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写真で見ていたあの景色

2018年3月、わたしは3年勤めた病院を辞めた。

職場や臨床検査技師という仕事が嫌だったわけではない。

「一人暮らしがしたい」という理由だけで、大学卒業後に地元の愛知を離れ就職した神戸の病院は、いわゆる小規模病院だった。

患者さんとお話しする機会も臨床検査技師にしては多く、小規模病院ならではの地域に根ざした医療を提供するその働き方は私に合っていたし、職場の先輩は優し過ぎるくらいだったし、後輩も明るくて良い子だった。同い年の同僚とは、私の家で夜な夜な一緒に韓ドラを見たりした。給料がもうちょっと上がればなぁなんて思ったりもしたけれど、神戸での暮らしには満足していた。

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でも、わたしはそんな職場を辞めた。

どうしてもウユニ塩湖に行きたくなってしまったから。


ウユニ塩湖の存在を知ったのはいつだっただろう。社会人になってからSNSで写真を見たのだと思う。

ウユニ塩湖のあるボリビアに行くなら仕事を辞めないと、と思い切って仕事を辞めた。どうせ仕事を辞めていくならと、ボリビア以外も行きたいところは全部行くことにした。


中部国際空港から始まった私の世界一周ひとり旅。

私のチケットを見て、カウンターのお姉さんが何か言ってくれた。「これから色んな国に行くんですね!」だったか「楽しんでくださいね」だったか、正直覚えていない。
そのくらい緊張していたし、これから出会う未知の世界にワクワクしていた。

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ウユニ塩湖の時期に合わせて東回りの世界一周にした。


世界一周3カ国目にして着いたボリビアのラパスにあるエル・アルト国際空港は、わたしの知っている「空港」とは程遠い、小さく簡素な空港で、南米に来たんだという不安とワクワクが入り混じる。

深夜に着いたので人生初の空港泊をしてみる。どこでもどんな状況下でも1分間目を閉じれば眠りにつけるという特技を持った私だったけど、不安と緊張から寝付けない。寝付けても1,2時間おきに目が覚める。朝になる頃には身体がバキバキだった。でも、嫌な気分じゃないことに自分で驚いた。旅してるな〜と、自分が旅人の仲間入りをしたようでちょっと嬉しい気持ちもあったと思う。笑


ラパスの街を一通り観光した後、バスでウユニへ向かった。海外の長距離バスもこれが人生初。カマシートと呼ばれるちょっと良いシートにしたのだが、これがそこまで値段が高くないのに想像以上に快適で、どこでも寝られる特技も功をなし、道中一度も目を覚まさずにウユニの街に到着。

翌日、ツアーに申し込み念願のウユニ塩湖へ。


SNSで何度も見てきたウユニ塩湖。

正時ちょっと不安だった。期待し過ぎている気がするけど大丈夫だろうか、「写真で見た通りだ」って確認作業で終わらないか、そんな不安を抱えながら塩湖へ向かう。


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ウユニ塩湖に着いた。


そこで目の前に広がったのは、写真で見ていたあの景色のままだった。


写真で見るのと違うのは、その景色が360度で目の前に広がっていて、ウユニの風、匂いをも感じていること。思ったより寒かった。そして写真で見た時とは比較にならない程の感動を覚えた。


見えるのは空と地平線だけ。
足元にも遥か彼方まで空が広がっている。


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人は感動する景色に出会うと言葉が全然出てこないらしい。終始「すごい」しか言っていなかったと思う。本当にすごかった。何がすごいって、全てがすごいのである。涙が出てくる。


この息を飲むような美しい景色をわたしは一生忘れない。


日本はとても便利な国だし大好きな国だけど、何だかちょっと息がしにくくなっていたのかもしれない。そんな事を絶景のど真ん中でぼんやり考える。

オシャレに興味無いのに、周りの目が気になって無理に着飾っていた。財布やカバンは何となくブランド物を欲しがった。

臨床検査技師という道を選んだのも、周りからの評価を気にしていたからなのだ。

ただ、ここではそんな事は気にしなくて良い。ありのままの自分でいられる。



この世界にはウユニ塩湖のように、わたしの知らない世界がまだまだ沢山あるのだろう。
これから訪れる場所には、どんな素晴らしい景色や人が待っているのだろう。
考えるだけでワクワクするし、早く次の場所に行きたい気持ちが抑えられない。


だから私は旅をやめられない。


次はここへ乾季に来たい。
塩湖の水は枯れ、見渡す限り真っ白な大地が広がるらしい。空気が澄んで、満点の星空が広がるらしい。

そう教えてくれたウユニ塩湖のガイドさんの顔は、とても誇らしげで眩しかった。


あれからもうすぐ3年が経とうとしている。

世界中を旅して、日本の魅力に気付いた。息がしにくくなっていたはずの日本が大好きになっていた。自分の国を誇りに思えるって良いなぁってあの時思っていたけれど、今なら「1番好きな国は?」と聞かれたら「日本」と答える。


それでもまた海の向こうへ旅に出るだろう。

私は旅をやめられない。




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