艦これ日記 15春イベント その7

海軍の輸送艦から、真っ先に降りたのは艦隊司令であり、けれど迎える軍楽隊は無い。鎮守府部隊には、もともとそんなものはないし、無かったとして気にする人ではない。それでも不知火たち、彼が迎えの車に乗るまでを、護衛する。それが艦隊司令栄誉に対するものかどうかはともかく、不知火たちだけでなく、龍田たちも、夕張たちも行っているらしい。ご苦労、と挙手の礼の後に、彼は迎えの車に乗り込む。

不知火たち艦むすの艤装解除は海浜に作られた施設で行われる。解除した艤装は、防護コンクリートトンネルを自走ドローンで輸送され、同じく防護体に守られたコンテナ工廠で整備を受ける。艦むすの方は、別のコンクリートトンネルで、電動車を使って、マムのホテルへと向かう。防護された艦むすのための宿舎の建設も、遅れている。

このまま作らずに済ませればいいのに、と皆が思っていた。防護防護と言われながら、コンクリの壁やトンネルの中をただ運ばれてゆくのは気づまりだった。その隙間から垣間見えるジャム島は、訪れるたびに変わっている。

おなかすいたなー、とぼやく陽炎はいつもどおりだったけれど、ホテルの皆はいつもと違って慌てふためいていた。艦隊司令は来訪を知らせていなかったらしい。性格悪いな、と不知火も思う。

「まあ、報せないには、それなりの戦略上の理由もあるけれど」

大淀はそうつぶやいてはいた。高級幕僚が出先で遭難して、うう、頭が。

「この期に及んで出先にだけ任せておくと思っていたのか」

艦隊司令の方はそう言って笑う。もっとも、艦隊司令がまず向かったのは、新しく作られたジャム島の指揮施設ではなく、ホテルの一階にあるフロントへ、つまり、マムのいるところへ、だった。二人だけで、小一時間、何を話していたのかは判らないけれど、その後になって二人は、何か話しながら普通に上階へ上がって来もした。何を話していたのかは、教えてくれなかったけれど。

それだけが艦隊司令の仕事であるはずもなく、続いて彼は、新設の指揮施設へと向かった。そちらへ向けても、防護体のトンネルが伸びていて、自走電動車が走る。コンクリの天井と壁が続く。それも自走電動車ならあっという間に通り過ぎる。一つの施設から、別の施設へと移るとき、最小移動時間が決められているのだと大淀は言っていた。けれどジャム島の地形や地盤の関係で、施設を一つに集められないのだ、とも。

指揮施設は、北方幌延泊地の時のような、海軍と合併した施設ではなく、鎮守府部隊のためだけの施設だ。中枢は鎮守府の会議室の一つくらいの、こじんまりしたもので、据えられた機材もあまり変わりない。壁の一面は大判のスクリーンになっており、それとは別に、艦隊司令の席の周囲には、大判のディスプレイが置かれている。秘書艦や幕僚任務艦のための席ももちろんある。

実際、連合艦隊に二個艦隊、これとは別に一個艦隊が出撃する態勢は、トラック島以来の大規模出撃で、艦隊司令の直接指揮が行われるべき頃合いでもある。壁の大判スクリーンには、ジャム島近辺からカレー洋全体が表示されている。カレー洋北部には、敵のプラントの推定位置が示されている。リランカには、今確認されている、敵のプラントが光っている。カレー亜大陸南端の先には、また違う表示がある。それからカレー洋西部、カスガダマ付近にも敵の表示がある。

更に北、大陸沿いに北上したところに、ソコトラ島が特別に示されている。そこが、本目標の第一次到達地点だ。鎮守府部隊は、すくなくともソコトラ島に到達しなければならない。ソコトラ島へなら、欧州連合海軍にも到達可能であるらしい。そのために、地球を半周、鎮守府部隊の全力を投入している。けれど遠すぎて実感がわかない。カスガダマよりさらに遠い。この道のりを逆にたどって、U-511は自力でやってきていた。さらに以前には、伊8たちがその道を進んだ。もう一度行えるのか、定常航路を打通できるようになるのか、不知火にはわからない。だが、作戦はすでに進んでいる。赤城と金剛姉たちの連合艦隊が、リランカ突入のための出撃準備を進めていた。


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