艦これ日記 15春イベント その9
鎮守府部隊の作戦行動、十一号行動計画は進んでいた。リランカへの攻撃に並んで、北部カレー洋掃討作戦も進んでいる。北部カレー洋、ベーグル湾と呼ばれる海域にも、敵プラントが据えられ、敵の深海棲艦の活動が行われていた。ただ、敵のプラントは予想していたより少数で、この掃討にあたる隼鷹や飛鷹の負担は軽くなっていた。それでも、まるで無傷、というわけにはゆかない。
北部カレー洋ベーグル湾そのものを安全化することは、十一号行動計画の目標とはされていない。十一号行動計画の目標は、あくまでカレー洋打通、カレー洋南部のカレー亜大陸南部を打通する。北部カレー洋ベーグル湾を掃討するのは、鎮守府部隊の策源地であるジャム島を守るためだ。
その戦場、北部カレー洋ベーグル湾にも、敵の人格型深海棲艦の姿はあった。先に川内たちの報じたものと、同じであるらしかった。さらに依然の、トラックに姿を見せたものと、同様の働きをしているようでもある。つまり前衛での対鎮守府部隊接触と、それを後方へ通報する働きとを。比叡たちは、その敵を突破し、思ったよりも海岸近くに据えられた、敵プラントを発見していた。
「よくやった」
艦隊司令はいつものように言う。このまま、敵を圧倒しろ、と。敵の集団としての戦力は、予想したほど強固とは言えない、と。ならばこそ、現下の優位を利用し、我が方に有利な状況を構築する、と。比叡たちもうなずき返す。比叡だけでなく、妙高と羽黒がいる。それを隼鷹と木曾が空中と水中の攻撃ユニットで援護する。旗艦役は夕張が担っている。皆が自信ありげだった。羽黒はおとなしく、比叡には気合が入っているけれど、それでも同じだ。敵を撃破できる、という自負を抱いて見える。
「・・・・・・」
戦果判定会議は終了し、皆はほっとした顔でそれぞれに立ち上がり、会議室より退いてゆく。ただ同席していた大淀だけは立ち上がらず、皆が退出するのを待っていた。彼女は艦隊司令へと向き直る。
「この領域には、予想ほどの深海棲艦が居ない、と感じます」
「俺もだ」
軽くそう答える艦隊司令に、大淀は、渋面を作って見せる。気付いていたなら、おっしゃってください、と。艦隊司令は笑って応じる。だが、理由がわからない、と。我が部隊の攻撃が、敵の予想外で、敵の準備が整っていなかった、という事なら、敵はこれまでの傾向からすれば、設置したプラントを防御するために戦力を流し込んでくるだろう、と。しかし、準備不足は、たんに兵力移動が間に合わなかったのか、兵力生産が間に合わなかったのか、我々にはわからない、とも。
「その違いは大きい。読み違えると、我々自身を大きな危機に陥れる」
もっとも我々の行動も、軍事戦略的合理性から外れた行動ではある。言ってみれば、戦略的奇襲でもある、そう彼は続ける。大淀は問う。
「では、いかがされますか?」
「手元に予備戦力を保持したまま、偵察艦隊を進出させる。時間が無い。敵がショックから立ち直る前に、カレー洋を打通し、欧州との連絡をつける」
「リランカの敵拠点は、相当に強力です。現在われわれが攻撃しているコロンボの人格型とは別に、トリンコマリーにも人格型が存在しています」
「それを排除している余裕は無い」
艦隊司令は続ける。敵はこれまで、原則的行動として、プラント死守を貫いてきた、と。それは、プラント周囲に十分な戦力を展開させ、周辺領域を完全に彼らのものとしようとしてきた、と。
「だが、カレー洋に展開している彼らの戦力は、彼らのこれまでの行動に比べると少ない。これは、何故だ?」
「・・・・・・」
大淀も黙り込む。二人は、大判ディスプレイのカレー洋の敵の想定展開図を見ていた。やがて艦隊司令は言う。
「単に、リランカのプラントの抜本的な再構築に手間取っていただけなのかもしれん。だが憶測はしない。今あることがすべてだ。今、この機会を利用して、カレー洋を突破する」
艦隊司令は、手元のタブレットを操作し、大判ディスプレイの図を切り替える。そこには、かつてカスガダマを攻撃した時には、記載されていなかった敵拠点疑い情報がある。
それは、最初のリランカ攻略でも、そののちのカスガダマ攻略の時にも、存在していなかった拠点の情報だった。その後も長く、鎮守府部隊では把握しないままだった。把握できたのは、U-511、彼女が欧州から自力で回航してきたからだ。U-511が、彼女だけがカレー亜大陸突端海域で、敵の活発な活動を認知し、それを報告していた。欧州製造の彼女の艤装は、鎮守府部隊工廠で改装を受け、今では新しい識別名が与えられている。呂-500だ。
「まずは、リランカの最大の拠点を撃破し、この方面の圧力を低下させる。続いて、呂-500に先導させ、この不明拠点を撃破する」
「はい。ろーちゃん頑張るって、はい!」
後刻、呼び出しを受けた呂-500は達者になった日本語で、力強くそう肯いた。
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リランカの拠点のひとつを放置して、西部カレー洋に突入、とか怖すぎる作戦でなんじゃそれ、って感じ。
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