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ドコモvsソフトバンク シェアサイクル陣取り合戦の行方

シェアサイクル業界ではNTTドコモ傘下の“ドコモ・バイクシェア”とソフトバンク系列の“HELLO CYCLING”が二大巨頭となっています。

先日、なんとそんな両者が業務提携を発表しました。熾烈な競争を続けてきた両者がなぜ提携に至ったのか、その経緯を紐解いてみましょう。


区ごとに展開してきたドコモ・バイクシェア

ドコモ・バイクシェアの始まりは2011年4月~2014年3月に実施された横浜都心部コミュニティサイクル社会実験“baybike”。ただし当初は貸出システムが異なり、現在のサドル下の操作パネルで貸し借りするスタイルになったのは2014年10月開始の千代田区コミュニティサイクル“ちよくる”からです。

2015年末には江東区、千代田区、港区、中央区および横浜、仙台で展開するまでになりましたが、実は大きな問題を抱えていました。

というのも当時シェアサイクルは一般にコミュニティサイクルと呼ばれており、自治体が主体となって自治体ごとに運営するケースがほとんどでした。ドコモ・バイクシェアも例にもれず区ごとにサービスを展開した結果、区を跨いだ利用ができないどころか会員登録も区ごとに行わなければならなかったのです。これでは不便極まりありません。

そこで、2016年2月から広域相互利用と称して、対象となる4区のいずれかで会員登録すれば4区内のポートを自由に行き来できるようにしました。広域相互利用の実現によりドコモ・バイクシェアはますます利用を伸ばし、新宿区、文京区、…と順調に展開エリアを拡大していきます。

後発のHELLO CYCLINGは広域展開を強みに

一方のHELLO CYCLINGは、2016年11月に当時ドコモ・バイクシェアが展開していなかった中野でサービスを開始。年明けまでには上野・浅草エリアにも進出し、その後もコインパーキングや自転車店、コンビニエンスストアなどと協業しながら純民間でポート設置を進めていきました。自治体の影響を受けなかったこともあってか利用エリアに特段制限がなく、サービス初期から東京~さいたまの利用があったといいます。

そんなHELLO CYCLINGですが、2018年5月に台東区タウンサイクル事業の協働事業者に選定されました。この事業では協働事業者が3者まで募集されていたものの、「ラック数を超えて自転車を返却できないこと」が要件に盛り込まれていたため、ドコモ・バイクシェアは参加できず、HELLO CYCLINGのみ採用となったのです。

これを皮切りにHELLO CYCLINGは荒川区や板橋区などとも連携協定を締結。千葉やさいたま、川崎など23区外の各都市でも導入が相次ぎ、急速に勢力を拡大しました。

2021年末時点における東京都区部のシェアサイクル導入状況

こうして都心部のドコモ・バイクシェアvs郊外のHELLO CYCLINGという構図が鮮明になったのです。

HELLO CYCLINGはバイクシェアが導入されている各区内でも民間でポートを展開していますし、ドコモ・バイクシェアも上野松坂屋や東京ソラマチなど区を越えてポートを設置する例が見られたものの、決してその数は多くなく、双方のエリアを行き来するのは困難でした。

両者併設の流行も意外な落とし穴が

風向きが変わったのは2021年末。東京都がポート用地共同利用検証事業を開始し、西新宿エリア3か所にドコモ・バイクシェア、HELLO CYCLING、LUUPの並ぶ併設ポートが誕生したのです。

小田急サザンタワー

時を同じくして杉並区がHELLO CYCLINGとドコモ・バイクシェアを相次いで導入。以降、両者の境界に位置する各区を中心に、複数の事業者を併設する動きが広まっていきます。

練馬区はドコモ・バイクシェアを導入しながらも他区と行き来できませんでしたが、周辺自治体との相互利用を掲げて2022年4月から広域相互利用に参加し、あわせてHELLO CYCLINGとも協定を結びました。

台東区ではタウンサイクル事業に2者を追加することになり、ドコモ・バイクシェアと2020年9月から地道に展開を続けてきたチャリチャリが採択されました。

こうして2023年末までに、杉並、練馬、墨田、文京、世田谷、台東、中野の各区でドコモ・バイクシェアとHELLO CYCLINGの両者が採用されることとなりました。

2023年末時点における東京都区部のシェアサイクル導入状況

当該区では複数のサービスが使えるようになって利便性が向上…と思いきや、これはこれで大きな問題をはらんでいます。

なにしろ自治体が用意するポートだけではポート密度の低さから利便性を確保できず、各事業者が独自にポートを開拓していかなければなりません。そうなれば必然的にポート用地の取り合いが発生してしまいます。ある意味自治体ごとに棲み分けできていたのが一転、真っ向勝負になってしまったのです。

また、併設ポートも事業者同士で敷地を分け合うため、各事業者の使えるスペースは減ってしまいます。複数のサービスが併存することでサービスが分散し、個々のサービスレベルが低下しかねない状況は好ましくありません。

こうして両者はついに協業へ舵を切りました。

競争から協業へ

2024年7月10日、ドコモ・バイクシェアとHELLO CYCLINGはサイクルポートの共同利用に関する業務提携に合意したと発表しました。

共同利用ポートのイメージ

これは今まで行われてきたようなポートを併設する試みではありません。ポート自体を共有し、同じポートでドコモ・バイクシェアもHELLO CYCLINGも借りられるようにするということです。限られたエリアのみからの実施となるようですが、なんとドコモ・バイクシェアのポートでHELLO CYCLINGを借りたり返したり(もちろんその逆も)できるようになります。
※なお、対象エリア内においてもオペレーションや用地オーナーの都合で共同利用できないポートが生じる場合もあるとのことです。

この画期的な取り組みが上手くいくよう願うばかりです。


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