『劇場版 SHIROBAKO』ネタバレ感想

 これほど『劇場で観られて良かった』と思えた作品は無く、今後もあるかわからない。

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 『劇場版 SHIROBAKO』の感想、主に自分自身の備忘録のための文章です。
 プラス、どなたかに『わかる~~~!!』と思っていただければとても幸せ。

◆SHIROBAKOのTVアニメ版および劇場版、関連書籍などのネタバレを含みます
◆記憶違いとか勘違いがあるかもしれません

◆SHIROBAKOが好きな個人の感想です

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劇場版への期待

 これまで観たアニメ作品は決して多くはない中ではあるけれど、心の中のランキング1位にどっかりと腰を下ろし、放映当時から今まで、ずっと胸の奥深いところを掴んで離さず、日々のお仕事に挑む背中を支えてくれている。
 私にとってSHIROBAKOはそんな作品である。

 劇場版がどんな話になるのか。
 TVアニメの放映時から、冗談混じりで語られていた『劇場アニメを創る劇場版』。まさにそういう内容である、ということ以外に明かされている情報はごくわずかだった。
 もろもろわからない中、しかしそのことで不安を感じるようなことはなく。面白いものを見せてくれるに違いない、という確信と、しかしそれがどういった形になるか全く読みきれないという部分と。
 TVアニメ版をおさらいしながら、作中で4年という月日が流れているという情報を元に、思考を巡らせる。
 ご年配の杉江さんが引退していたらどうしよう。いや、もし…亡くなっているようなことがあったら? いやいや、そういう方向性の悲しみとか衝撃とかが求められるタイプの作品じゃない。『えくそだすっ!』製作時の木下監督の言葉を借りるなら、「それはテーマじゃない」。
 お馴染みの面子はどう成長しているだろうか。『サンジョ』制作後の『限界集落過疎娘』で演出デビューしていることが判明しているタローは、その後もキャリアを積んでいるのか? ムサニに来たことで自身の変化を得た平岡が、まさか辞めてたら笑うよなぁ、とか。
 再びあの世界に浸り、頭をいっぱいにしながら。公開初日を迎えることに。


劇場版公開日、ムサニの今

 2018年4月28日の第一報から、2年近く。2020年2月29日、劇場版の公開初日。
 奇妙な緊張感と共に迎えた、幕が上がる瞬間。おなじみミムジー&ロロが語る『これまでのあらすじ』に引き込まれていく。
 デフォルメされたキャラクターたちはかわいらしく、描かれるアニメが出来る過程を見て開始数分で涙する羽目に。
 しかし、状況は一変する。
 ふいに動きを止め、机に倒れ込むミムジーとロロ。その机は、時を止めた武蔵野動画に置いてあったものを彷彿とさせるようにボロボロ…あっ、これヤベーやつ。
 TVアニメ版の1話をなぞるように進んでゆく、ラジオ、赤信号からのカーチェイス(不発)、同じルートを走る社用車…
 社用車には多くの傷、出鼻をくじくようなエンスト。ラジオはアニメ本数の減少を語る。
 そして、車から降りてきたのは佐藤さん。

 たどり着いたムサニの外観は植物だらけ。主人公の宮森は椅子で寝て、節電と書かれた紙が貼られ、廊下はひたすらに暗い。
 引き続き、TVアニメ版の1話を踏襲する形で開いた会議室の扉。その向こうにはかつてと同じように大勢の人間が集まって、今まさに放映が始まろうとしているアニメを視聴する態勢を整えていた…というのは幻。
 実際に室内に滞在していたのはほんの数人。直前のにぎやかな幻とのギャップもあり、ひたすらに淋しさを感じる会議室の様子。
 おまけに、始まったアニメはお色気路線に変わってしまったサンジョの新作。
 初アニメ化作品とまったく同じ道を辿ってしまっているこれを見て、野亀先生の精神状態が本気で心配になる。
 スタジオタイタニックが躍進したのか、と思ったけれど、想定していた方向でのステップアップではなかった。いや仕事を請けることができたという意味ではそうなんだけど…

 どうしてこんな事態に陥っているのか。会話の端々から、なにかとんでもないことが起こったのだということが示される。
 そこからは次々と衝撃的な事実が。ナ、ナベPが社長? ま、丸川社長は…まさか亡…いや、いやいやいや。そんな方向性の悲しみとか衝撃は以下略。というか平岡辞めてるんじゃんー!!
 新入社員(高橋くん)が入ってはいるものの、古参の興津さんが毎日出勤をしていないことから、トータルの仕事量の減少が嫌というほどわかってしまう…

 しかし、ムサニの現状が理解できていくにつれ、そりゃあ人も辞めていくよな、と納得せざるを得なくなってしまう。
 アニメの仕事がしたくて勤めていたメンツは、やりたいことが出来ないムサニからは去っていくのが当然。逆に、家から近いからと門戸を叩いた佐藤さんが残っているのが腑に落ちるというか…

 宮森にも覇気が無く、仕事量から考えると4年前よりはしっかり家に帰れているのではと推察できるものの、しかし室内は荒れている。山積みの洗い物…
 実家の家族は変わりなく娘を見守ってくれているものの、お姉ちゃんが結婚し子供が生まれているなど、明確な変化が。
 これは単なる想像だけれど、しんどそうだった銀行の仕事はきっともう辞めているんじゃないだろうか。

 いつもの5人は変わらず仲が良く、定期的な会合は続いている。
 各人、4年前よりは前に進んでいる。けれど思うようにいかない、思っていなかった方向への道に迷いを感じることも多く。
 この時に、宮森だけ新衣装でなくTVアニメ版で着ていたのと同じ服を着用しているのも意味ありげ。ムサニの現状により、他のみんなと比べて収入に不安がある?

 転機となるのは、ナベPもといナベ長が持ってきた劇場版制作の話。
 密談の舞台となったのは、体型がすっかり元に戻ってしまった本田さんの店。
 仕事を楽しんでいる本田さん。多くの時間を費やしているという意味では、制作進行時代と同じなのに、転職してからの登場シーンはいつもイキイキとしていて。
 今の仕事が就きたかったものであるから…というのはもちろんだろうけれど、きっと仕事をすること自体が好きなタイプなんだろうな、と。
 この後の出番を合わせて、なんだかずいぶんと自由にやれているっぽかったので、もしかして店長になったりしている? ウルリンの? それとも別の店だったり…? と思っていたところ、シリーズ構成・脚本の横手美智子さんのツイートに答えが。

 順調にキャリアを積みつつ、今なお仕事への意欲がマシマシな本田さん、まぶしい…体重もマシマシだけど健康そうだしなにより。

光明

 印象的だったのは、ここのナベ長と宮森との会話の表現。
 向かい合うふたり、その向こうのガラス壁越しに見えている外の様子。降っていた雨が弱くなり、止んで、そして雲間から光が挿す…TVアニメ版での、木下監督と野亀先生の会話シーンを想起させる演出。

 その後の、丸川元社長と宮森との会話は本作屈指の泣きシーン。
 店名『べそべそ』が画面に映った時、そうだよねお亡くなりになってるわけないよね…とようやく100%の安心を得て。
 しかし、元気なのに社長の立場から退かなくてはならなくなった原因は、ある意味もっと厳しい内容で。
 辛酸を嘗めることになってしまった、望まぬ形でアニメ制作の世界を去ることになった…けれど、丸川元社長は変わらず、どこまでも穏やかでやさしい。
 その声色だけで涙し、そして泣きながらカレーを食べる宮森の姿でまた抑えが利かなくなるのだった…

 ナベPはきっと社長のポジションに収まるのは嫌がったろうな。上に立ちたがるタイプじゃないし。でもそこに就けるのは自分しかいなかったんだろうなぁ…

 社長に言葉をもらい、決意を固めた宮森。チャッキーに励まされるようにして、ミュージカル風に『アニメをつくる』決意を語る。
 TVアニメ版で見たキャラクターが揃い踏み、そして恒例の『屈伸からのうさぎ跳び』もここで。
 歌って、踊って。みっちりしっかり時間をかけてあったのは、『えくそだすっ!』や『サンジョ』のような、作中作のアニメキャラとかはこういうシーンでないと出しにくいので、サービスカット的な意味合いもあるのかも。

星をあつめる

 ムサニ、そして頓挫してしまった作品の、形を変えた復活。かつて制作に加わっていた面々を再びあつめる、胸の熱くなる展開。

 挫折してしまった人として描かれる、木下監督と遠藤さん。
 木下監督は、がらんとした部屋で引きこもりのような生活を送り、宮森の説得から逃げ出し、本田さんと角でぶつかるという少女漫画のようなことをして…
 TVアニメ版で、本田さんの一言により活路を開いたのと同じように、背中を叩かれるようにして再び立ち上がる。
 「動けるデブ」と「ただのデブ」だった本田さんと監督だったけれど、後の脱獄シーンではめっちゃ動いていたので、やはり現場に戻ると監督も動けるデブに戻るんだな…

 そして遠藤さん。
 実のところ、劇場版を観る前は、ここの夫婦に子供とか生まれててもおかしくないよな~ウフフとか思ってた。それどころじゃなかった。
 パチンコとかじゃなくゲーセンに入り浸ってるのが、いき過ぎた思い切りを持てていないようで彼らしくて良い…と思っていたら、それに言及したツイートがまたもや横手さんから。

 遠藤さんの説得に動くのは、瀬川さんと下柳さんという豪華なメンバー。
 キツイことを言ってしまった、と落ち込む瀬川さん。TVアニメでは一度として見せなかった態度や弱音。仕事が出来てしっかりと自らの考えを口にできる彼女の 、貴重かつ人間らしい一面。そして問題が根深いものであることも感じさせる…
 対して、下柳さんは。かつてイデポン展で意気投合した時のように、非日常的な空間…水族館で。いつもの穏やかな空気を崩さず、自らの考えを伝える。
 横手さんが『北風と太陽作戦』と仰っていたけれど、まさにそれだなぁと。

 どっちが欠けても成功しなかったのでは、と思える説得の作戦。奥さんとの会話で目に涙を滲ませる遠藤さんの姿も印象的だった。
 奥さん、スーパーのレジ打ちだけでなくてTVアニメで勤めてたクリーニング屋も掛け持ちでやっててもおかしくない。ダメ人間になってしまってからそこそこの月日が経ってると思うんだけれど、登場シーンは決して多くないものの、あの奥さんなら一度として『そろそろ働いたら』みたいなことは言わなかったんだろう…愛と信頼が深い。

 監督にしろ、遠藤さんにしろ。こういう、人間関係のつながりの部分に対しては、やはりTVアニメ版を観ているからこそ、更に胸に響くものがあるなと。
 余談だけれど、遠藤さんに仕事をお願いしたいが連絡がつかない…という流れで、宮森に下柳さんが言うセリフ「わかった」の言い方がとても良いので、これから鑑賞される機会がある方は、是非耳を澄ませて聞いていただきたい。

  対照的に、ムサニを離れても、前を向いて日々前進している人たち。
 久しぶりに再会した時にも、態度が変わっていなかったタロー。企画の持ち込みを行う彼は、相変わらず落ち込んだりする様子はまったく見せず、口にするのは大言壮語。
 それにツッコミを入れつつ、しかしチャレンジをすること自体には異を唱えない平岡。担当話でのバディから、夢・目標に向かって手を組むバディとなったふたりは、奇妙にバランスが取れているし、若いエネルギーに溢れている。
 平岡から宮森にもたらされるアドバイスがまた印象的。かつての荒んでいた日々でのことを、良い意味で気にしていない様子で告げられたことも含めて。
 みどりのインタビューを読んで、そこに出ていた同好会の夢を覚えてくれている、というのもまた良かった。

 ある意味でもっともインパクト大だった、山田さんの変わりっぷり。
 興味の無い様子だった監督業、嫌いだったインターネットへの露出、謎のキャラ付け…など、人は変わってしまうんだなぁ、というのを作中キャラクターと観ている人にこれでもかと伝えてくれる存在…
 TVアニメ版の設定資料集に付属していた、『過疎娘』『ツーピース』のスタッフ表を見た人の一体誰が、監督業を経験した山田さんがここまで変わってしまうことを想像できただろうか。
 加工された写真の背景に、写りこんでいる枕田と遠城。台詞は無いものの、いいところに出番もらったなぁ、と。

 そして、現状を知りたくてそわそわしていた杉江さんの登場。元気そうでよかった…! 仕事も在宅で続けている、と。
 杉江さんも含め、TVアニメ版で登場していたキャラクターたちが、挫折したりあるいは業界自体が縮小しているような様子の中でも、辞めざるを得なかった丸川元社長を除き、誰ひとりとして引退したり、別の道を歩んでいるということがなかったというのが…根底にある、希望を持ったものとして描かれる作品であるという部分を、わかりやすく示してくれているように思う。

星たちで創る星座

 懐かしい面々が一堂に会し、着々と制作が進んでゆく。
 同好会のメンバーが再びひとつの作品に関われる場という点でも、七福陣への更なる一歩に。これまでの役と違って落ち着いた声色のしずかの演技、とても良い。
 「120分内に収めればいいよね?」という監督の言葉にくすりとしたりも(本作はちょうど120分)。
 TVアニメ版を踏襲するようなやりとりや画が多いのも、サービス精神旺盛という感じでとても良かった。サーバー落ちという言葉で焦る宮森、SIVAのキャラクターになりきって絵コンテを書く監督、そしてドライさに磨きをかけている佐藤安藤コンビ、連行されていく池谷さんなど…

 そんな中で特に胸を熱くさせられたのは、TVアニメ版では見せなかった、舞茸さんの苦悩。
 そこから抜け出すための力添えをみどりに求めるというのが、この人すごいなと思わせてくれて。自分が教えていた、ずっと年下の女の子に。いい意味で、変なプライドがなくて…なんて出来た人なんだ…!
 その後のやりとりでの「師匠じゃない。商売敵だ!」もグッときた。同じ土俵に立っているライバルだと。仲間とかじゃなくて商売敵。対等な存在なのだと。本当にかっこいい人である…
 知らないことを知るのが好きなみどりが、野球まで履修しているのも、彼女の天性のすごさを改めて示されたようで良い。かつてルーシーを演じたしずかの演技が、舞茸さんにきっかけを与えるというのもまた熱くて。過去から現在への確然とした道筋を感じさせてくれる。

 また、制作過程とは別のところで意義深いなと思ったのが、宮森たち5人と子供向けアニメ教室のシーン。
 各人が得意なことを活かすのは、ある意味でこれまでやってきたことの集大成。子供が描いたものをアニメにする過程も、アニメーション同好会での日々を思わせる。
 絵麻は子供を乗せるのがうまい。初期の久乃木さんと意思疎通ができ、懐かれていたことを思えば、これくらいお茶の子さいさいなのかも。
 美沙は子供たちとのやりとりの中で、自分に足りなかった考えに気づき…

 下の世代に楽しさを伝え、そしてそれにより学びを得る。教室終了後、杉江さんと5人が向かい合って話すシーンも含め、世代間での継承、技術や業界の未来を拓くために必要なことが描かれている。
 その後の土手のシーン、BGMが『どんどんドーナツどーんと行こう!』(アニメーション同好会での回想シーンや、しずかのルーシーアフレコシーンで流れる曲)だったのも趣深い。
 ムサニのトップが変わり、働く人たちが変わり…という、冒頭ではネガティヴに描かれていた時代の流れ、環境の変化。それを一転してポジティヴなものとして描いたシーン。
 かつて、丸川元社長や杉江さんらが創った『アンデスチャッキー』が、宮森に夢を与えてこの仕事に就かせて。そして今度は、彼女らが下の世代に同じようにアニメの楽しさを伝えていく…
 SIVAの制作とは離れたところでのこの出来事、劇場版のテーマとしてかなり重要な部分を担っているのではと。

 星が形作った星座は、長い時間語り継がれていくものだしね…

三度目の『ちゃぶ台返し』

 しかし、順風満帆のまま制作が終わるはずもなく。
 観ている人の多くが予想していたであろう、元々の制作会社との揉め事。通算三度目のちゃぶ台返しである。葛城さん胃は大丈夫ですか。

 本来踏むべき手順で問題を解決するには、時間が足りなさすぎる…へこたれそうになる宮森を、ミムロロが叱咤。
 TVアニメ版でのミムロロは、基本的に宮森の代弁者として登場する内なる自分。対話することで客観的に自分を見られる存在。
 けれど最終話で、自分から剥離したかのようにロロが動いて、パンチを繰り出していた。そして今回はミムジーも加わって、宮森を叩き、背中を押す。

 他者から、あるいはアニメのキャラクターから発された言葉によって、自分のゆく道のヒントを得ていた宮森は、もう己自身で答えを導き出せるようになった。前半で社長にもらった言葉、それからこれまでに蓄積したすべてを糧にして。プロデューサーとして、成さなくてはならないことをする決意。

 パートナーとなるのは新キャラクターの宮井さん。
 大立ち回り(イメージ)をした後で、ボス戦に臨んだふたりは、しかし冷静にことを進める。格好も相まって、覚悟を決め肝を座らせた、女性の強さみたいなものも感じさせるシーン。めちゃくちゃ怒りながらも言質を残しておいた葛城さんも相当グッジョブ。

 最大の難関を乗り越えて、意外にも余裕を持って作品は完成。でも、どこか物足りない。スタッフの熱意、喜びも含めて。
 かつて社長がしてくれていたように、カレーを作る木下監督。キッチンで話す彼と宮森は、胸に宿る思いを具体的にし、吐露する。
 『サンジョ』で行き詰まった時に、かつての丸川社長が監督に語りかけていた画を思い出させる… 

 公開まで残り3週間という中。一丸となって、満足のいくものを作る決意を固める監督ら。
 そして時間は経ち、とうとうSIVAの公開初日へ…

劇場の中で観る劇場アニメ

 TVアニメ版を観た人なら、各人がプロフェッショナルで、求められた仕事を完遂する、そしてそれらが集まってひとつの素晴らしい完成形に昇華する…というのはわかっているところ。
 だから敢えてでしょう、とんでもなく大変だったはずのラストシーン再作成についての過程は一切描かず、これを見ればわかるとばかりにSIVAのラストが流される。

 本作で一番衝撃を受けた部分はここ。しかしそれはラストシーンそのものというより、ラストで観せられた、作中作のアニメシーンが一番心に残った…という点。

 これは、リアルの製作者の方々と劇中でのメンバーの努力・技術を見せてシンクロさせる、TVアニメ版でのあるぴん泣き顔シーンや爆破シーン、馬100頭シーンと同じ見せ場。
 しかし、それらと違って、あの数分のシーン、あれを見せられただけであの劇中劇のキャラクターたちに感情移入して泣いてしまった…というのがあって。

 『えくそだすっ!』も『サンジョ』も、作っているところをじっくり見せてもらって、大まかな話の流れが視聴者にも伝わっていたし、各キャラクターにも話数の進行と共に愛着が湧いてくるようになっていた。
 一方、SIVAはどんなストーリーになったのかはほぼ描かれず、キャラクターもウサギの彼とメインっぽい少年、そしてアルテという少女…とユニコーン的な馬を認識しているのみの状態。

 ラストシーンが始まって、鳥のキャラとアザラシっぽいキャラとメカっぽいキャラをはじめて認識。
 井口さんがデザインしたキャラたち、杉江さんがまた手伝ってくれたのであろう馬、下柳さんや美沙たちが手をかけたCG、これも新規で作曲したと思われる劇伴…
 初めのうちは、ムサニの製作者たちを見守ってきた目線のまま鑑賞していた。人間キャラばっかだとカロリー高くなるから、シンプルな造形のキャラをいくつか入れてきたんだろうな、と現実の制作側にも意識を向けたりもして。
 でもそのうち、知らずしらずのうちに、ただの『SIVAの観客』に視点が切り替わっていて。鳥やアザラシ、メカという初見のキャラが必死で戦って傷つきまくってるところで、ボロッボロに泣いてしまって。
 彼らがどんな存在かもぜんぜん知らないのに、ボコボコにされながらも抵抗してるのを見せられたらもうダメだったし、少年とウサギも、バックボーンを知らないのに、助け合って戦ってる姿だけで十分に信頼関係が伝わってきていて…

 プロたちが技術の粋を結集させて、確かな説得力を持ったものを観る人に届けるという点で、すでに挙げたあるぴんや爆破、馬のシーンとカテゴリ的には同じ…だけど、更に進んだものとしてあのラストシーンが作られたんだと思う。
 TVシリーズでは揺さぶられなかった部分をめちゃくちゃに刺激されてしまった。

 これまでと同じことをしてもしょうがない劇場版。
 デジャヴュを覚えてうれしくなるシーン、TVシリーズから確かに地続きなのだと実感させられるキャラクター同士のつながり…といったものを残しつつ、その上へいったのだという実感を、SIVAのラストシーンで泣いたあの瞬間、これ以上なく説得力のある形で得られたんだと思う。

 物語はそのまま、エンディングへと。
 全員揃っての打ち上げ風景ではなく、各人の姿を描いていく。券売機のタッチパネル操作に戸惑っている杉江さんがキュート。
 机上の写真が更新されていた、堂本さんの息子さんも登場。4年後ってもしかしてお酒飲める年齢になってる?
 基本的にみんな、ビジュアルは変わっていない中で、それなりの時が経ったんだなぁともっとも実感できたのは、堂本さんの息子さんの成長っぷりだったように思う。

 宮森とミムロロの会話…「自分たちの伝えたいことは伝わったかな?」
 その問いかけは、明確に『観客』に向けて発されている。
 生きるって常に『俺たた』エンド。今日が終わっても明日の戦いがある…お仕事のことだけではなく、すべての人に向けた、普遍的で、背中を押してくれるメッセージ。

 沈んでいた宮森の姿はもう無く、社内のホワイトボードにはこれからの予定が。『サンジョ』の続編、そしてムサニオリジナルアニメの企画も。
 『俺たちの戦いはこれからだ!』、TVアニメ版の時のように、未来を垣間見せ、物語は幕を閉じる。幕の向こうでは日々が続いていると確信させてくれる形で。

キャラクターについて思うこと

 全体を通して、TVアニメ版で出てたキャラはほぼほぼ登場していて、愛を感じられてうれしい。庵…じゃない菅野さんも出てくるとは!
  佐藤さんなら物怖じしないでやりとりできていそう。高橋くんだとテンション上がりすぎちゃうだろうな。

 公開前、新キャラクターとしてけっこうスポットが当たっていた宮井さん。彼女自身がトラブルとかを持ってくるポジションになるのかと思っていたけれど、そうではなく。
 あくまでも社外の人だという立ち位置を崩すこと無く、しかし出会ってすぐの本音爆発呑み(直前までの、上品で落ち着いた女性という姿からのギャップがとても効いている!)、最大のピンチ時に宮森のパートナーを務める…といったように、メインの出番はどれもインパクト大。
 今回の件で信頼関係も構築できたし、今後のふたりはナベ長と葛城さんと同じような間柄になるんだろうなと。
 宮井さん、しずかの演技で涙ぐんでいたところも可愛らしくて良い。
 隣にいる宮森は、ルーシーのアフレコ時に、息を飲んで見守り涙して…今はそんなことも無くなり、どこか安心した様子でしずかの仕事を見つめている。それと対になっているようにも思えた。

 さらっと加わっていたニュー制作進行、高橋くん。
 彼も特別に活躍したりトラブルを引き起こすような位置ではなかったけれど、仕事が少なくなったとはいえ、制作が佐藤さんだけでは無理だということで、新入社員ポジの人が必要だったんだろうなと。
 メタ的なことはおいといて、『タイマス事変』の後に新しい人が入ってくれたということ、今後を見通す上でけっこう大きいというか。
 高橋くんは業界のことに詳しい様子で、ならば当然ムサニが現在どういう状態なのかというのを、理解した上で入社してくれたんだろう。それだけで、物語を見ているこちら側としては、明るさの象徴のようでいいなぁと思えてしまう。
 タローっぽい…なんて言われたりもしているけれど、高橋くんが持っているのはタローのいい部分だと思う。あっけらかんとしてしぶとそうで、物怖じしなくて。タローの明確なマイナス面…自身への過大評価とか、後回しにして事態を悪化させるとか、そういった面は少なくとも劇場版の中では見られなかったので。
 SIVAでムサニが返り咲き、熱意が溢れている状況となったことで、きっとこれまで以上に張り切って仕事をしてくれるんじゃないかなぁ。

劇場版、ときいて

 鑑賞前に想像していたのは、TVアニメと比べてこういうところが大変ですとか、すごいですっていうのを見せてくれる話。
 蓋を開けてみて思ったのは、働くということ、更にはもっと大きな、日々生きていくということ。そういった、誰しもが共感できることに、劇場版制作という形をとって切り込んだ話なんだなと。
 TVアニメ版にも、『アニメ業界の今』を伝えたいという思いだったり、働いている人たちへの普遍的なメッセージだったり…が詰まっていたけれど。
 冒頭のカーラジオで言っていたように、アニメ業界自体が縮小した、市場規模が小さくなっているような状態で。そこで大きくつまずいてしまったムサニという企業、自暴自棄になってしまった木下監督や遠藤さんといった個人が、そこからどうするのか…という視点をとっている中で、TVアニメ版よりも更に広く、多くの人に寄り添い語りかけるような内容になっていたのではないかと思う。
 SIVAのラストで戦っていたメインキャラ5人の声優さんたちが、そのまま本作(SHIROBAKO)のメイン5人である…というのも、この物語においてあのラストシーンがどういう意味を担っていて、なにを伝えたいのか、というのを象徴しているのでしょう。

 SHIROBAKOの世界は徹頭徹尾リアルに即しているわけではなくて、それどころかけっこうな割合でファンタジーが混じっていて。
 目の前に実際に現れているかのように描かれる七福陣なんかはわかりやすくそうだし、実際の仕事現場は、もちろんもっと胃の痛くなることも多いだろうし、目標があったって、誰しもがそれに向けて思いをひとつに出来るわけじゃない。
 リアルとファンタジーを混ぜ込んだ中の、挫折して、立ち上がって、乗り越えて──という一連の流れを切り取ってみるならば、アニメ作品らしい、オーソドックスな展開だとも言える。

 けれど、SHIROBAKOという作品が届けるメッセージがすごく説得力を持つのは、何よりも『実際に目にするものが、作中と現実がシンクロする形での成果物』という部分。
 TVアニメ版でも幾度となく示されていたそれが、劇場版ではSIVAのラストシーンに集約されていて。
 それまで宮森やムサニを見守っている立ち位置だった自分が、SIVAを観に来た観客の一員になったあの感覚。
 作り直しの過程を見ていない分、TVアニメ版よりも強く、ごくごく自然に意識はそちらにシフトし、実際に劇場でそれを観ているという環境がもたらす効果も、言うまでもなくとても大きくて。
 その後に発されるミムロロの「伝わったかな」という言葉がとてもストレートに響く。

今、この作品を観られたということ

 筆が遅いせいで、これが完成しないまま再度の鑑賞機会を持つことになった(外出に制限が無い地域・時期の話)。内容を知っていても、また新しい発見があり、新鮮に観られる部分があるのをうれしく思う。
 『めでゅ~さ』でお色気演技をすることになった鈴木京子さんを思ったりとか、ルーシー出てるんだからしずかもそんな演技をやってるんだよな…とか、キッチンべそべそのカウンターの隅に武蔵野動画での集合写真が置いてあってじんと来たりとか、映画館での他上映作のタイトルをじっくり見てニヤリとしたりとか(Another2を観に行きたい)…

 外出を推奨できない環境と、公開が被ってしまったことはとても不運だ。作中でのSIVA公開月が2月で、現実での本作の公開日はそれに合わせられるギリギリの2月29日。延期するという選択肢は、せっかくシンクロさせたのに…という点でも、今後事態がどうなるか、延期しても状況が悪化している可能性も少なくない、そういったもろもろにおいて見送られたのではないか…いろいろと推察し得る範囲でも、さぞかし悩ましく胃を痛めたのだろうな、と思ってしまう。
 けれど。そんな特殊な環境下において、普段よりも忙しくストレスフルで、へこたれていた私の胸を、SHIROBAKOがくれたメッセージがガツンと殴ってくれた。
 このタイミングで鑑賞できたことで個人的に得た意味を、手繰るように考えてしまったりもする。

 TVアニメ版で与えてもらって、そして今回の劇場版で新たにもらったもの。自分の中のその灯はぜったいに消えない…
 引き続き、多くの方にこの作品が届くことを願う。

 …円盤が出たら、特典はSIVA完全版でお願いします!


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