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日本の「森林政策学」の特徴について:スポーツ政策論との比較から

日本の森林政策学の特徴は、いくつかある。そのことについて、スポーツ政策論の教科書との比較から論じてみたい。
比較するのは、遠藤日雄編著『改訂現代森林政策学』(日本林業調査会、2012年)と菊幸一・齋藤健司・真山達志・横山勝彦編集『スポーツ政策論』(成文堂、2011年)である。

端的に言えば、『現代森林政策学』は個別の政策の解説である。『スポーツ政策論』は公共政策学や行政学の理論や方法、体系を踏まえて記述されている。これは、森林政策学が古い学問領域であり、一般の公共政策学者や行政学者に関心をもたれにくく、参入障壁が高い分野であることを示すとともに、(森林分野の)常識的な意味での「政策学」が森林分野では未発達であることを意味する。
このような未熟な「森林政策学」は、「林業経済学」台頭以前の「林政学」(制度の常識的解説)への退化であり、このような「森林政策学」の研究の未来は暗いと考える。『現代森林政策学』の編者の自慢じみた序文が一層私を暗澹たる気持ちにする。『現代森林政策学』には厳しい書評が寄せられているが、私にはそれ以前の、学界全体の無知、意識やレベルの低さこそ問題であるように思われる。

以下、長くなるが両書の目次である。

遠藤編著『現代森林政策学』

第1章  世界と日本の森林・林業 
 第1節 世界の森林の姿
 第2節 世界の森林の状況
 第3節 日本の森林の姿
 第4節 日本の森林の問題
第2章  世界の森林政策 
 第1節 なぜ世界の森林政策を学ぶのか
 第2節 森林行政組織と森林政策の基本的な枠組み
 第3節 森林政策転換の方向性
 第4節 森林政策転換の具体的内容
 第5節 まとめ
第3章  日本における森林政策の展開過程 
 第1節 意義と概念
 第2節 森林法による森林政策の展開
 第3節 森林法及び林業基本法による森林政策の展開
 第4節 森林法及び森林・林業基本法による森林政策の展開
 第5節 「森林・林業再生プラン」による森林政策の展開
 第6節 まとめ
第4章  森林・林業再生プラン 
 第1節 森林・林業再生プランとは
 第2節 再生プラン制定の歴史的背景
 第3節 再生プランの検討過程の特徴
 第4節 再生プランの内容と「改革の姿」
 第5節 再生プランの課題と問題点
第5章  森林政策の財政支出 
 第1節 意義と概念
 第2節 森林にかかわる財政支出の推移
 第3節 財政支出の特徴
 第4節 おわりに
第6章  山村問題と地域再生 
 第1節 山村の位置づけ
 第2節 山村の歴史的変遷
 第3節 山村地域対策の変遷・意義と効果
 第4節 地域再生の論理
 第5節 地域活性化・地域再生の動き
第7章  森林計画制度と森林施業 
 第1節 森林計画制度
 第2節 森林機能と森林施業
 第3節 森林計画の目指す方向
第8章  保安林、治山・治水政策 
 第1節 保安林制度
 第2節 治山・治水政策
第9章  路網整備と林業機械化 
 第1節 路網整備
 第2節 林業機械化
 第3節 林業再生への展望
第10章  造林 
 第1節 わが国の造林政策の概観
 第2節 造林関係の主要な施策
 第3節 造林政策をめぐる今日的課題
 第4節 森林・林業の再生と造林政策の展開
第11章  自然環境保護 
 第1節 自然環境保護とは何か
 第2節 日本の森林における自然環境保護の流れ
 第3節 森林における自然環境保護のための仕組み
 第4節 国際的な取り組み
 第5節 将来に向けた課題
第12章  野生生物との共存 
 第1節 わが国における野生生物の生息・生育状況
 第2節 野生生物の保護と管理のための仕組み
 第3節 野生生物との共存に向けた課題
第13章  国有林 
 第1節 国有林経営の展開(戦前期)
 第2節 国有林野事業の展開(戦後期)
 第3節 国有林野事業の抜本的改革
 第4節 国有林野事業の今後の方向
第14章  林業事業体 
 第1節 林業事業体
 第2節 林業基本法下での政策
 第3節 森林・林業基本法下の政策
 第4節 まとめ
第15章  林業労働 
 第1節 林業労働とは
 第2節 林業労働の実態
 第3節 林業労働対策における視点
 第4節 戦後の林業労働対策
 第5節 まとめ
第16章  森林組合 
 第1節 森林組合制度の変遷
 第2節 森林組合制度の特徴
 第3節 森林組合・森林組合連合会の現状
 第4節 森林組合の課題と今後の活動方向
 第5節 まとめ
第17章  木材産業と住宅 
 第1節 木材需給の推移と木材産業の現状
 第2節 新設住宅の動向
 第3節 林野行政における住宅政策の位置づけ
 第4節 木材産業対策の変遷
 第5節 まとめ
第18章  木質バイオマス利用 
 第1節 木質バイオマスとその意義
 第2節 木質バイオマス利用推進の潮流
 第3節 木質バイオマス利用の現状と課題
 第4節 木質バイオマス利用の展開
第19章  地球環境問題と木材貿易 
 第1節 地球資源限界の認識
 第2節 木材貿易
 第3節 地球温暖化対策と森林
 第4節 地球環境改善のためのニューウェーブ
 第5節 まとめ-未来に向かって
第20章  森林環境教育 
 第1節 森林環境教育とは
 第2節 鹿児島大学演習林での実践例

菊幸一・齋藤健司・真山達志・横山勝彦編集『スポーツ政策論』

はしがき
第1編 スポーツ政策の理論と制度
第1章 政策研究とスポーツ
 第1節 政策研究の理論
 第2節  スポーツ政策研究の課題
第2章スポーツ政策の形成
 第1節 日本のスポーツ行政組織
 第2節 スポーツ政策の形成過程
第3章 スポーツ政策の決定
 第1節 スポーツ法政策
 第2節 スポーツ財政
第4章スポーツ政策の体系と実施
 第1節 スポーツの行政計画の体系
 第2節 スポーツの行政計画の実施
 第3節 諸外国のスポーツ振興計画
第5章 スポーツ政策の評価と分析
 第1節 スポーツ政策の政策評価
 第2節 スポーツ人口と政策指標
 第3節 スポーツ施策の経済分析
第6章 スポーツ政策の主体と構造
 第1節 スポーツ政策のアクター
 第2節 スポーツ統括団体の役割
 第3節  スポーツ政策ネットワーク
 第4節 スポーツ組織と行政のパートナーシップ
第7章 スポーツ政策研究の動向
 第1節 日本のスポーツ政策研究の動向
 第2節 スポーツ政策研究の国際的動向
第2編 国によるスポーツ政策
第1章 スポーツ政策と公共性
 第1節 スポーツの公共性
 第2節 生涯スポーツ
 第3節 健康体力政策
第2章 競技スポーツ政策
 第1節 日本の競技スポーツ政策
 第2節 競技スポーツ政策の国際比較
 第3節 競技団体のガバナンス―カナダを事例として―
 第4節 アンチ・ドーピング政策
第3章 スポーツ施設と政策
 第1節 スポーツ施設の現状と政策課題
 第2節 スポーツ施設の設置基準と整備計画
 第3節 スポーツ施設の利用と管理運営
 第4節 スポーツの社会資本整備―西ドイツのゴールデンプランの評価―
第4章 学校体育政策
 第1節 日本の学校体育政策
 第2節 運動部活動の政策的展開
 第3節 体育教員をめぐる諸施策
第5章 国際スポーツ政策
 第1節 スポーツの国際政策―ヨーロッパの憲章と国際的な憲章を中心に―
 第2節 オリンピックと政策
第3編 地域のスポーツ政策
第1章 地方自治体のスポーツ行政
 第1節 地方スポーツ行政組織
 第2節 自治体におけるスポーツ政策ネットワーク
 第3節 都道府県の総合計画とスポーツ政策
 第4節 国民体育大会の現状と課題
 第5節 自治体スポーツ行政の実務と課題
第2章 スポーツとソーシャル・キャピタル
 第1節 ソーシャル・キャピタルの理論
 第2節 スポーツとソーシャル・キャピタル
第3章 地域スポーツクラブとその施策
 第1節 スポーツクラブと総合型地域スポーツクラブ
 第2節 地域スポーツクラブの成功事例
 第3節 スポーツクラブの今後の展望
 第4節 トップレベルスポーツクラブのマネジメントとシナジー効果
第4章 スポーツと地域政策
 第1節 社会的政策―スポーツを核とした地域連携―
 第2節 経済的施策
第4編 特定スポーツ政策と他の政策サブシステム
第1章 スポーツと産業
 第1節 スポーツ産業の振興策
 第2節 地方自治体によるスポーツ産業振興
 第3節 企業スポーツと政策
 第4節 スポーツの情報・メディア政策
第2章 スポーツと労働政策
 第1節 スポーツの資格と雇用
 第2節 プロスポーツ政策
第3章 スポーツと環境政策
 第1節 野外活動および自然体験活動に関する諸施策
 第2節 スポーツと環境政策
第4章 スポーツ事故の補償と事故防止政策
 第1節 スポーツ事故補償政策
 第2節 スポーツ事故防止政策
第5章 スポーツの団体自治と紛争解決
 第1節 スポーツ団体の自治と政策
 第2節 スポーツ紛争解決制度
あとがき―スポーツ政策の現状とスポーツ政策学の課題―
事項索引


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