艦これ日記 15春イベント その3

艦隊司令は速攻を選んだ。間宮だけでなく、不知火たちも驚いたくらいだ。ジャム島の兵站施設工事が十分に進まないうちに、連合艦隊が、ジャム島へ進出してきていた。艦隊司令が決戦戦力と賭ける、新編成の艦隊だ。トラックのときよりも、その戦力は一段上がっている。なにより、長門と陸奥姉の二人がいる。この二人を主戦力として、リランカへの一挙進出を図る。

マムは、新しい娘ができたみたい、と大喜びで、特に、陸奥姉の姉だと紹介された、長門のことは、大変気に入ったらしい。長門の方といえば、マムの言ってることが半分も判らず、どう答えたらよいかわからない風で、それがいつになく、かわいらしくさえ見える。陸奥はそれが面白いらしい。マムと顔を見合わせて、笑っている。そして陸奥は、笑い顔の狭間に、少しの案じ顔を見せる。

馴染深い、摩耶と鳥海の変わりっぷりにも、マムは驚き、また喜んでいるらしい。摩耶と言えば、第二次改装の新しい艤装の服を自慢したくてたまらないようで、どうよ?新しい服、いいだろ?似合ってるだろ?と対空機銃のようにまくしたてている。マムの方もマムの言葉で褒め称えているようだった。互いに言葉が通じてるとは思えないけれど、スカートのところの紐なんか、二人がともにお気に入りになったらしい。

摩耶と鳥海が、かつてここより出撃したときよりも、リランカの敵の態勢は強化されている。そもそも彼らのプラントは、かつてのように不全のままではないだろう。それどころか、敵はカレー洋の北岸近くにもプラントを置いている兆候があるという。それでも、あるいはだからこその、速攻だと、大淀はそう言った。

「今は、連合艦隊システムを使えるし」

しかし、今のようなときでもなければ使えない。鎮守府部隊の活動は、もはや経済と切り離せない。鎮守府部隊が航路帯の安全を確保しなければ、資源輸送もままならない。威力があるからといって、複数の艦隊を、航路帯以外に振り向けることなどできない。

航路帯の末端にあるジャム島ならば、海軍の輸送艦だけでなく、民間の輸送船を使って、物資を輸送することもできる。問題は輸送力ではなく、輸送してきた部品や消耗品、弾薬などを敵から安全に保管する場所が無いことだ。昼夜を問わない工事が進んでいたけれど、所要に追いついていない。

けれど、連合艦隊には出撃命令が下された。パラオ、トラックと、編成を、運用を、洗練させてきた、もっとも打撃力を期待出来る編成だ。これまで加賀が位置してきた総旗艦の位置には、あきつ丸がつく。それは彼女が正規空母にくらべて脆弱だからだ。空母としての主力は、あくまで加賀だ。ただ、加賀一人では敵の攻撃ユニット群を圧倒できない。だから、あきつ丸を必要としてる。あきつ丸の攻撃ユニット群管制能力は限られている。海軍型の攻撃ユニットは、制空型しか搭載できない。それで充分だった。必要なのは制空型攻撃ユニットだ。しかも、あきつ丸には、制限ゆえの特色がある。陸軍のシステムを持つ、あきつ丸は、他の空母や軽空母の管制システムとの相互干渉が小さい。加賀とごく近接していても、互いに干渉しない。だから艦隊陣形をコンパクトにまとめ、砲戦向けの陣形を維持しやすい。

そう。連合艦隊の第一の切り札が、砲戦、長門と陸奥の二人だ。長門と陸奥の二人は、砲撃観測専用のユニットを搭載している。これに砲撃結果を観測させ、長門と陸奥はそのフィードバックを受ける。砲撃に、かなりの精度改善を見込めるが、砲撃観測ユニットは敵の妨害に弱い。加賀と、あきつ丸の制空型攻撃ユニットを駆逐できるならば、有効に砲撃結果を観測し、母艦にフィードバックすることができる。さらに利根と筑摩が、攻撃ユニットを搭載して、援護にあたる。

この第一艦隊に援護されながら、第二艦隊が前衛で近接戦闘を行う。いつもの雪風に加えて、第二次改修を受けたばかりの初霜が編成に入っている。援護にあたるのは摩耶と鳥海、木曾と大淀だ。初霜、摩耶、大淀の三人は管制防空システムを搭載している。加賀とあきつ丸の制空型攻撃ユニットのスクリーンを突破してきた敵攻撃ユニットを徹底して迎撃するためだ。さらに木曾は、水中型の攻撃ユニットを搭載している。これは自律して水中を進行し、敵艦隊へ水中弾攻撃を行う。

いずれも、出来るだけ早期に敵の戦闘力を削いで、近接戦闘に移るためのものだ。雪風、初霜、鳥海、それに木曾が突撃をする。雪風はトラックで見せたように、近接攻撃が上手い。初霜も同じだ。二人が狩りきれなくても、鳥海と木曾が火力で叩く。

「不肖、このあきつ丸が、攻略部隊の総隊長を拝命いたしました」

出撃の時、あきつ丸は皆へと言った。

「これが、自分の能力のみによったとは思っておりません。熟練の諸君から見れば、歯がゆいところもあるかもしれません。しかし、このあきつ丸。任務に掛ける思いは、決して諸君に負けることは無いだろうと、自負しております。任務に身命を賭する覚悟であります」

皆のかすかなざわめきの中に、あきつ丸は続ける。艦隊司令閣下の厳命を犯すつもりはありません、と。代わりに、任務を達成するまで、何度でも、攻撃に赴くつもりでおります、と。そして、誰一人、ここに見捨てて残してゆこうとも思いません。

「戦友諸君!いざ往かん!奴らを、倒して、リランカを、目指す」

一瞬の静寂が満ちる。けれど、次の刹那の声が静寂を振り払う。

「了解したっ!リランカ攻略部隊、長門、抜錨!」

以前、力場システムの制御が今ほどうまくいっていなかった頃、抜錨という命令には意味があったのだと、明石に聞いたことがある。アンカーを地に打って、力場システムを発動、浮揚してから、アンカーを抜く。それを抜錨と言った。今ではアンカーを打たずとも、力場システムを発動しても、何の問題もない。けれど今も使われている。抜錨。それは、待機出力の力場システムを、運用出力へと転移させる宣言でもある。力場システム間には斥力が発生してしまうため、どの艦が力場を活性化させ、どの艦が待機中なのか、周知しなければならないからだ。

長門は進む。力場に長い黒髪を揺らしながら、桟橋から海へと踏み出す。落ちることもなく、海原を浮き、しかし確かに歩んで進む。続いて、陸奥が踏み出す。

「リランカ攻略部隊、戦艦陸奥。抜錨」

続いて加賀は一航戦を名乗り、抜錨を宣言する。利根が、筑摩が、つづいて第二艦隊の雪風が、摩耶と鳥海が、初霜が、木曽が、抜錨を宣言し、海へと踏み出す。最後に、大淀が抜錨を宣言した。あきつ丸へと向き直る。

「連合艦隊システム、全て異常ありません。リランカ攻略部隊、出撃準備全てよし」

こんどの静寂は、先よりも長かった。けれど、皆は待つ。連合艦隊システムによって、これまでになかったほどの多くの艦むすがひとところに戦闘態勢でいられる。警戒陣形配置に自ら展開して、その中央、旗艦位置を空けたまま、皆は待つ。あきつ丸は言った。

「隊長に続け。リランカ攻略部隊、出ー撃!前へー!」

彼女は、海へと踏み出す。海の上でも、歩調は陸軍風だ。それは生真面目な、あきつ丸の、彼女の歩みのままだ。

「おきをつけて!」

不知火は手を振る。それはもはや、彼女に重ねて言うまでもないことだけれど。見送るものにも、願う言葉はある。それは電や、陽炎や、黒潮や、天龍から、若葉からも、それぞれの言葉になって送られる。








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