艦これ日記 15春イベント その5

偵察型ユニットC6が飛ぶ。青空を高く、はるかリランカへ向けて。同じく、飛びゆく偵察ユニットを見たのは、ずいぶん以前に思える。以前も、こうして、カレー洋を中央突破した。今、その時のことを知っているのは、三人だけだ。発案した鳥海と、摩耶、それに陸奥姉。今、偵察ユニットを放った加賀は、リランカの事を知らない。あれほど苦労して、リランカ島の敵を、深海棲艦を排除したのに、それが再び、奪い取られたその驚きと、くやしさも。

この連合艦隊の出撃も、リランカの奪還を目的にはしていない。敵の強化は進み、今の鎮守府部隊では、リランカの敵を撃破したとしても、リランカを守る力は無い。今は、ただ、カレー洋を通り抜ける、そのために戦っている。鎮守府部隊も、人類も、そこまで追い詰められている。そして、追いつめられているからこそ、今、カレー洋を打通しなければならない。

『敵艦探知』

加賀の声が、艦隊通信系で届く。判っている。敵は、リランカに、人格型深海棲艦を置いている。かつては、それを見ることが驚きであったけれど、今では彼らが重視する海域では頻繁に目にする。強力な戦闘力を誇る。それ以上に、見ただけで強い、強い嫌悪感を抱かせる。その見かけにも、放ってくるその言葉にも。

『前進このまま。攻略部隊は戦闘準備』

あきつ丸の命じる声が、艦隊通信系で届く。すぐに加賀の応答がひびく。

『了解。これより加賀は、連合艦隊の対空戦闘を指揮する。航空隊、射出、はじめ』

青空を切り裂いて、矢型の攻撃ユニット集積体が飛ぶ。続いて、あきつ丸の制空型ユニットが、さらに利根と筑摩のタイプE17が、艦隊の上空を飛びぬけてゆく。雪風の声が響く。

「艦隊、防空戦闘、ようい!おねがいしますっ!」

「まかせとけ!この摩耶さまの本当の力、見せてやる」

ノリノリで摩耶が応じ、そして波を蹴って滑るように進み出る。連合艦隊前衛、第二艦隊の戦いはこれからだ。初霜は左翼、大淀は右翼の防空配置につく。三人が、いずれも管制防空機能を備えている。摩耶は艤装に、初霜と大淀は、管制防空砲を搭載して。その三人がかりの防空網で、突破してきた敵を迎撃する。青空に、ひとすじ、ふたすじと、落ちてゆく煙が見える。空戦を行っている攻撃ユニットだ。優勢に戦っているようだ。前に立つ摩耶は、腕組みして敵を待っている。力場に任せて浮いて進むその姿は、本当に余裕ありげだ。防空戦は受け身の戦いだ。けれど、向かってくる敵を、とりあえずぶっ飛ばすのは、摩耶の性に合ってるらしい。その見つめる青空に、きらり、きらり、と何かが光を弾く。敵機だ。

「来たぞ!防空戦闘用意!」

摩耶は腕をほどき、身構える。力場に任せて、進むこともやめて、波を蹴って駆ける。けれど、摩耶は声を上げた。

「左翼!」

点々ときらめく敵機が、青空を大きくめぐる。滑るように左手へ、艦隊の左翼へと回り込んでゆく。そちらにいる初霜が応じた。

「私が、守ります!」

艦隊陣形は崩せない、防空範囲も変えられない。敵機が左翼に回り込むなら、左翼の初霜に任せるしかない。彼女は両手の武装を振り上げ、構える。

「見てなさいっ」

彼女は砲撃を放つ。立て続けに、リズミカルに、青空へ向けて、次々に砲弾を放つ。水平線よりやや高く、不意にぽつりと、小さく丸い煙が浮かぶ。対空弾の炸裂だ。一つが現れた直後から、空に立て続けに炸裂の煙が並び現れる。初霜の管制防空砲火だ。初霜は撃ち続ける。その砲声に重なって、遠雷のような炸裂音が響く。一つ、二つと、煙の尾筋を引いて、敵機が落ちてゆくのが見える。その数は増えてゆく。初霜が叫ぶ。

「敵機、本隊へ向かいます!」

水面すれすれを、丸い異形のものが飛ぶ。敵の新型の攻撃ユニットだ。後方の第一艦隊へと向かってゆく。その第一艦隊から、どん、と野太い砲声が巻き起こる。長門だ。主砲の防空砲弾で敵機を撃つ。間近にはじける炸裂の砲煙を、敵機は次々と突き抜ける。敵機は攻撃弾を放った。次々と水柱が巻き起こる。長門の姿も、ひととき見えなくなる。

「!」

衝撃波が広がる。それは、力場に大きな衝撃を与えていた。おそらく、中の長門にも。長門の姿は現れない。水柱の列が、ふたたび水面に吸い戻されてゆく。

「・・・・・・っ」

長門は、損傷していた。けれど、水面に膝をついたままではいなかった。彼女は顔を上げる。膝に力を込めて、立ち上がる。長門の装甲は、伊達ではない、と言って。損傷艦は長門だけではない。筑摩もまた損傷していた。

「筑摩、まだ行けます!」

敵は目前だ。もう撤退などできはしない。撃ち勝つか、それとも敵に追撃を断念させるほど打撃を与えるかしかない。

「突撃する。艦隊、この長門に続け!」

損傷した艤装から、長門はそれでも、観測型ユニットF1を射出する。ふわりと舞いあがるそれを見やるのは、長門のみではない。陸奥もまた、敵へと振り向く。

「観測機射出。砲戦ようい!」 

彼女もまた腕を振るい、観測型ユニットに発進を命じる。加速し、上昇してゆくそれと、水平線の敵の姿を見やり、それから陸奥は再び長門を見る。

「やれる?」

「あたりまえだ。この長門の力、見ていてもらおう」

長門は、陸奥を見返しもしない。その瞳は前の敵を見ている。それでも陸奥は、うん、とうなずき返す。陸奥は言う。戦艦戦隊、戦闘に支障なし。これより、攻撃を開始する、と。

「全砲門開け。撃てっ」

砲炎がほとばしり、衝撃波が海面をくぼませ、吹き払う。力場をまとう砲弾が青空を飛び去ってゆく。それはやがて見えなくなり、じりじりするような一秒一秒を経て、不意に、水柱の列となって、敵に届いたことを知らせる。陸奥は、長門は、次々に砲撃を放つ。やがて、敵から爆炎が吹き上がる。轟沈だ。だが敵も諦めなどしない。波を蹴って、随伴艦が突撃してくる。

「そこで見て居れ筑摩」

二本に束ねた髪をなびかせ、利根が踏み出す。我輩もこないだの借りを返さねばならぬでな、と。彼女の艤装が、アームで持ちあがる。集中装備された砲塔が、彼女の肩越しに敵を示す。敵が先に撃った。しかし、利根の力場がはねつけ、はじき飛ばす。

「いざ、参る!」

利根も斉発を放つ。敵弾と入れ違いに、敵に叩きつける。波を蹴って駆ける。二つに結った髪がうねる。その艦もらった!腕を振るって指し示す敵に、砲塔がくるりとめぐり、砲撃を叩きつける。さらに新しい砲撃が、利根の砲撃に並んで、敵へと叩きつける。

「!」

砲撃を放った筑摩は、波を踏んでゆっくりと立ち上がる。

「利根姉さんには、無様な姿は、見せられませんから」

「まだまだっ!筑摩には負けぬぞ!」

楽しげにすら、利根は駆ける。二人の大巡は、互いを励まし合うように、砲撃を放つ。突撃してくる敵の随伴艦を、ふたりして吹き飛ばし、仕留める。

「第二艦隊、突撃開始!雪風に続いてください!」

その砲声の中で、雪風が叫ぶ。鎮守府部隊の勝つ方策は、その一つしかない。加賀とあきつ丸、長門と陸奥、利根と筑摩の奮戦も、そのためにある。詰め寄って、接近戦で、始末する。

敵は、強力な、人格型深海棲艦。これまでの敵とは、格が違う。雪風が、波を蹴って駆けはじめる。鳥海も走る。ふたたび、リランカへ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?