みなし入院をめぐる騒動とアンダーライティングの重要性
9/1に生命保険協会から発出されたニュースリリースにてコロナ感染による自宅療養に対するみなし入院に対する保険金支払基準の変更の通知があり、保険会社各社はこれに従い(各社判断で)高齢者や妊婦などの高リスクの被保険者を除いて、これまで通りの入院基準に戻すという動きが報道されています。
このニュースリリースには、そもそも現在の運用について以下の説明があります。
現行約款において、入院とは「医師による治療が必要であり、かつ自宅等での治療が困難なため、病院又は診療所に入り、常に医師の管理下におい て治療に専念すること」と定義されており、自宅療養は形式的に該当しないが、柔軟に解釈した結果これまで支払対象としてきたと理解できます。
本件については、保険会社から見れば金融庁からの要請に対応するという政治決断であり引受の問題では無いとの意識が強いようですが、結果的には最も重要視すべき顧客からの信頼を失いかねない事態となっている事は看過できません。
保険会社における引受基準、内容、約款を定めるアンダーライティングは、引受ポートフォリオのリスクの均一性、分散性を維持し、大数の法則に従い安定的な成績を維持していく最も重要なファンクションですが、リスクは動的に変化をしていくので、常に先を見越した対応を考えていかねばなりません。
特に支払基準を定める約款文言定義は非常に重要であり、保険会社のみならず被保険者も細心の注意が必要となります。例えば、企業の契約する賠償責任保険においては、免責事項に「航空機に関連する事故に伴う賠償責任」があります。航空機に関連するリスクは航空保険で引き受ける為の分野調整ですが、ではドローンは航空機なのか、無人ヘリコプターはどうか、など技術の発展と共に新しいリスクの登場、ボーダーラインの変化が起こり得ますので、先を見越した約款対応が不可欠です。
翻って、入院の定義を考えた時に、①パンデミックの発生は予想されていた、②病床数には限りがあり入院可能な人数には限度がある、つまり平時ならば入院対応だが、物理的に不可能なので自宅療養という事態に対する事前準備が不足していなかったか、支払対象とすべき事象の定義が十分であったのか、良く検証が必要であると考えます。
リスクを引き受け、無形のサービスを提供する対価として保険料収入を得る保険会社にとって、引受リスクの精査とそれを具現化する約款作成、すなわちアンダーライティングは間違いなくコア機能です。今回の一件を通じ改めてその重要性を痛感した次第です。