日本リーグ優勝の舞台裏 激動のシーズン後半②
セミファイナル第二戦も壮絶な試合となりました。私はベンチでスコアをつけながら、負けた場合の再チェックインのシュミレーションや、新幹線の時間を気にしながら、チケットの変更の段取りを繰り返すビジーな40分になりました。
愕然とした月曜の朝
第二戦の内容はほとんど覚えていません。
88-87、1点差の激戦でした。
試合後、勝利に浸る暇もなく体育館からタクシーを飛ばし、新幹線に飛び乗りました。
大阪に帰阪したスーパーカンガルーズは、疲労困憊。月曜日は、完全休養を取ることにしました。
しかし、マネージャーに休みはありません。
月曜日のうちに、
・旅費交通費や、領収書の精算
・関係先へのお礼の連絡や本社への報告
・旅行会社と次の遠征の打ち合わせ
・遠征先での練習会場の確保
・東京支社への挨拶の段取り
・対戦相手の対策ビデオの手配
・・・やることは山ほどあります。
眠い目を擦りながら、職場へ連絡後、体育館へ出社して一通り仕事をこなした後、クラブハウスで早めの昼食を取ろうとした時でした。
クラブハウスの職員さんたちが、テレビに釘付けになっています。
「何かあったんですか?」とたずねると食堂主任が画面を指差しました。
道路いっぱいに横たわる人と救急車、私は一瞬何のことだか理解できませんでした。
画面には東京での無差別テロ「地下鉄サリン事件」が特番として放映されていたのでした。
私は顔が青ざめ愕然としました。
もし、試合に負けていたらこの時間帯に地下鉄で移動して東京支社へ挨拶に行く予定にしていたからです。
ちょっと不安な週明けになりました。
決勝の火蓋が切って落とされた!
さあ!ファイナルの会場は、横浜!
プロレスなどでお馴染み、関内の繁華街に近い横浜文化体育館(通称:ブンタイ)です。
対戦相手は、元々N本鉱業として、M下、N本鋼管(NKK)と共に歴史と伝統のあるチーム、Jエナジーです。
ベテランと若手が融合し、能力ある外国人選手も含めて、リーグ戦11勝5敗ながら優勝候補NKKを破って勝ち上がってきた下克上のチームです。
「TOTAL POWER」のスーパーカンガルーズか!
ベテランと若手の融合、勢いのJエナジーか!
第28回バスケットボール日本リーグのNo.1を決めるファイナルの火蓋が切って落とされました。
アクシデント 第1戦
土曜日の第1戦は、〝まさか⁉︎〟の試合となってしまいました。
Jエナジーの勢いを止めることができず、91失点。大事な1戦目を79-91で落としてしまったのです。
3戦2勝方式の大事な初戦を取られ、形勢はグッとJエナジーに傾きました。
そして、もう負けられない2戦目の朝、またもスーパーカンガルーズにアクシデントが起きました。
ホテルで朝食をとっている最中、ある選手が倒れ、救急車で搬送されたのです。
Y田選手を欠いている中、またしても救急車です。私はもう不安しかありませんでした。
選手が病室で点滴の最中、病院では密かに医師やスタッフ数名が集結していました。
ちょうど、選手のご家族の方も横浜に応援に来られており、出場させるか否かの意見を聞くことができました。
暗くて静かな待合室で、しばらく話し合いは続きました。
覚悟を決めた第2戦
私は、〝覚悟を決めた時ほど人は強くなる〟と思っています。
なぜなら、覚悟を決めた瞬間から迷いはなくなり、集中して力を発揮できるからです。
倒れた選手を出場させるか否かの重たい空気を一転させたのは、奥様の一言でした。
「試合?いいよっ!主人も出たいって言うから。」
奥様もバスケ経験者。とても芯の強い方で、笑顔でサラッと言い切ったのです。
この一言で皆、覚悟が決まりました。
全責任は監督が持つという約束で、その選手を出場させることになりました。
すぐにホテルへ戻り、試合の準備です。
切り替えの早さが持ち味の今シーズン。
さっきまでの重苦しさはなくなり、スタッフも選手も闘志がみなぎっていました。
日曜日に行われた第二戦は、この闘志が相手を圧倒しました。
病院に搬送された選手も、全く問題なくプレーでき、82-67で1勝1敗のタイに持ち込むことができました。
これで、逆王手!
失いかけた勢いをグッとたぐり寄せました。
第3戦は1日間をあけた火曜の夜に行われます。
試合前に点滴を受けていた選手は、この試合、20得点をあげる活躍でチームの勝利に貢献しました。
シーズン当初に体験した胸騒ぎが、また湧き上がりました。今回の胸騒ぎは、「いける!」という胸騒ぎでした。
今回も最後までご拝読ありがとうございます。思い起こせば、1試合1試合いろいろあったなあと思います。スポーツニュースや新聞などを見ても思いますが、他のスポーツでも勝利のガッツポーズにはそれだけのストーリーがあるんでしょうね。もちろん、敗者にもストーリーがあります。
胸が熱くなりますね。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?