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【短編小説】ハンバーグ余丁町

新宿区余丁町で俺は目覚める。
「余丁アルティメットマンション」の303号室に陽光が差し込む。
今日は休日。ハンバーグを作ろう、と心に決めた。

信号を渡り、余丁町公園のベンチに座り、流れる雲を見上げる。ここのすべり台は、異様に背が高い。

コンビニで購めたクラフトビールを胃に流し込む。子どもが父親と遊んでいる。子どもは、パンダの形をした、グヨグヨ揺れる遊具にまたがり、前後に揺れている。

俺はおもむろに、買い出しに出かける、まねき通りの出口に位置する業務スーパーへ。

以前、このスーパーの目の前で、ホストがメンヘラに刺された。

ホストが刺された現場からそう遠くない場所では、昭和の頃、情のもつれで、男が女に漬物石で撲殺された事件もあった。

このあたりでは何が起きてもおかしくはない。新宿は、そんな街だ。


ひき肉、パン粉、牛乳、玉ねぎを購う。
卵はまだ家に残りがあるはずだ。

帰宅。

夕方までボーっとする。
昼飯は摂っていないが、平気。
ウトウトしてきたので、仮眠。
起きると17時だった。夕景。

俺は立ち上がり、大きなあくびをしてから、食事の支度をはじめた。

ひき肉をボールに投入し、みじん切りした玉ねぎを加える。
卵を割り入れ、少しの牛乳と、適当な量のパン粉を加える。
塩コショウをふりかけ、そのすべてを手で混ぜ合わせる。

この、肉を素手でこねくり回す工程が、気持ちいいのだ。病みつきになる。

混ざり合ったら、楕円形に形成し、両手でキャッチボールし、空気を抜く。
出来上がったものの表面中心を指で押して、くぼみを作る。

油を気持ち多めにひいたフライパンに、肉塊を載せ、6分焼く。片面が焼けたら裏返し、もう6分。箸で刺し、肉汁が自然に溢れてきたら完成だ。

ハンバーグを皿に移す。次はソース作り。

フライパンに残された、油と肉汁の混じり合った液体に、ケチャップとソースを加え、煮詰める。

いい塩梅になったら、ハンバーグの上からソースをかける。

湯気がたちこめ、美味しいそうな匂いが広がる。

彼女と一緒に食べようと思い、笑顔で振り返ってみたが、そういえば俺に彼女はいなかった。部屋には自分しかいなかった。

「ぎゃふん」と、ひとりごち、食後、皿洗いを終え、歌舞伎町のフィリピンパブに向かいし夜道。

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