艦これ日記 15春イベント その8


その姿を見れば、やはり、言いようのない嫌悪感が募る。人の形に良く似ているが、しかし必ずどこかしら異形だ。その姿には角があり、両手は人の形に似ているけれど、鋭いかぎづめがかぶさっている。艤装に似たものを負うようにして、砂浜にしんなりと座しており、その海浜のわずか沖合には、半球状の護衛体が波に洗われている。背後の街はすでに廃墟だ。リランカ陸軍による反撃の一切を、あの異形の姿はすべてはねつけ、押し返していた。

敵は、深海棲艦は、艦むすでなければ、倒せない。その姿へ、攻撃ユニットたちが、翼を傾け舞い下りてゆく。赤城と蒼龍、二人に加えて、翔鶴と瑞鶴の機だ。翔鶴と瑞鶴は、大規模作戦に初めて参加する。だが、大規模作戦の前衛に立って遜色ないくらいの戦闘経験は積んでいる。その力が、今、示されている。敵護衛体の展開する迎撃ユニットを突破し、彼女たちの攻撃が叩きつける。吹き上がる水柱と炎に、瑞鶴が喜び跳ねる。

「見たか!五航戦の本当の力っ!」

「瑞鶴!直援機をまわして!」

翔鶴の警句に続くように、敵の攻撃ユニットが低く突っ込んでくる。水面すれすれを飛ぶそれらへ向けて、瑞鶴は腕を振るう。応えて、すでに空中にある瑞鶴制空ユニットが飛びかかってゆく。旋回する翼と、放つ銃火がきらりきらりと青空のなかにひらめく。灰色の煙が、いくつも宙に浮かび、あるいは小さな水柱がいくつも立つ。けれど、艦隊の歩みは止まらない。扶桑と山城は、巨大な艤装の砲塔を旋回させ、砲身を振り上げる。

「山城、いい?砲戦はじめ!主砲、副砲、撃てっ!」

砲炎を突き破って、砲弾が飛び去る。水柱が吹き上がり、護衛体の姿を覆い隠す。海浜で砂煙も吹き上がる。しかしそれを、衝撃波が輪のように吹き払う。内側から、砲撃が放たれる。それは青空を、弧を描いて、艦隊へと飛びくる。

「!」

これ以上、どう狙い澄ませるのかという精度で、艦むすに叩きつける。その姿は、林立する水柱の中に覆い隠される。

「やだ・・・・・・」

狙い打たれた山城の声も、ログに残っている。それでも反撃し、砲撃を継続したことも。山城は、敵の護衛体の射出した、攻撃ユニットも、その身に引きつけていた。それは戦艦に求められる役割でもある。その間にも空母たちは、攻撃ユニット群を再編成し、再び弓型の射出艤装で、射る。低く飛びながら、矢型の集積体は飛び散るようにして、元の攻撃ユニットの姿をとりもどし、そして間近の敵に攻撃弾を叩きつける。しかし本当の攻撃主隊は空母ではない。

「Follow me! Here we GO!」

金剛姉を先頭に、切りこむように舵を切る。それは、鎮守府部隊のかつての戦術を大規模に再現したものだった。優勢な空母部隊によって、敵の随伴艦を撃破し、つづいて主力艦を攻撃させる。随伴艦を失って、もはや守るものの無い、裸の敵中枢を叩く。

「Fire!」

金剛姉が振るう腕とともに、激しく砲撃が放たれる。つづいて霧島が、さらに足柄が砲撃を放つ。短い間合いを飛びぬけ、砲弾の群れは、敵の、あの人格型を前に弾ける。白い焼夷弾片を叩きつける。それは、北方での上陸型と遭遇した時点から見出された戦術だ。陸上で展開される防護フィールドは、地表で反跳して、特有の「むら」が現れる。防御効果の弱い、そのむらを通過させるためには、面攻撃を行う方が良い。本来は対空榴弾である三式弾が使われるのは、そのためだ。ただし、三式弾は大口径砲からしか撃てない。

「狙って!」

軽巡の神通が命じる。神通自身、つづく潮の艤装に取り付けられたランチャーが機敏に動く。その後部から炎をひらめかせ、弾体が炎を引いて飛び出してゆく。青空へと舞いあがり、そして不意にそ炎も、引きずる白煙も途切れさせる。ロケット弾はそれでも飛び続け、やがて海浜の、人格型深海棲艦へと舞い下りてゆく。すでに何発もの三式弾の面制圧を受けて、海浜にたなびく砂塵を、さらに吹きあがらせる。艦隊司令は、その動画をじっと見つめていた。

「なかなか強靭だな」

すこしして、艦隊司令は呟くように言った。戦果判定会議に同席していた皆は、ほっと息をついた。その皆を見回し、艦隊司令は続ける。よくやった、と。

「我々の今回の作戦目的は、カレー洋打通だ。そのためには、リランカの敵拠点を少なくとも無力化し、東部カレー洋を通行可能にするだけでなく、我々の策源地のジャム島を守るものでなければならない。今の速攻を維持する」

そして可能ならば、と彼は続ける。

「カレー洋をさらに西進し、打通路の安全確保のみならず、西部カレー洋の敵に打撃を与え、彼らの聖域化を阻む」

しかし、ロケット弾は思ったほど効果が無かったな、そう艦隊司令は明石を見る。明石の方は、実用してみないと、判らないものですねえ、などとしみじみとうなずいている。新型のロケット砲は、欧州系技術、U-511の記憶特性から作られた艤装品だ。

「止むをえまい。効果が低く、運用艦に危険が大きいならば、搭載を止めるが、どうだ、神通」

卓で、神通は、困ったように俯き、ちいさく、はい、と応じる。艦隊司令はうなずき返し、了解した、と言う。神通はほっとした様子で、胸を押さえる。艦隊司令は続ける。三式弾による面攻撃が十分な効果を発揮しているなら、艦隊はむしろ前衛突破に注力する、と。大淀が応じる。

「敵の抵抗は、思ったよりも弱いようです」

「敵の準備構築前に攻撃を開始したからさ。この方面で我が方が積極的な攻撃を行うのは、彼らにとっても予想外だったろう。だが、カレー洋は彼らにとっても重要な海域であるはずだ。抵抗は必ず激化する」

攻撃を維持し、強化を続ける。そう艦隊司令は言った。

「今回も、奴らとの競争だ。敵の二つの大拠点を通過する。生半可なことではない。だが、出来ると確信している。よろしく頼む」

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