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みなし入院をめぐる騒動とアンダーライティングの重要性

9/1に生命保険協会から発出されたニュースリリースにてコロナ感染による自宅療養に対するみなし入院に対する保険金支払基準の変更の通知があり、保険会社各社はこれに従い(各社判断で)高齢者や妊婦などの高リスクの被保険者を除いて、これまで通りの入院基準に戻すという動きが報道されています。

このニュースリリースには、そもそも現在の運用について以下の説明があります。

新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、2020年4月10日付で金融庁より生命保険協会等に対して「新型コロナウイルス感染症に関する保険約款の適用等について」が発出され、「保険契約者等保護の観点から、前例にとらわれることなく、柔軟な保険約款の解釈・適用や商品上の必要な措置を検討していただきたい」との要請を受け、保険約款の文言には形式的には該当しないものの、保険会社の社会的使命に照らして保険約款を柔軟に解釈した特例措置として、新型コロナウイルス感染症が確認された方のうち、宿泊施設や自宅等で療養している方も同給付金等の支払対象としている保険会社があります。
生命保険協会ニュースリリース

現行約款において、入院とは「医師による治療が必要であり、かつ自宅等での治療が困難なため、病院又は診療所に入り、常に医師の管理下におい て治療に専念すること」と定義されており、自宅療養は形式的に該当しないが、柔軟に解釈した結果これまで支払対象としてきたと理解できます。

本件については、保険会社から見れば金融庁からの要請に対応するという政治決断であり引受の問題では無いとの意識が強いようですが、結果的には最も重要視すべき顧客からの信頼を失いかねない事態となっている事は看過できません。

保険会社における引受基準、内容、約款を定めるアンダーライティングは、引受ポートフォリオのリスクの均一性、分散性を維持し、大数の法則に従い安定的な成績を維持していく最も重要なファンクションですが、リスクは動的に変化をしていくので、常に先を見越した対応を考えていかねばなりません。

特に支払基準を定める約款文言定義は非常に重要であり、保険会社のみならず被保険者も細心の注意が必要となります。例えば、企業の契約する賠償責任保険においては、免責事項に「航空機に関連する事故に伴う賠償責任」があります。航空機に関連するリスクは航空保険で引き受ける為の分野調整ですが、ではドローンは航空機なのか、無人ヘリコプターはどうか、など技術の発展と共に新しいリスクの登場、ボーダーラインの変化が起こり得ますので、先を見越した約款対応が不可欠です。

翻って、入院の定義を考えた時に、①パンデミックの発生は予想されていた、②病床数には限りがあり入院可能な人数には限度がある、つまり平時ならば入院対応だが、物理的に不可能なので自宅療養という事態に対する事前準備が不足していなかったか、支払対象とすべき事象の定義が十分であったのか、良く検証が必要であると考えます。

リスクを引き受け、無形のサービスを提供する対価として保険料収入を得る保険会社にとって、引受リスクの精査とそれを具現化する約款作成、すなわちアンダーライティングは間違いなくコア機能です。今回の一件を通じ改めてその重要性を痛感した次第です。

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