岩渕が嫌いだった

岩渕弘人が嫌いだった。

2019年天皇杯1回戦。仙台大学と対戦したいわきFCは2-1とリードするもの、後半PKで追いつかれると終盤の82分に裏抜けされた選手にゴールを組められ、破れた。追いつかれての敗戦にサポーターの心は打ち砕かれた。そして「やってやった」と言わんばかりの逆転ゴールを決めた選手の表情に、悔しさが止まらなかった。その選手こそが、現在いわきFCでプレーする岩渕弘人だった。ちなみにPKを決めたのは嵯峨理久だった。

何よりもYou Tubeにアップされたハイライト動画で、チームメイトに揉みくちゃにされながら雄叫びを上げる岩渕のサムネイルがムカついて、その数カ月後まで動画を見る気がしなかった。それでも「いわきFC」と検索する度に出てくるサムネイル。「コイツ嫌いだ…」と何度思ったことか。

その年の12月、岩渕の加入が発表された。現金なもので、あれだけ悔しくて見られなかった動画をその夜初めて観た。とてつもない心強さを感じた。

記念すべきJFL初年度の2020年は、コロナ禍突入によるハーフシーズン制という非常事態の1年となった。試合数減は、1試合の重さに直結する。

シーズン中盤のソニー仙台戦、後半ロスタイム、ラストプレー。相手キーパーがピッチに置いたボールを奪う岩渕、切り替えして無人のゴールに蹴ったボールはゴールの遥か上に。そして終了のホイッスル。うなだれる岩渕、岩渕に寄り添うウェズレイの姿。でも、自分にとってこのシーンこそが岩渕に惹かれた部分なのだ。あの最後の瞬間、冷静にゴールを狙う姿に岩渕弘人という選手の本領を見た気がした。自分の出来ることに集中しミスを逃すまいと、常にギラギラとその一瞬を、狡猾に、虎視眈々と狙い続ける。相手にとって、嫌な選手に違いない。

後に岩渕自身もこのプレーについて、トラウマになったけど自分的に大好きなプレーと書いていたが、あのプレーでファンになった人間もいると思うのだ。

J3に昇格して以降、岩渕の活躍は凄まじかった。前年、控えに回ることが多かった中でもおそらく、ギラギラと虎視眈々とレギュラーの座を射止めにかかっていたに違いない。圧巻はYSCC横浜でのハットトリックと、2桁ゴールとなった愛媛FC戦で魅せた右アウトサイドでの流し込みのシーン。キーパーのミスを逃さず、最後の一瞬まで目を離さない岩渕の冷静さが垣間見えて大好きなプレーだ。

怪我をしてから8カ月、遂に岩渕弘人が帰ってきた。帰ってくるなり、ブチらしさ全開のゴールを決めてサポーターを湧かせてくれた。大宮に5-1で勝ったとはいえ、まだまだ苦しい時期は続くはずのいわきFC。そんな中だからこそ、岩渕弘人への期待は大きい。追い詰められてなお一瞬の隙を狙ってゴールを奪いに行く貪欲さ、冷静さこそが必要なのだ。

嫌味でも何でもなく、僕たちが4年前に抱いた「嫌なものを見せられた。誰だあいつ…嫌いだ」という思いを、ぜひ多くの人に感じてほしい。そこから多くの人が岩渕弘人の名前を知り、僕と同じようにどんどん好きになっていくことを願っている。

まだ残り20試合、ブチめちゃくちゃ期待してる。

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