日本リーグ優勝の舞台裏 激動のシーズン後半③
事実は小説より奇なり。
私は、ズバリ!バスケットボールの神様はいると信じています。
なぜなら、バスケットボールの神様は、苦しんだ分だけ最高のフィナーレを用意してくれていたからです。
静かに始まったファイナル第3戦
1勝1敗で迎えた「第28回バスケットボール日本リーグファイナル第3戦」は、1995年3月23日、満席の横浜文化体育館で行われました。
試合前の雰囲気は、今でも覚えています。
企業スポーツ全盛期、お互いのチームのチアリーダーがシンセサイザーの音楽に合わせて観客を盛り上げます。
会場MCでお馴染みのO倉さんが、奥行きのある素晴らしい声で、お互いのチームの紹介をします。
確か、試合の序盤は静かな滑り出しだったと記憶しています。
1、2戦は、派手な点の取り合いでしたが、この試合はシーズン最後の試合の試合に相応しく、お互いをリスペクトする発表会のような雰囲気でした。
心は熱く頭はクールにゲームが進む
試合は見事な攻防の繰り返し。
お互いの今シーズンを労うよう、個人のベストプレーがチームの集大成を織りなしながら進みました。
まるでバスケットボールの神様が、体育館の天井から、「どちらに勝たせようか?」と、チェスのコマを動かしてる様にも思えました。
選手はもちろん、スタッフもこの試合に全てを捧げ、ミスをしないよう細心の注意をはらいながらも、大胆なチェレンジを繰り返します。
私もスコアを付けながら、試合のあらゆる情報を逐一監督の清水さんに伝えます。
反対側からは、絶妙のタイミングでアシスタントコーチが、ベンチの控え選手の状況を伝えるのです。
それは、Jエナジー陣も同じ。心は熱く燃えながら、頭はクールな情報戦でもありました。
残り2分の記憶がない
いろいろあった激動のシーズンも、いよいよチェックメイトを迎えようとしていました。
残り時間も3分、スーパーカンガルーズは若干リードしていましたが、まだ残り時間を考えたら気の抜けない接戦でした。
その時!監督の清水さんが、「ドック!」とC•マーチン選手の名前(ニックネーム)を呼んだのです!
私は〝清水さん、名前を間違えた〟と思いました。
なぜかと言うと、マーチン選手はこのシーズン、プウオウ選手とマルチネス選手のアドバイザー役として試合には出ておらず、すでに引退が決まっていたからです。
しかし、マーチン選手は驚くべきことに、笑みを浮かべて悠然とコートにはいっていきました。
しかも、清水さんは、さらに引退が決まっているベテラン選手2名(N井選手と濱田キャプテン)を次々とコートに送り込んだのです。
私はこの時、改めてスーパーカンガルーズの真の強さを垣間見ました。
2名とも全く臆することなく、堂々とコートに入り、まるで新人選手のようにハツラツとプレーしたのです。
入社前、憧れていた〝最強のスーパーカンガルーズ〟が目の前で再現されていました。
しかし、まだ勝敗が決まったわけではありません、接戦です。
「最後にトドメとなるような、ビッグプレーが欲しい!」と願った瞬間でした。
その願いが通じたのか、バスケットボールの神様は、チェックメイトに〝あの伝説のビッグプレー〟を選んでくれたのです。
マーチン選手の手にリバウンドボールが吸い込まれた次の瞬間、彼は片手で軽々と誰もいない自陣目掛けてボールを放り投げ•••。
栄冠へのタッチダウン
誰もいないはずの自陣には、いつの間にかキャプテンの濱田選手が走りこんでいました。
いつかTV中継で観た、マーチン選手の十八番、〝タッチダウンパス〟です。
濱田選手も、見事なスピードであっという間にレイアップシュートを決めました。
その瞬間、マーチン選手は下を向いて微笑んでいました。いや、泣いていたようにも見えました。
このシーズン控えにまわり、文句ひとつも言わず若手を励まし続けたベテラン勢のビックプレーが、激動のシーズンの最後を飾るなんて誰が予測できたでしょうか。
私はしばらくの間、天井を見つめ放心状態でした。実際、後になってスコアブックを見直すと、残り1分ほど訳の分からない落書きのようになっていました。
そこから試合がどう終わったのか、全く覚えていません。
気がつくと私の名前を呼ぶ声がします。
「Keita! Keita!」プウオウ選手が、私をコートの歓喜の輪に呼び込んでくれました。
もう見てくれも気にせず、走って誰彼構わず抱きつきました。
その時初めて、スコアボードを見て、76ー70だったことを知りました。
Jエナジーのスタッフ・選手たちも、変わるがわる「おめでとう」「ナイスゲーム!」と声をかけてくれました。
それから、私にはもう一つやらなければならないことが残っていました。
入院しているY田選手への報告です。
すぐ、コート脇から電話しました。「Y田!やったぞ!勝ったぞ!」。
彼は何て言ったかわかりますか?
Y田選手は心から落ち着いた声で、「わかってましたよ、信じてたし。」と言ったのです。
もう、携帯電話を握りしめたまま号泣、言葉がありませんでした。
激動のシーズンは、以上になります。最後までご拝読ありがとうございました。これを書いている間も、目頭が熱くなるのがわかるぐらい、感動が甦りました。
次回は、もう少し「人物」にスポットライトを当てて、掘り下げたいと思っています。ぜひ、読んでいただきたいと思います。
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