とネットワークビジネスを一緒にしないでくれよ。」

 ピンポーン。玄関のチャイムが鳴った。奥さんが対応しに戸まで向かっていく。導家の夜の時間は、今日も足早に溶け続けていった。


動画の行末
 「再生回数102回。思ってたより反響ありましたね!」
驚きを隠せずにいる私、星光(あかり)の横で、渚(なぎさ)はドヤ顔をきめていた。
「最近MLM絡みの詐欺事件があったからね。いい感じに世間の関心を掴んでる。これはラッキーだったよ。」
 渚の部屋のローテーブルに置かれたPCの画面を見ながら、2人は先日アップした動画の反響を確認していた。
 寄せられた4件の数少ないコメントは、どれもMLM被害者による共感の声だ。このままいけば、順調にネクプロの評判を落とせるかもしれない。
 自分自身が事を動かしているという現状に、まるで子供が家族にイタズラを仕掛けた後のような、言葉にできないワクワク感を覚えていた。


蒔いた種の行末は
 イベントも作業も何もないはずの今日、私、星光と渚さんは、導さんに突然呼び出され、導家のリビングのソファーに、ソワソワしながら2人並んで腰掛けていた。

 導さんがマグカップに3人分のコーヒーを淹れて持ってくる。
 中央のテーブルにコーヒーを置くと、彼は机を挟んで私達に向かい合うようにして、ビーズクッションの上に座った。

 「渚ちゃん、星光ちゃん、休み中に呼び出して悪かったね。ところで、君たちが何故呼ばれたか、心当たりはあるかい?」
導さんは開口一番、本題をブッ刺すように私達に問いかけた。


 









 

 

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