艦これ日記 15春イベント その6

「あんたに迷惑はかけないよ。ま、見てておくれでないかい」

隼鷹はいつもの調子で笑う。加賀もいつも通り、そう、とだけ答える。先のトラックでの戦いの時には、睨みあうようなことをした隼鷹と、加賀だったけれど、今ではそこまではしないらしい。隼鷹たちは、わずかの休養と、補給点検を終えたら、すぐにジャム島から出撃してしまう。彼女らの任務は、リランカではなく、カレー洋北方海域だ。

ジャム島は喧噪に包まれている。港は海軍と、鎮守府部隊のために整備され、その海軍軍港には、本土からやってきた輸送艦だけでなく、建設資材を運んできた民間輸送船、それ自体本土からはるばる運ばれてきたクレーン船でひしめいている。軍港からすこし内陸に入ったところでも工事が進められている。永久陣地工事だ。ただ、それは、日に日に高まる必要を満たすほどではない。攻撃にさらされる前に、出来るだけ燃料弾薬を備蓄したいのだが、その需要に追い付かない。

リランカへの打通には、成功していた。けれど、リランカ島の敵プラントを撃破できたわけではなかった。敵プラントそれ自体が、人格型深海棲艦と結合していた。偵察資料を見て、さすがの明石も絶句し、けれど艦隊司令はいつも通り、人の悪い笑みを浮かべていた。深海棲艦からすれば、正しい作戦だ、と彼は言い、それから予測できない事ではなかっただろう、とも言った。

「敵はすでに、AL方面に上陸型の深海棲艦を送り込んでいる。彼らの海洋支配が充実すれば、いずれ沿岸だけにとどまらず、陸域を本格的に利用し始めるのは間違いない」

艦隊司令が再び命じたのは、速攻だった。彼は言った。深海棲艦の作戦は正しい、と。可能な限り高い抵抗力を持つ拠点を配置し、これに我が方の戦力を吸引しつつ、消耗を強いる。同時に、我が方の戦力に打撃を与える逆襲を準備する、と。

「よって我々はまず、この拠点の撃破をはかる。ただし、我が方も、敵のこの逆襲に備える予備の保持も行わなければならない」

艦隊司令の示したのは、主力の総投入だった。リランカには空母機動部隊主幹の連合艦隊が送られる。赤城、蒼龍、翔鶴、瑞鶴の航空戦隊に、扶桑、山城が随伴する。これに金剛姉と霧島、さらに足柄、神通、第二次改装を受けた二隻の駆逐艦、初春と潮の第二艦隊が随伴する。

かつて行ったリランカ空襲を再現するわけではない。狙いはむしろ、金剛姉と霧島を先頭にした突撃、サブ島沖での戦闘の展開だ。あの時と同じように、金剛姉と霧島で突入し、近接戦闘をもって、人格型、かつ拠点と合一した深海棲艦を叩く。サブ島の時とは、人員がかなり入れ替わっている。同じなのは金剛姉と霧島だけだ。あの時同行した妙高と羽黒、それに島風と綾波は、今回は同行しない。

今回は、あの時より、状況としてはずっと楽なはずだった。航空偵察支援があり、航空支援があり、突入直前に扶桑山城姉妹の砲撃支援もある。おとなしい潮は、それでも不安げに見える。霊感少女、というよりほとんど巫女のノリの初春は、そんな潮を励ましている。

「おぬしとて、やれる限りのことはしてきたのであろう?ならばあとはそれを示すのみ。天佑に身を委ねるがよかろうに」

はい、と応じながら、それでも潮は肩を落として見せる。第二次改装を受けても、潮という子はそういう子なのだ。主力は彼女らで、隼鷹たちは、主力の行動援護が任務だ。どちらかと言えば、ディフェンス、ジャム島を守るために行われる。

カレー洋北部には、敵の前進配置型のプラントが、ある程度の数、あるらしいことがわかっている。自力での資源生産よりも、外部からの輸送によって増強することを意図したタイプ、パラオやトラックで発見されたものに近いだろう、と明石は言う。もちろん推定ですが、と付け加えて。うなずいて艦隊司令は言う。

「この敵プラントの任務は、我が方の戦力を拘束し、無視すれば我が方の出撃拠点を攻撃する、抵抗拠点だ。我が方を妨害し、敵による反撃を有利に進ませるためのものだ。したがって、これを破壊し、ジャム島と、今後の作戦で伸長される後方連絡線の安全を確保しなければならない」

とはいえ、ジャム島の施設建設は遅れており、特に燃料弾薬の防護備蓄施設の建設は遅れていた。防護備蓄施設が遅れているために、ジャム島には十分な燃料と弾薬が無い。

「出撃部隊は、鎮守府を発進後、ジャム島を経由して移動消耗を補給後、再出撃を取る形とする」

間宮と大淀、二人の高級参謀が息をつく。他に方法は無い。困難というより、その運用では、艦隊全体の運用柔軟性が悪化する。南西海域を二個艦隊が往復しながら、掃討も護衛も行えない。なにより、二個艦隊がジャム島と鎮守府を往復している時に、それでもジャム島には一個艦隊が留まる。ジャム島自体を守るための決戦艦隊だ。あきつ丸以下、先のカレー洋打通作戦の主力組だ。彼女らも、即応体制を保ったまま、ジャム島に待機する。今、ジャム島にある燃料弾薬は、彼女らのためにある。敵の対応行動のうち、我が方に最も苦痛となるのが、ジャム島強襲だからだ。ジャム島の機能を失えば、すべてが瓦解する。

しかも三個艦隊が事実上ジャム島から動けない。鎮守府部隊で運用可能な残り一個艦隊もまた、鎮守府とジャム島との輸送護衛にあたる。不知火たちの艦隊だ。不知火たちは、海軍の輸送艦、補給艦を護衛している。民間船舶に比べて足が速いけれど、それでも何割も変わりはしない。それでも、ネズミ輸送に比べれば何倍もマシであるのだけれど。

「では、頼むぞ。間宮、大淀」

しかも本土で掌握しなければならないことが多すぎて、艦隊司令は艦隊指揮に専念もできないでいる。二人の高級参謀をジャム島に派遣して、施設建設と、戦闘の指導とを行わせねばならない。

「お前もだ、不知火。輸送護衛任務に復帰せよ」

わかりました、と、不知火も応じる。秘書官業務の多くは、鎮守府内業務システムに移管されてはいるのだけれど、秘書艦の役職が消滅したわけではない。というか、ひょっとしたら不知火の方が、秘書艦の役職にこだわってるのかもしれない。

「・・・・・・」

「どうした」

艦隊司令は笑う。彼は、自信ありげに見えた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?