艦これ日記 15春イベント その2

「Dear my girls」

ホテルは以前の通りで、地上階とその上は海軍が、さらに上の階は鎮守府部隊が借り切っている。ただ、マムはすこし年を取って、そして少し痩せていた。心配げな電を脇へと抱き寄せ、言い聞かせるようにマムは言う。

「ダイジョウブネ」と。いつのまにかマムも、金剛姉のようにまじりあった言葉で話ができるようになった。マムの言う事で、判らないことはほとんどなくなってしまったし、マムの方も不知火たちの言うことがわからない、ということは無いようだった。彼女は言う。皆が来てくれれば元気になるのよ、と。

大淀たちの方は、すでにジャム島を出撃して、カレー洋で捜索撃滅戦を行っていた。というより、大淀たちがジャム島を出撃している間に到着するようにしていた。力場システム間の斥力が発生するのを避けるためだ。コンテナ工廠はすでに港桟橋へと降ろされている。手間がかかるのはこれからだ。

この後、不知火たちは、しばらくここに留まる。大淀たちは、艤装損傷の度合いに関わらず、鎮守府へと後退してしまう。また役目を終えた輸送艦は、龍田たちの護衛部隊が来るのを待って、後退する。

やがて、通信機にディジタル符号が入電する。損傷艦あり。しかし轟沈ではない。大破だ。誰であっても、大破したというのは、気遣わしいのだけれど。

「で、あんたなの?」

陽炎は腰に手をあて、何か不満げに言う。言われた島風は、頬を膨らませる。

「ちがうもん」

「何が違うのよ」

あとはいつも通りの掛け合い漫才のようなものだ。損傷しているのは、島風だけではない。実際のところ、大破していたのは綾波だったり、雪風だったりしていたし、その他にも川内も中破格の損傷をしていた。軽装の水雷艦隊が、大巡格の敵と連戦すれば、そうなることも少なくは無い。彼女らをジャム港へ収容し、そして艤装室へと迎え入れる。

「でも、アレがいたから」

川内は艤装の服の破れ目を押さえながら、ソファに座る。誰も艤装を解除して休息しようとはしない。綾波も、雪風もだ。すぐに天龍が気付いた。

「人格型か」

「うん、那珂が目の仇にしてるアレ」

皆の緊張が解けないのも、良くわかる。人格型の深海棲艦は、特に、特別に、言いようのない嫌悪感を感じる。不知火自身は見たことは無いけれど、画像ですらそう思う。実際に相対した皆は、さらに強く感じているだろう。天龍は息をつき、それから明るく言う。

「那珂もうるせえからなあ」

「天龍だってうるさいでしょ」

「お前に言われるほどじゃない」

川内と天龍の声が、共に低くなる。苛立たしげに川内は顔を上げる。

「あたしの何がうるさいのよ」

「ふたりとも、喧嘩はやめてほしいのです。おねがいなのです」

電にそう言われて、言い争いを続ける二人でもない。互いに居心地悪そうに互いに目を逸らす。電はぎゅっと指を握りしめて皆を見る。

「とにかく、みんな、休むのです」

「あたしは、鎮守府に帰った方が良いと思う。もちろん、皆が大丈夫なら、だけど」

川内が言う。電を見返し、それから、続ける。

「アレを、取り逃がしちゃったから」

「以前の時には、あの型の人格型は、通報誘導にあたっていたようだから、いずれ、敵は集まってくるでしょうね」

大淀が言う。はじめて軽巡格の人格型深海棲艦が現れた時のことだ。トラック沖で、前衛となって、他の深海棲艦艦隊やプラントへ、情報を伝達していた、と考えられていた。このカレー洋に現れた、ということは、背後に深海棲艦の部隊が移動してきているのかもしれない。

「綾波さん、大丈夫?」

綾波は、ずっと肩を落とし俯いて、艤装の服の破れ目を押さえて、立ったままだったけれど、顔を上げて大淀を見返す。

「これくらい、大丈夫です」

綾波は強くうなずき返す。大淀は言う。艦隊は、鎮守府に帰投します、と。天龍も応じる。了解した、気をつけて帰ってくれ、と。

「綾波ちゃんたち、ちょっと待つのです」

言って電は、ぱたぱたとロッカールームへと駆けてゆく。なにやらがさごそと音がし始めて、やっと気づいた。陽炎も、同じらしい。陽炎もロッカールームへと駆けてゆく。二人で大丈夫かな、と思った瞬間、やっぱりどんがらがっしゃんと、ぶちまける音がする。あーあー、と言う黒潮と、不知火もロッカールームへ向かう。やっぱり、電と陽炎は、段ボールの中身をぶちまけていた。中身はスモックだ。艤装の服が破れてしまっても、艤装を身に着けたまま、前から着られるようなものだ。

そうして、皆は、おそろいのスモックを着て、鎮守府へと帰って行った。

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